珈琲は一日二杯まで

あずの気が向いたときに気が向いたことを書く場所です

ゲームのことを書いたり、絵を描いたり、漫画を描いたり、小説を書いたり、適当に何でもありな趣味のブログです。

竜連れ6-4

 
「竜を連れた魔法使い」
目次
 あらすじ
 第一話 沈まない太陽 (1) (2)
 第二話 手に入れた力 (1) (2) (3)
 第三話 竜たちの覚醒 (1) (2) (3)
 第四話 エルフの族長 (1) (2) (3)
 第五話 レッド・グー (1) (2) (3) (4) (5)
 第六話 不死の支配者 (1) (2) (3)


 第六話 不死の支配者 (4)

 ギシッと音がした。
 部屋がほんの少しだけ揺れたことに気づいたのは、床の上で目を覚ましたばかりのマティだった。

   *

「やっぱり、魔法は使えんのか?」
「ええ……」
 リュシアスの問いに、レイウルフがかすれた声で答えた。何度も魔法を詠唱したせいで、喉《のど》がカラカラだ。〈品浮《レビテート》〉、〈離位置《テレポート》〉、〈衣蔽甲《シールド》〉、〈燐射火囲包《ファイアボール》〉、〈単矢緒《マジックミサイル》〉、〈薬杯《ヒーリング》〉……レイウルフが覚えている限りの魔法を詠唱してみたが、何度唱えても同じことだった。
「実はな……」
 銀髪のドワーフがイライラしていた。
「村に入ってから、ビャッコには〝伝声管〟で三十分毎に連絡を取るように言ってあったんだが……この納屋に放り込まれた頃から、まだ一度も連絡がない」
「……もう二時間は、たっていますね」
 木の板が釘打ちされただけの壁の隙間から、外の冷たい光が幾筋も入り込んでいる。
「あいつに何かあったんだ。そうとしか思えん。カイリは何をやってるんだ!?」
 ブラウニー製の縄で身体中をグルグル巻きにされたまま、リュシアスがもぞもぞと動き始めた。芋虫のように這いつくばってでも、脱出を試みるつもりだ。だが、頑丈に縛られた縄は、身体を折り曲げることさえ許さず、ただ湿ったワラの上を転がるだけだった。
「……くそ!」
 怒るリュシアス。レイウルフが、うつむくように自分の身体に巻きつく縄を見おろして、つぶやいた。
「……ただの村だと思って、甘くみていました。これは、最悪の事態かもしれません」
「どういうことだ?」
 ゆっくりと答えるレイウルフ。
「……カイリも魔法が使えないとしたら、ただの青年です。すでにハイランド・ホークに殺されていてもおかしくありません。そうでなくても……噂の王とやらが現れて……」
「…………」
 リュシアスが、もう一度「くそ!」と叫んだ。

   *

 床で起き上がったマティに、カイリが静かに声をかけた。
「ようやくここまで広がったみたいだ。……村を出るから、縄をほどいてくれないか」
「え……は、はい」
 事態を飲み込めないまま、マティが返事をした。魔法を使えないカイリの目が、あの冷徹な光を宿している……。
 壁際に倒れているアンジェリカ。その近くで棒立ちになっているハイランド・ホークの四人。血の塊となった男の死体が一つと、血まみれの少女が床に倒れている。部屋の隅にはチャイナドレスの女と、初老の男――。
 その男の顔を見て、マティが固まった。
(……え?)
 男が腕を伸ばした先に、別の美しい女性が立ち止まっていた。
「どうした、早く来い」
 王に呼びつけられたランファが、まるで誰かに足首をつかまれているような動きを見せた。動けないのだ。その不審さに王が気づいた。
「それは……」
 ランファの右足首に巻きついている木の根に王が気づくのと、カイリの叫びが同時だった。
「やれ、ドライアード!」
 びくっとセイリュウが反応した時には、もう遅かった。
 何本もの尖った太い木の根が、天井と床をぶち破って、上下から王の身体を貫いた。初老の身体は捻《ね》じれ、引きちぎられて鮮血と肉片が床に飛び散る。王がいた空間には、今や上下から伸びた太い木の根が絡み合う血まみれのオブジェが存在していた――。
 うむを言わせない一瞬の出来事だ。
「や……やったのか……?」
 アンジェリカが、震える身体を起こしていた。ハイランド・ホークのエシィが、アンジェリカに駆け寄って上半身を支えた。
「やりやがった、あいつ……」
 縄から逃れたカイリが、服についた埃を払っている。

 次の瞬間、歓声をあげかけたハイランド・ホークの一人が、その場で動けなくなった。部屋の中が、再び恐怖の感情に満たされたのだ。全員の視線が、紺のチャイナドレスを身に付けた女性に集中する……。
 カイリが声をかけた。
「セイリュウ……君を連れて行く。俺が新しい君の主人だ」
 しばらくカイリと目を合わせていたセイリュウが、ゆっくりと首を横に振った。
「私の主人は、カイ・リューベンスフィアです。彼が死ぬまで……」
「だから、俺が……何だって?」
 セイリュウの言葉を、すぐに理解できないカイリ。その横で、宙に浮いたマティが震えていた。
「そんな……はずが……」
 真っ青な顔を覆うように持ち上げられた両手。見開かれた黒い瞳。
「本当に……師匠《マスター》……」
 マティの言葉に、セイリュウがきっぱりと言った。
「私の主人は、初代カイ・リューベンスフィア。……まだ、生きています。いえ……」
「師匠《マスター》は死んだわ! 私の目の前で、最後の魔法を残して!」
 ヒステリックに叫ぶマティ。カイリが、これほど取り乱したマティを見るのは初めてだった。
 マティが言う最後の魔法とは、彼女が最初にカイリにかけた魔法……〝この世界の言葉が話せるようになる魔法〟のことだろう。カイリの知る限り、そんな役名《コマンド》は存在しない。初代カイのオリジナル魔法ということだ。
 セイリュウが再び首を横に振った。
「……いえ、カイは死にません。不死なのですから」
「なん……だと……」
 ヨロヨロと立ち上がるアンジェリカ。帽子が床に落ちて、美しい金髪の間に覗いた顔を歪めている。太い眉が寄せられ、泣きそうな表情だった。
「そんなことがあってたまるか! あいつのせいで、民が……ヒューマン族が、どれだけ苦しんでいると思ってるんだ!?」
「……私には関係ないことです」
 冷めた返事だった。そして、セイリュウの足元が赤く光る。とっさにカイリが叫んだ。
「守れ、ドライアード!」
 ガラガラと二階建ての宿屋が倒壊した。セイリュウという女性の姿が消え、蒼いウロコがキラキラと太陽の光を反射する巨大なドラゴンが出現した。ビャッコの二倍近い大きさだ。大型旅客機並みである。
 蒼竜が大空へ舞い上がる。ガラガラと瓦礫が降り注ぐ地上では、ドライアードの枝で造られた大きなカゴに守られたカイリ達が空を見上げていた。セイリュウが飛び去る空は、南南西……カイリ達が目指している方向だ。
 ゆっくりと、木の枝でできたカゴがほどけていく。全ての枝が地下に消えると、カイリの肩にドライアードが姿を見せた。
「……お疲れさま。念のためとはいえ、村中に根を這わせるのは大変だったろう」
 カイリの言葉に、ドライアードが笑った。
「ハイ。シバラク、ネマス。オヤスミナサイ」
 すぐに眠りに落ちた褐色肌の小人を、カイリは内ポケットに移した。そして、精気が抜けたように呆然としているマティに声をかける。
「みんなを迎えに行くよ。王の言葉も気になるしね」
 王は言った。きさまがアテにしている竜どもは、今頃死んでいるかもな――と。
 いつの間にか、ハイランド・ホークの連中は消えていた。代わりに、村長たちが瓦礫が散らばった道の上に立っている。
「何も変わらんのじゃ……今までも……これからも。早く、村から出ていってくれんか」
「そのつもりです」
 村人たちの向こうでは、ランファとリンファを守るようにダイキが立っていた。気を失っていたリンファが意識を取り戻して、ランファと抱き合っている。それを見て、目を細めるカイリ。
(変えるさ……セイリュウを手に入れなければ、この世界を救えないんだ……)
 
   *

「びっくりした。ビャッコ姉と同じ技をくらったんだもん」
 スザクの言葉に、ゲンブが応えた。
「あんなに苦しいとは思わなかったわ」
「自分がくらうとは、思いませんでしたわ」
 ビャッコは未だに気分が悪そうだ。
 カイリの一行が、村はずれで勢ぞろいしていた。スザク達の話によれば、それぞれ突然大きな水の塊に閉じ込められ、その中で真空の泡に包まれたのだという。
「あの人が来てくれなかったら、本当に死んでいたと思う……ゾッとしちゃうよ」
「スザクは姿を見たんだね。私とビャッコ姉さんは見てないんだ」
「あの……リュシアス……そろそろ離れて……」
 ビャッコの腰にしがみついていたリュシアスが、ようやく離れた。その顔は涙まみれだ。
「良かった……無事で、本当に良かった」
 それを見て、レイウルフとマティが笑っている。
 突然カイリの目の前を、身体が透けた小さな妖精が横切った。マティに似た翅を持っている。他にも、赤い小さなトカゲや、老人姿の小人。地面に置かれた壷からは、下半身が魚の小人が顔と尾びれを見せている。茶色のボロ布を身に付けた小人もいた。
「こいつら全部、その人が置いていったって言うのか?」
 カイリの質問に竜たちが答える前に、遠くから声が掛けられた。
「来い、シルフ!」
「来い、サラマンダー!」
「来い、ノーム!」
「来い、ウンディーネ!」
 妖精たちは、すぐに反応して移動したが、ウンディーネだけは困った顔をしただけだ。暗い顔の男がそっと近づいて、壷を拾っていった。一緒に来た金髪の女性が声をかけた。
「行くぞ、ブラウニー」
 走り寄る茶色のボロを纏《まと》った小人を拾い上げると、アンジェリカが再び帽子を深くかぶった。
「どういうわけかは知らんが、我々の〝力〟を取り戻してくれて感謝する」
「いえ、俺たちは何もしていません」
 正直に答えるカイリ。アンジェリカが綺麗な指先でマフラーを押し下げると、その口元が微笑んでいた。
「いろいろ、すまなかったな。君が連れているドライアードは、死んでしまったディールのものだ。君が引き継いでくれ」
「…………」
 また会うこともあるだろう――そう言って、アンジェリカ達……ハイランド・ホークは去っていった。

「俺達も行こう」
 もう少し先に進んでから、〈離位置《テレポート》〉でエステルの簡易住居に帰るつもりだ。一度訪れた場所までは、翌朝にでも一瞬で〈離位置《テレポート》〉できるのだから、少しでも進んでおきたい。
 村に入った時と同じような柵があり、それを南に抜けた。魔法力が復活するのを感じて、ホッとするカイリ。この先魔法が使えないとなれば、さすがにきついからだ。
 そして思い出す。王……初代カイ・リューベンスフィアは言った。
 ――なんだ、お前たちか……サルネイアに力を取られて、大人しくなったと思っていたのだがな……。
 アンジェリカ達に向けられた言葉だ。サルネイアとは、カイ・リューベンスフィアの屋敷が燃え落ちた後に、最初に出会ったエルフ族の女性と同じ名前である。あの時……カイリの汎数《レベル》4の魔法を目にしながら無防備に出現した。その自信の源《みなもと》は、王のバックアップだったのだろうか? その彼女が、ここに現れたのだとしたら……一体、何のために? 
(レイウルフと後で話してみよう。何か知っているかもしれない……)
 カイリの横で、赤い巻き毛の少女が歩きながら考えごとをしていた。
(不思議な力を使う人だったな……。あんな力を使える人が、この世にいたなんて……)
 太陽は変わらず、東の地平線に貼り付いている。向かう先は南。そこに、テラ・フォーミング装置の制御設備があるはずだ。――カイリの顔が引き締まった。

 ~第六話完、第七話へ続く



コメント

あの悪役は初代だったんだ・・・
一つ前のカイだと思ってました。

それにしても不死とは!
その謎解き楽しみにしてます。

◆Leppardさん
初代と先代って、読み間違えやすいかも( ̄▽ ̄;
もっと話の中で意識してもらえるようにならないとダメですね。
今回はまだ後半戦の伏線張りが多いですが、これから終盤に向けて一気にいきたいものです(希望)。

わたしの中では6-1から「王」=初代でした。
むしろ先代は影が薄くて
「王」とつながるところがなかったのですが
読み返してきます。

村で魔法が使えない謎はそのまま先送りで、
さらにサルネイアらしい人物が竜達を助けたこと。
奪った力(使い魔?)を返していったことなど
今までの行動を合わせると、一層混乱します。
なにがしたいんだろう???

梅雨も明けて暑さも本番といったところでしょうか。
サシュさんも御体に気をつけて、お過ごしください。

◆Aryuさん
初代、先代に関して、よく読み込んでくださっていて、ありがとうございます。
そこまで読んでくれている方は心配なくて、作者としてはもっとライトな読者さんにも誤解させない書き方ができなきゃなぁと思っています( ̄▽ ̄;
サルネイアについては、今そこまで混乱してくださっているということは、バラバラに置いてきた伏線を覚えていてくれているということで、むしろ終盤は読みやすいかも(?)です。
それにしても小説って難し~。
ご丁寧な暑中見舞いをありがとうございます。
Aryuさんもご自愛くださいませ。

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