珈琲は一日二杯まで

あずの気が向いたときに気が向いたことを書く場所です

ゲームのことを書いたり、絵を描いたり、漫画を描いたり、小説を書いたり、適当に何でもありな趣味のブログです。

竜連れ8-3

 
「竜を連れた魔法使い」
目次
 あらすじ
 第一話 沈まない太陽 (1) (2)
 第二話 手に入れた力 (1) (2) (3)
 第三話 竜たちの覚醒 (1) (2) (3)
 第四話 エルフの族長 (1) (2) (3)
 第五話 レッド・グー (1) (2) (3) (4) (5)
 第六話 不死の支配者 (1) (2) (3) (4)
 第七話 惑星の守護神 (1) (2) (3) (4)
 第八話 世界を継ぐ者 (1) (2)


 第八話 世界を継ぐ者 (3)

「くそ……意識を失ってやがるな。いずれにしろ俺には、どうしようもねぇが」 
 暗闇の中で反響する深みのある男の声が、そう呟いた。
「すぐそこに来ているのに……ん……誰だ?」
 彼の意識の変化を表すように、セラミックでできた壁の中央に小さな青い光が一つ灯った。宝石のように美しい青い光だが、その広く高い空間を明るく照らしだすには小さすぎる。それでも、セラミック製の人工的な壁は一面だけで、周囲が自然の岩肌に囲まれている空洞がぼんやりと浮かび上がった。
 男の声はもうしなかった。何もない空間に、小さな青い光だけが静かに存在していた。

   *

 優しく髪をなでる手の感触があった。馴染みのあるゴツゴツとした老人の指ではない。もっと滑らかで柔らかい指先に髪をすかれるのは、経験したことのない心地良さだった。
「もう大丈夫そうですね」
 健康的な肌の色を取り戻した少女の寝顔を見て、森林防衛隊隊長カシムがアゴの無精ひげを掻いた。少女のクセのあるブラウンヘアーの頭が、エステルのヒザの上でビクリと動く。目を覚まそうとしている少女の頭から手をどけて、エステルが洞窟の入口の方に目を走らせた。こちらへ歩いてくるのは、神殿護衛隊隊長のルチスだ。
「奴ら、最初の勢いは落ちていますね。隊員たちの間に諦めムードが広がっています。山に入った三人の死体を発見したようですし、朝も近づいています。撤退は時間の問題でしょう」
「そうか、ご苦労だったなルチス」
 族長の返事に頭を下げてから、ルチスが話を続けた。
「御三家の処分はいかがいたしますか? 禁断の山でパンテラを活動させたという事実は、彼らを断罪する充分な理由に……」
「そんな話は、戻ってからでいいだろう、ルチス」
 それより……と、カシムが呟いた。
「俺は、この洞窟の奥に興味がある。エステル様の許可をいただけるなら、俺もエステル様と同じ体験を……」
 エルフ族を支える二人の隊長には、いつもの落ちつきがなかった。大昔から決まっている禁断の山に足を踏み入れて数時間がたっている。しかも、族長の〈離位置《テレポート》〉によって跳んだこの洞窟は、族長が若かりし頃に訪れた場所であり、その奥には〝禁断〟の理由そのものが隠されているというのだ。その話題を避けようとしているルチスと、ストレートな物言いのカシム。その違いが、二人の性格をよく表していた。
 エステルが座ったまま少し微笑んで、まずルチスに話しかけた。
「彼らの処分はしない。ルチス……お前が以前から〝御三家〟とパンテラの存在を気にしていることも、それがエルフ族の安定を望んでの憂慮だということもわかっている」
「エステル様……」
 ルチスは、自分のセリフが露骨だったこと、その上で気持ちを汲んでくれた族長の言葉に顔を赤くした。
「だがな。パンテラに属するのは、お前やカシムの隊で問題を起こして除隊した者や、そもそも入隊さえできなかった不適格者……その中でも、戦闘でしか自分の能力を発揮できない者たちだ」
 ハッとするルチス。それでも反論しようとする彼女をおさえて、エステルが言葉を続けた。
「お前の言いたいことはわかる……危険な存在であることは確かだ。だがパンテラがなければ、彼らはどうなると思う? あらかた犯罪者に堕ちるかもしれんな……それを悪として牢に閉じ込めるのは簡単だろう……だが、私はそうしたくない。彼らが社会で生きる道があるなら残しておきたい」
 少しの間をあけて、ニヤリと笑うエステル。
「……そして、わざわざ自分たちの資産を切り崩して、あの人数を自発的に養ってくれる〝御三家〟には、感謝さえしている」
 こらえきれずに、カシムが大声で笑い出した。つられて吹き出すルチス。その騒がしさに、とうとう少女が目を覚ました。
「じーちゃ……うるさ……」
 寝ぼけたように身体を起こした少女は、そこが洞窟の中であること、見知らぬ三人の大人が自分を見つめていることに驚き、身をかたくした。
「〈離《テレ》……」
「待て」
 〈離位置《テレポート》〉をしようとする少女の口を、エステルが塞いだ。
「奴らは間もなく撤退する。それまでは、ここにいる方が安全だ」
 それだけを言い終えてから、エステルが手を離した。少女が何かを叫ぼうとして、やめた。エステル、ルチス、カシムを順番に見つめる。そして、自分でこの洞窟に逃げてきたことを思い出した。
「あいつら……私に矢を撃った。毒の矢で……恐くて……。そうだ、毒……」
 自分の両腕を見おろして、気持ちの悪い紫色が消えていることを確認する。そのタイミングで、カシムが声をかけた。
「エステル様が来なければ、君は死んでいた。……私はカシム。彼女はルチスで、エステル様の部下だ。君は?」
 カシムのおおらかな独特の雰囲気は、少女に有無を言わせなかった。
「私は……サルネイア。じーちゃんがいたけど……今はいない」
「…………」
 様々な情報のパーツが、ルチスの明晰な頭脳を駆け巡り、さらなる情報を求めた。
「あなた、三人組の男を見たわね」
 少女の目が見開かれた。
「あいつらが、じーちゃんを殺した! お前たちも、私を殺すのか? じーちゃんと私が……〝悪魔憑き〟だから!?」
 エステルを含めて、その場の空気が凍りついた。〝悪魔憑き〟という言葉には、それだけの重みがあった。
 少女の瞳から、涙があふれている。それが自分の中でモヤモヤしていたことの結論だと、少女自身が気づいた瞬間だった。
「じーちゃんと私は、いらない人間なんだ……だから山に捨てられたんだ……だから殺されるんだ……!」
 ルチスが言葉を失い、カシムがとまどうように何かを言いかけた。悪魔憑きに対する根強い差別は、エルフ族の心の闇そのものであり、明るい日常生活から簡単に意識を暗黒面に持っていく。それが集団心理であった。
 その時、洞窟の中に力のある大きな声が響いた。
「断じて、違う」
 ……エステルだった。彼女の怒りの形相と、強烈なオーラが、少女をひるませ、二人の部下を固まらせた。その張りつめた雰囲気は、一瞬で消えた。
「サルネイア……」
 いつもの調子に戻って話しかけるエステル。
「人は……いや、人だけでなく、生き物は全てそうなんだが……例えば社会という制約があるとストレスを受ける。それを解消するために、犠牲になる者が生まれる。種が生き残るための本能ではあるが……それを解決したいという気持ちも、確かに備わっているのだ」
 立ち上がって、マントについた砂を払うと、白いロングヘアーをふわりと浮かせてエステルが洞窟の奥を向いた。
「ルチス、カシム……この少女の処遇は戻ってから決める。その前に……」
「待ってください。連れ帰ると言うのですか、〝悪魔憑き〟を……あ」
 ルチスが手で自分の口を塞いだ。少女を〝悪魔憑き〟と呼んだことに、自分でショックを受けている。背中につき刺さる少女の視線が痛い。
 背を向けたままのエステルが呟いた。
「恥じるなルチス。どう受け止めるかは、サルネイアの問題だ。お前が、彼女のことを案じて口にした言葉だと私にはわかっている」
「はい……連れ返っても、彼女が馴染めるとは思えません。彼女にとっては、このままここで暮らした方が……」
「俺は、そうは思わない」
 カシムだった……が、それ以上は何も言わなかった。
 エステルが振り返って、息を吐いた。
「その話は後だ。二人とも、この奥に興味があるんだろう? 話してしまった以上、私としては案内しようと思っているわけだが?」
「は! いえ……いえいえ、私が前を務めます。ルチス、お前はエステル様の後ろに」
「了解」
 嬉しそうなカシムと、諦め顔のルチス。ぽつんと一人で立つサルネイアが、ぼそりと言った。
「エ……エステル……様は、奥に何があるのか知ってるのか?」
 場がシンとなる。エステルが嬉しそうな笑顔を見せた。
「サルネイア。お前は入ったことがないのか?」
「う……うん。だって、じーちゃんが、ダメだって……」
 アゴに手を当てて、思案するフリをするエステル。その顔はニヤニヤと笑っている。
「……一緒に来てもいいぞ、邪魔しなければな。来るか?」
「い……行く!」
 駆け寄ってくる無邪気な様子が可愛かった。サルネイアに、ためらいはもうない。好奇心の強さは生まれつきだった。
「歳はいくつだ?」
「じゅ……十歳!」
「うらやましい限りの若さだ」
 エステルは笑っていたが、ルチスは心配だった。殺されかけたばかりなのに、もう他人を信用しようとしている。
(保護者を必要とする年齢であることと、エステル様のお人柄ゆえとは言え……神殿に行けば、ショックを受けるのでは……。第一、頭のかたい神官共が何て言うか……)
 ふいに肩を叩かれて振り向くと、前にいるはずのカシムが横に来ていた。
「エステル様ゆえだ……あの子は、俺達まで信用していない。お前の言う通り、馴染ませるのは大変だと思うよ。それでも……」
「ばか。早く先頭に戻れ!」
「へいへい」
 そそくさと前へ行くカシム。洞窟の奥は暗く、魔法が不得意なカシムに代わって、ルチスが〈散暗光《ライト》〉の魔法を唱えた。

   *

 暗い空間の小さな青い光が消えかけて、再び強く輝いた。
「……来るのか。ついに来るのか、可能性の子よ」
 男の声が震えていた。
「ちくしょう、お前がカラジャスに来た赤ん坊の頃から、ずっとお前の意識に話しかけてきたんだ。お前をここに呼んでいたのは、俺だ!」
 美しく輝く青い光は、今や明滅を始めていた。
「早く来い、早く来るんだ。そして、俺の役目を終わらせてくれっ!」
 今までにない強さで爆発した光が、初めてむき出しの地面まで届いた。そこには、白っぽい物がたくさん転がっていた。人骨だ。
「くく……くくくくく」
 愉快でたまらない……そんな笑いだった。

 ~(4)へ続く


コメント

暗い空間の、また新た登場人物?が出たんですね。

続きが気になりますw

◆Leppardさん
ここまで長引かせるつもりは、なかったのですが……。
新キャラが出てくると、どうしてもページが必要になっちゃいます。
続きは、次の日曜……の予定……たぶん( ̄▽ ̄;

こんな人に、赤ちゃんの頃から話しかけられていたら
それは言葉が悪くなりますね。

「可能性の子」、「役目」・・・キニナルキニナル

◆Aryuさん
こんな感じで納得していただければ幸いです。
早く本筋に戻りたい……。

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