珈琲は一日二杯まで

笹谷の気が向いたときに気が向いたことを書く場所です

ゲームのことを書いたり、絵を描いたり、漫画を描いたり、小説を書いたり、適当に何でもありな趣味のブログです。

竜連れ8-2

 
「竜を連れた魔法使い」
目次
 あらすじ
 第一話 沈まない太陽 (1) (2)
 第二話 手に入れた力 (1) (2) (3)
 第三話 竜たちの覚醒 (1) (2) (3)
 第四話 エルフの族長 (1) (2) (3)
 第五話 レッド・グー (1) (2) (3) (4) (5)
 第六話 不死の支配者 (1) (2) (3) (4)
 第七話 惑星の守護神 (1) (2) (3) (4)
 第八話 世界を継ぐ者 (1)


 第八話 世界を継ぐ者 (2)

 サルネイアと老人を襲った三人組について、街ではある噂が広がっていた。彼らが行方不明になる前に、頻繁に〝禁断の山に棲む悪魔憑きの美女〟の話を仲間内でしていた――と。それにも関わらず、彼らの捜索を禁断の山まで広げる許可は下りなかった。それに対して、三人の両親たちが不服を申し立てることもなかった。何があろうと、禁断の山は立ち入り禁止……それがエルフ族に伝わる掟《おきて》であることは確かだ。だが実際には、それ以上の理由があった。
 禁断の山への捜索を許可しなかったのは、族長のエステルだった。彼女は、今回の事件を自分の目で確かめることにしたのだ。そのことを知るのは、上層部……六人の首席神官と神殿護衛隊の女隊長ルチス、森林防衛隊隊長カシムのみであった。エステルは一人で禁断の山へ行くつもりだったが、ルチスとカシムが同行するとの主張を断りきれなかった。
 三人組の両親たちが不服を申し立てなかったのにも理由があった。彼らはエルフ族の中でも名の知れた富豪一族であり、非公式に私設の武装組織を持っていた。もし息子達が禁断の森で発見されれば、一族にとって不名誉なことになる。公務の者達よりも先に息子達を見つけるつもりだったし、もし殺されたのであれば、犯人を捕らえて、自分達で思う存分なぶり殺しにすることで、復讐を果たすつもりだった。
 こうして公には知られることなく、禁断の山カラジャスの大規模な捜索が展開された。

   *

「何があるのですか?」
「何のことだ?」
 森林防衛隊隊長カシムの問いに、エステルが切り返した。エステルとカシム、そして神殿護衛隊隊長ルチスの三人が、禁断の山の入口から少し離れたところにいた。彼らの目の前で不気味にそびえるカラジャス山。皆が寝静まる時間帯だが、山は沈まない太陽によって右側から照らされている。その木々の間に動くたくさんの人影が見えた。
「アナタール家、ハイエン家、ロックオス家……南の貴族御三家の私設軍隊〝パンテラ〟によるカラジャス山の非合法な捜索活動……これについては、お前にも報告が入っているはずだろう、カシム」
 赤茶髪の女隊長ルチスが、クールな眼差しをカシムに向けていた。クセのある黒髪が生えた自分の頭をガシガシと掻《か》くカシム。
「そうじゃない、ルチス」
「?」
 ルチスが不思議そうな顔をした。彼女は知っている。カシムが、その粗野な外見や行動からは想像できない思慮深さの持ち主であることを。
「〝悪魔憑き〟と〝禁断の山〟……確かに興味深い事件ではあるが、それだけならエステル様は、少なくとも私かお前にお任せくださったはずだ」
「……そうかも知れんな」
 黙ったまま禁断の山を眺めている族長の背中を、二人の隊長が見つめた。ゆっくりと口を開くエステル。
「……優秀な部下というのも、時に困ったものだな」
 振り返った族長の顔が微笑んでいた。
「このカラジャス山が、禁断の山である所以《ゆえん》を……その真の理由を、誰も知らぬ。多くの者は、何もないただの山だと思っている。ただ昔からの掟を継承しているだけだと……」
 二人の隊長がハッとした。ヒューマン族で言えば二十代半ばの美しい女性に見える族長は、実は二百歳近い。外見は同じように若く、六十歳を超えたばかりの二人に比べれば、その知識の宝庫はどこまでも深かった。
「エステル様は、ご存知なのですか……禁断とされる理由を?」
「あるのですか、禁断とされる理由が?」
 カシムとルチスが同時に同じことを口にするのが可笑しくて、白い歯を見せるエステル。
「……十八歳の時にな……禁を破ったことがあるのだ。禁断の山の秘密を知りたくてな。……神官のじーさん達には内緒だぞ」
 ニヤリとする族長を見て、二人の隊長の顔が一瞬引きつり……そして笑いに変わった。エステルは二人の信頼する部下に、その時の不思議な体験を懐かしむように話して聞かせ……最後にこう付け加えた。
「今日山に入ったばかりの奴らに、アレは見つけられんだろう……だが」
 真面目な顔で頷くカシムとルチス。族長の懸念を理解していた。もし〝禁断の山に棲む悪魔憑きの美女〟が実在するなら……若かりし頃の族長と同じ体験をしている可能性があるのだ。

   *

 オオタカバチの巨大な巣が、炎に包まれてバチバチと音を立てて燃えている。地面には、十数人から一斉に〈一気通貫《ライトニング》〉の魔法を浴びたオオタカバチの死骸が転がり、黒い絨毯を作っている。その中に、まだほとんど腐敗していない三人の死体があった。
「事故か?」
「事故だろう」
 ハチによる刺し傷以外に外傷がないことを確認した男達が、話し合っている。私設武装組織〝パンテラ〟の隊員達だ。探していた三人に間違いないことは、所持品等から確認済みだった。そこへ、顔に大きな傷跡があり、エルフ族にしては体格のいい男が現れた。連絡を受けた隊長だった。
「……山道を外れて、わざわざオオタカバチの巣の前に、飛び込んだって言うのか?」
「それは……」
 男達が言葉に詰まっていると、女性の隊員が現れた。
「分析班の者です。ここまでの足跡の歩幅と地面へのめり込み具合からすると、動物か何かを追って、たまたまここに飛び込んだ可能性がありますね」
「ばかか、お前は」
 蔑んだ視線を向ける隊長。粗野な言葉使いに、女が鼻白《はなじろ》んだ。
「オオタカバチの外敵に対する反応の速さを知らんのか? 追われた動物がいるなら、一緒にここに転がっているはずだ。第一、野生動物なら、ここに近づかん」
「し……失礼致しました」
 あきれた顔の隊長が鼻を鳴らした。
「お前らは、これだけの状況証拠が揃っているのに、わからんのか? もう一つ証拠が出れば確実に……」
 すぐに別の男が駆け寄り、もう一つの証拠についての情報が届けられた。
「隊長、この道の先に小屋が見つかりました。最近まで使われていた形跡が……」
「捜せ」
 唸るような隊長の声だった。
「他殺と断定する。三人を殺した犯人は、この山にまだ潜んでいる。そいつを捕らえて、連れ帰るのが俺たちの仕事だ。なるべく殺すなよ……急げ」
「はっ!」
 命令は分団長クラスに伝達され、組織的な山狩りが始まった。 

   *

「くそ……なんだよ。どうして急に、里の人間たちが……」
 山の高台の木の陰から、十歳の少女がパンテラの動きを見おろしていた。森の木々がざわめいている。すでに埋葬を済ませた老人から、山を降りるなと言われてはいたが、向こうから登ってきた場合はどうすればいいのか……。 
「隠れなきゃ」
 サルネイアが、そう呟いた時。一本の矢が左腕を貫いた。いたぞ――そんな声が、下の方から聞こえる。矢という武器のことは知っていたが、これだけの距離を飛んでくるとは思っていなかった。激しい痛みが、左腕を襲う。
 ――毒……が塗られている……本気で殺す気だ。
 どっと冷や汗が出た。隠れていたつもりが、簡単に見つかったことに驚いた。訓練された弓使いの目と技術を、子供のサルネイアは知らなかった。そして、それ以上に恐ろしかったのは……。
「じーちゃん……助けて……」
 たくさんの人間に敵意を向けられる虚ろな恐怖に、足がすくむ。それでも左腕を押さえて走り出したのは、生まれ持った強気の性格のおかげだろうか……。
 ただ走るサルネイア。自分に向かって攻撃魔法が放たれたことにも気づかなかった。やがて走るスピードが落ち、足がもつれ……ついに、座り込んだ。ゼエゼエと息が切れて、前のめりに倒れる。顔が紫色に変わっていた。
「毒……死んじゃう……私……もう……」
 言葉が途切れて、治癒魔法を唱えることさえ叶わない。地面にうつ伏せになったまま、身体が動かなくなった。
(じ……ちゃ……ん……)

   *

 森の中で、初老の男からパンテラの隊長に情報が伝えられていた。
「確かに、蕪毒の矢を当てたんだな?」
「はい。遅効性ですが、子供なら確実に動けなくなっているはずです。後は発見するだけかと」
 部下の報告に納得した隊長が唸《うな》った。
「早く見つけろ……できれば、毒で死ぬ前に捕らえたい」
「隊長」
 分団長の一人が顔を見せていた。
「どうした、お前の分団は手柄が欲しくないのか?」
「いえ、どうしても私の口からお伝えしたいことが……」
 耳元で小声で話す分団長の言葉を聞いて、隊長の眉が動いた。
「〈一気通貫《ライトニング》〉の一斉射撃を受けて、無傷だと?」
「はい。距離があったとは言え、あれは間違いなく……」
 〝禁断の山に棲む悪魔憑きの美女〟……気にしていなかった噂のことが、頭に蘇る。
「おい」
 去ろうとしていた初老の弓の名手を呼び止める隊長。
「相手は子供と言ったな……いくつに見えた?」
「そこまでは……成人しているようには見えませんでしたが……」
「そうか……」
 少なくとも、美女と呼ぶような年齢ではないらしい。そして悪魔憑きとなれば、その運命は決まっている……。
「命令を変更する。できるだけ速やかに殺してやれ。……生きたまま貴族に渡すのは、忍びないからな」
 悪魔付きが、特に貴族にどれほど酷い扱いを受けるのか、誰でも知っていた。
「よいのですか……生きたまま連れて来いというのが、旦那様方からのご命令だったはず」
 心配するような言葉とは裏腹に、分団長はニヤリと笑っている。
「現場のことは、俺が決める。そういう契約だ」
 隊長は無表情だった。

   *

 ごめん、じーちゃん……。私、思いつかなかった。隠れる場所を他に、思いつかなかったんだ……。
 あいつらは、〈離位置《テレポート》〉で戻ることはできても、先回りはできない。一度訪れた場所にしか〈離位置《テレポート》〉はできないって、じーちゃんが教えてくれたよね……。

 混濁する意識の中で、少女は老人に謝っていた。倒れた後、一度意識を取り戻して使った唯一の魔法が〈離位置《テレポート》〉だった。これだけは事前詠唱していたおかげで、呪文を唱える必要がなかったのだ。彼女は跳んだ。最も安全だと思える場所に。そこは老人から、近づいてはいけないと言われていた場所だった。
 大きな洞穴の中で、意識を失う直前に少女は考えた。ここには、オオタカバチより獰猛な生き物がいるのかなぁ……と。

 ~(3)へ続く



コメント

エルフは族長を頂点に、一枚板の組織なのかと思っていたのですが違うようですね。
人口が思ったより多そうなこと。
なにより驚いたのが富豪の一族がいる・・・貧富の差があるということです。

これはわたしの勝手な思い込みですが、
エルフは狩猟民族で、狩りで得た獲物を一族に分け与え
皆で生活するというイメージがあったので・・・

ともあれ、洞窟に潜むのは魔女なのか、獰猛な野生生物なのか
毒に侵されたサルネイアはどのように生き残るのか

そういえばサルネイア
「くそ……なんだよ。どうして急に、里の人間たちが……」
おじいさんは丁寧な話し方をしていたのに、なんでこんなに言葉が悪いのでしょうね?
山に隔離される前にそういう話し方の人たちのところにいたのかなー?
そもそも「悪魔憑き」かどうか試されるのが産まれてすぐならば、何歳の時に山に捨てられるのでしょう?
ある程度育ててから捨てるとも思えないのですが・・・

◆Aryuさん
エルフの人口は、「二十万人を超える」ということになっています。
4-3あたりで。
実は、なんだか急に小説を書く意欲が落ちていたのですが、今回は書ききれました。
これからペースが落ちたらすみません。
この前、毎週がんばって書くと書いたばかりなのにですがー。
サルネイアの言葉使いについては、確かにそうですね!
どうしてこんなに悪いのか……。
「~じゃがな」とか話しても、おかしくないのにな~。

今回もハラハラしたお話しでしたね。

次回はサルネイヤとエステルの出会いが
くるのかな?

◆Leppardさん
ハラハラしていただけたのなら、嬉しいです。
次回は、次の日曜に更新したい……です……( ̄▽ ̄;

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