珈琲は一日二杯まで

笹谷の気が向いたときに気が向いたことを書く場所です

ゲームのことを書いたり、絵を描いたり、漫画を描いたり、小説を書いたり、適当に何でもありな趣味のブログです。

竜連れ8-1

 
「竜を連れた魔法使い」
目次
 あらすじ
 第一話 沈まない太陽 (1) (2)
 第二話 手に入れた力 (1) (2) (3)
 第三話 竜たちの覚醒 (1) (2) (3)
 第四話 エルフの族長 (1) (2) (3)
 第五話 レッド・グー (1) (2) (3) (4) (5)
 第六話 不死の支配者 (1) (2) (3) (4)
 第七話 惑星の守護神 (1) (2) (3) (4)


 第八話 世界を継ぐ者 (1)

 渓流のせせらぎが心地よく響く、人里離れた山奥。そこに質素な小屋があった。小屋の中と外を隔てる木の扉はボロボロで、まぶしい太陽光が幾筋も入り込んでいる。防犯の役目は果たせそうにない。その扉を勢いよく開けて、一人の少女が小屋に飛び込んできた。
「じーちゃん……!」
 六歳になる少女の泣き声には切羽詰まるものがあり、目には大粒の涙が浮かんでいる。床についていた老人が、驚いて起き上がった。
「どうしたんじゃ、サルネイア?」
「痛い! 痛い!」
 少女が顔の前に付き出した人差し指が、普段の二倍に膨れ上がっている。
「あの藪には、入っちゃいかんと言ったじゃろう。近くにオオタカバチが巣を作っておるでな」
 やれやれと言いながら、少女の腫れた指を観察する老人の眼差しは優しい。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
 今や顔を歪めて、涙をポロポロとこぼす少女。二人とも耳が尖ったエルフ族だ。
「お前は、好奇心が強いからなぁ……いつかは、入ると思っておったがな」
 老人が〈薬杯《ヒーリング》〉の魔法を唱えた。汎数《レベル》1の魔法だ。サルネイアの指から毒が抜け、元の大きさに戻っていく。
「これくらいなら、じーちゃんの魔法でなんとかなるがな。汎数《レベル》2以上の魔法は使えんから、くれぐれも大ケガはせんようにな」
 少女がコクリと頷いた。

   *

 屋根にできた隙間から、満天の星の一つがその輝きを覗かせている。床に敷かれた二つの汚れたマットの、大きい方に老人が、小さい方に少女が寝ている。大きな虫の音の一つが止まった時、サルネイアが言葉を発した。
「ねぇ、じーちゃん……」
「なんじゃ?」
 少女の真剣な声に、老人がいつもの調子で答えた。しばしの沈黙の後、サルネイアがゆっくりと呟《つぶや》いた。
「私、里に行ってみたい。じーちゃん以外の人にも会ってみたい」
「…………」
 ごろりと身体を老人の方に向ける少女。
「……行ってみたいんだもん!」
「……ダメじゃ」
 少女が駄々をこねるように、何度も行きたいと叫ぶが、老人は無視した。そしてとうとう少女が泣きだし、やがて泣きやんでから、老人が言葉を漏らした。
「……お前に話すには、まだ早すぎると思うがな。これから時々話してやるとするかな」
 それから毎晩のように老人が語る長い話を、少女はおとぎ話として聞いた。それは、長い長い血筋の物語。
「その家系は代々、魔道士隊に一流の戦士を輩出してきた魔法一家じゃった。赤ん坊の頃からの英才教育で、誰もが汎数《レベル》2までの魔法を成人する十二歳までに覚えておった。じゃが……」
 その家系に時々生まれる特殊な存在がいた。汎数《レベル》3の魔法をいくつ覚えられるかを競う兄弟の中で、汎数《レベル》1までの魔法しか覚えられない落ちこぼれ。いや……その呪文自体は、他の兄弟と同じかそれ以上に流暢に聞こえるにも関わらず、けして汎数《レベル》2以上の魔法が発動しない呪われた子。
「それだけではない。そういう子には、必ずもう一つの特徴があったのじゃ」
 それは、けして他人に知られてはいけない特徴だった。なぜならそれは、エルフ族の間で〝悪魔憑き〟と呼ばれる忌み嫌われる力だからだ。だからその家では、赤ん坊が生まれると、その特徴が発現しているかどうかを、まず確かめた。
「どこでも良い……多くの場合は髪に、汎数《レベル》1の攻撃魔法を撃ってみるのじゃ。髪が焦げたり切れたりすれば、問題ない。じゃが……もしも無傷であったなら……その子は、悪魔憑きじゃ」
 あらゆる攻撃魔法を無効化する特殊体質。それが悪魔憑きであり、それが明るみに出れば、その子自身も、その家族さえも日陰者として暮らしていくしかない差別の対象であった。
「悪魔憑きが生まれることなど、稀じゃ。エルフ族全体の中でも千年に一人、生まれるかどうか……と言われておる。じゃが、その家系は違った。ほとんど一世代おきに一人生まれるのじゃ。じゃからこそ、赤ん坊が生まれると、悪魔憑きのテストが行われた。そして、悪魔憑きと判断された子は……」
 老人が、少女の髪を撫でた。少女はすでに、安らかな眠りに落ちていた。

   *

 サルネイアが十歳の時――ヒューマン族で言えば、すでに十六歳の外見だった――事件は起こった。
 朝から山菜を集めに森に入っていたサルネイア。小屋への帰り道で、彼女の長い耳がピクリと動いた。歩いていた細い山道から、そっと横の草むらに入り、木の陰に身を潜める。葉ずれの音と、遠くの川のせせらぎがかすかに聞こえる。やがて人の足音と声が近づいてきた。
「……っかりだな」
「ちょっとしたストレス解消には、なったぜ」
「そうだな、魔道士隊の奴らめ……魔法を覚えていねぇからって、弓隊の俺らをいつも見下しやがって」
 サルネイアと老人が暮らす小屋の方から、エルフ族の男達三人が歩いてきた。びっくりするサルネイア。老人以外の人間の声を聞くのは初めてだった。
「禁断の山には〝悪魔憑き〟の美女が棲んでいる……なんて噂、デタラメだったなぁ。〝悪魔憑き〟なら人権もねぇし、大した魔力も使えねぇ……俺らが好き放題したって、罪にはならねぇって算段だったのになぁ」
「いたのは、じじぃ一人だったもんなぁ。むかついてボコボコにしちまったけど……死んだかなアレは」
「構わねぇだろ……悪魔憑きなら問題ねぇし、そもそも禁断の山に暮らしてるような……」
 ガサガサと草を掻き分ける音が、彼らから遠ざかって行った。一瞬驚いた彼らだったが、すぐに気にしなくなった。山を降りるには、まだ半日以上かかる。
「急ごうぜ……禁断の山に来てるのがバレると、さすがにマズイ」
「ああ……」
 そう言いながらダラダラと歩くエルフの男達は、三人とも二十歳くらいに見える。彼らの近くの草むらに、放り出された山菜が散らばっていることに、気づく様子はなかった。

 必死に山道を駆けるサルネイア。小屋まではすぐだった。
 最近の老人はすっかり弱っていて、ほとんど寝たきりの状態だった。老人の優しい笑顔と、たった今聞いた恐ろしい話が、頭の中でうまく結びつかない。早く老人に会いたかった。
「じーちゃん……!」
 小屋の戸が勢いよく開いた。中の暗さにすぐに目が慣れて、サルネイアは動かない老人に駆けよって、ヒザをついた。
「……じーちゃ……」
 顔も腕もアザだらけの老人のまぶたが、震えながらゆっくりと開いた。
「サルネイ……ア……大丈夫……奴らは、お前の存在に……気づいていな……い」
「じーちゃん!」
 腕と脚が変な方向に曲がっている。身体中、骨折しているのだ。
「約束して……おくれ……けして……山を降りないと……」
「うん、うん、約束するよ、じーちゃん。私、どうしたらいいの? どうしたら、じーちゃんを助けられるの?」
 無言の老人が、優しく微笑んだ。
 ……そして動かなくなった。

 生命《いのち》の火が消えた老人の顔を、しばらく見つめていた。それからゆっくりと立ち上がって、サルネイアは老人が残してくれたもののことを考えた。
 食料の調達法、小屋の修理の仕方、服や靴の作り方……どれも、今のサルネイアにはどうでも良かった。それから……四つの汎数《レベル》1の魔法。〈薬杯《ヒーリング》〉と、それから……。
 小屋の中に、サルネイアが詠唱する呪文が流れた。
「……〈離位置《テレポート》〉」
 老人を埋葬する前に、サルネイアには、やることがあった。

   *

 数回の〈離位置《テレポート》〉で、サルネイアは、まだ遠くまで行っていない三人組の男達を見つけた。歩きにくい山道を面倒そうに歩く彼らの後方に、サルネイアが最後の〈離位置《テレポート》〉で姿を現した。
「……じーちゃんに、何の恨みがあったっていうんだ?」
 いきなり背後から声をかけられた三人組が、ゆっくりと振り返った。
「……おい」
「……いたぜ、思ったより幼いが……」
「噂が、真実となった瞬間だな♪」
 みすぼらしい服装は、里の娘でないことを露呈していた。服や靴はボロボロだったが、ブラウンの髪はきれいに手入れされ、肌も清潔さを保っている。何より、意志の強さを示す双眸が美しい。
「恨みか……恨みはねぇが、お前みたいな美少女を、山奥に閉じ込めて一人で楽しんでいたロリコンじじぃを、成敗したってトコロかな」
「ああ、正義の味方だぜ、俺たちは」
「悪のじじぃから美少女を救った俺達……カッコイイよなぁ」
 サルネイアの眉がつりあがり、目が細められた。男達は、サルネイアを囲むように、ゆっくりと広がる。汎数《レベル》1の魔法など怖くはないが、〈離位置《テレポート》〉で逃げられる恐れがある。押さえ込んで口を塞ぐつもりだ。
「下衆《げす》野郎ども……」
 サルネイアが唇を噛んだ。心の内に広がる憎しみは、少女の年齢相応の容量をとっくに超えていた。この男達だけは、絶対に許さないと誓っていた。
「〈燐射火囲包《ファイアボール》〉!」
「うぁっち!」
「くそ!」
 小さな火の玉が、手を伸ばした男達の指を火傷《やけど》させた。その隙に、山道を走って逃げる少女。
「あの歳で事前詠唱とは、生意気だな」
「やってくれるぜ、だが……」
「子供だな……小屋まで一本道……逃げようがねぇっての」
 下品な笑いを漏らすと、全速力で走り出す男達。すぐに少女に追いつきそうである。
 やがて男達は、少女が道をそれて草の中に飛び込むのを見た。
「小屋まで走っても、逃げ場がなくなるだけだと、気づいたみてぇだな」
「追いつかれると思って、隠れたんじゃねぇか?」
「見失うかも知れねぇ、急げ!」
 まるで肉食動物のように獰猛な動きで少女を追う男達は、少女が飛び込んだ藪に突っ込んだ。
「痛っ」
「何だ?」
 身体の一部に激痛を感じて、男達がひるんだ。目の前に、サルネイアが立っている。こちらを向いて、腕を組むその顔は無表情だ。すぐに、ブーンという不気味な音が響きわたった。
 言葉を失う男達――。視界があっという間に黒い霧に覆われた。独特の異様なうねりが、黒い霧の正体が大きなハチの大集団であることを理解させた。
「オオタカバチって知ってる? 三回続けて刺されると、即死するんだって」
 淡々と語る少女。〈衣蔽甲《シールド》〉の魔法があれば、刺されないけどね……そんな言葉は、すでに男達に届いていなかった。藪の奥の木のウロにある高さ一メートルの巨大な塊は、オオタカバチの巣だ。そこに荒々しく近づいた侵入者を、ハチ達が許すはずがなかった。
 響き渡る男達の絶叫。それを、少女は涙を流して聞いていた。
「仇はとったよ、じーちゃん……私、これから一人で、どうしたらいいの……?」
 禁断の山が、ただ何も言わず、少女を包んでいた……。

 ~(2)へ続く


コメント

サルネイアの悲しいお話しですね。
でもこの事件がサルネイアの野心になんらかの影響をあたえたんだと
想像しました。

どんな攻撃魔法も無効化するけれど、蜂に刺されれば普通に腫れて痛い。
発動させられる魔法はLV1のみ・・・
このピースだけでは、まだ「王」が一目置いていた理由が想像できません。

おじいさんはサルネイアの一族の何世代か前の祖父母の兄弟なのでしょうね。
そして、サルネイアの父母や兄弟姉妹はエルフの里で暮らしている。
これがこの後の物語のカギになるのかなー?

◆Leppardさん
サルネイアの物語はもう少し続きます。

◆Aryuさん
当初の予定では、サルネイアがこの小説のクライマックスを締める最重要人物のはずだったのですが……w
ブラン・カースの時もそうでしたが、最初に思い描いていた最後のシーンは、なくなってしまいました( ̄▽ ̄;
たぶんその方が良いのです。

コメントの投稿


管理者にだけOK


管理者に連絡する(メールフォーム)
※コメントを投稿できない場合にご利用ください。管理者からの返信はできません。
トラックバックURL

HOME

カウンタ

  • 閲覧/訪問数 since 2005
    hits / visits

最新の記事
最近のコメント
カテゴリ
月別アーカイブ

リンク
プロフィール

  • Author:笹谷周平(ささ)
  • 誤字、脱字、リンクミスにお気づきの場合は、コメント欄にてお知らせいただけると助かります。

最近のトラックバック
商標/著作権等