ささやかに駅メモ!

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駅メモ!の世界に足を踏み入れたところ、なんだか楽しいのでそのまま彷徨い始めました。ウロウロ。怖くないですよ?

竜連れ8-4

 
「竜を連れた魔法使い」
目次
 あらすじ
 第一話 沈まない太陽 (1) (2)
 第二話 手に入れた力 (1) (2) (3)
 第三話 竜たちの覚醒 (1) (2) (3)
 第四話 エルフの族長 (1) (2) (3)
 第五話 レッド・グー (1) (2) (3) (4) (5)
 第六話 不死の支配者 (1) (2) (3) (4)
 第七話 惑星の守護神 (1) (2) (3) (4)
 第八話 世界を継ぐ者 (1) (2) (3)


 第八話 世界を継ぐ者 (4)

 ルチスが灯《とも》していた〈散暗光《ライト》〉の光が、突然消えた。微妙な違和感と共に、思い出すエステル。
「ここから先は魔法が使えん……暗いが、このままもう少し進むぞ。足元にだけ注意しろ」
 暗闇で何も見えない。だが、道は真っ直ぐにのびていたはずだ。
 ゆっくりと五十メートルほど進むと、急に前方がぼーっと暗い緑色に光り、洞窟の中が照らし出された。十メートル先が行き止まりになっているのが見え、道を塞いでいる岩壁の全面が光りだしていた。
「行き止まり……?」
 ルチスが緑色に光る岩壁の前で呟く。カシムが背負った矢筒から一本の矢を取り出して、壁に近づけた。すると、まるで何もないかのように、矢の先が岩壁にスッと入る。 
「幻影の壁……ですか?」
「気を付けろ。向こう側は、湖になっていたはずだ……」
 魔法が使えない未知の場所。ここまで来るのに、若かりし頃のエステルは二日をかけて攻略した。安全を確認しながら慎重に進んだのだ。当時のエステルは、この幻影の壁に危険がないことを確認するのにさらに一日をかけていた。
 ヒューマン族でいえば十六歳の外見を持つサルネイアの肩を、カシムがつかんだ。
「おい?」
 サルネイアが勝手に一人で進もうとしていたのだ。
「……呼んでる。私を呼んでる」
 それだけを言うと、十歳の少女が壁の中に消えた。
 二人が振り返ると、エステルが光る壁を睨んでいた。
「……進むぞ」
 エステルには、今も昔も誰かに呼ばれるような感覚はなかった。彼女がサルネイアを特別に気にかけるようになったのは、この時からだ。

 壁を抜けるとそこは地下の広い空間で、足元は崖になっていた。崖の上でサルネイアが立ち止まっている。崖の下に水面が見え、それが徐々に上昇していた。ルチスは、今まさに湖ができようとしているのだと思った。
 突然、洞窟内に声が響いた。
「……待っていたぞ、サルネイア」
「…………」
 湖の向こう側に人工的な壁が見え、そこに小さな青い光があった。光は強くなったり弱くなったりを繰り返している。
 エステルが考え込みながら、そっと言った。
「久しぶりだな、エグゼクティブ・ハッカー」
「……百八十二年前のエルフ族……エステルと名乗った奴か」
 青い光の瞬きが、少し不規則になった。
「覚えていたか……近くまで来たから寄っただけだ」
「……くそ。面倒だが、全員を決まりにのっとって迎えてやるとするか」
 一分間の沈黙が訪れた。ルチスとカシムは、事前にエステルから話を聞いていたが、落ち着かない気分だった。サルネイアは黙ったままおとなしくしている。その間に湖に水が満たされ、崖上とほぼ同じ高さになった。水面に青い光が反射している。
 そして再び男の声が響いた。
「……ここは〝認証の間〟。人を試す場所だ。この場所を口外することは許されん。よく覚えておけ。お前たちはすでに、認証の間に踏み込んだ。生きて帰れるのは、認められた者だけだ」
 ルチスとカシムの表情に緊張が走る。エステルの表情が曇った。
「待て。前に来た時と、話がずいぶん違うようだが」
 男の声が短く笑った。
「エステル……あの時お前は、実に八百年ぶりの訪問者だった。しかも入口からここまで来るのに三日もかけやがって……慎重な性格であることもわかっていた。だからな……お前が警戒するようなことは話さなかったんだ。だが今日は……」
「帰るぞ」
 踵《きびす》をかえして幻影の壁に向かうエステル。表情には出さなかったが、二人の部下を連れてきたことを後悔していた。自分は〝たまたま〟可能性を残され、助かった。だが、二人の部下が助かる保障は何もない。声の主がサルネイアに強く興味を示していることは明らかであり、嫌な予感だけが身体を貫いていた。
 エステルの背後で、バシャバシャと水しぶきが上がる音がした。ショックを受けて振り返るエステル。その顔から血の気が引いていた。
「水からすぐに出ろ!」
 ルチスとカシムが湖に跳びこんでいた。その理由はすぐにわかった。サルネイアが湖に落ちたのだ。溺れて沈んだ彼女を、両脇から二人が抱えて水面まで上がってくるところだった。
 唇を噛むエステル。サルネイアは、彼女だけに聞こえる男の声に操られたのかもしれない。誰かを恨むとすれば、その声の主……おそらく青い光とともにある男の声だろう。ともかく……認証は始まってしまった……。
 男の声が無情に響いた。
「水に入ったな……それでいい。その水は我がアメリカ合衆国で開発されたナノマシンで満ちている。日本製のナノマシンとは違い、タンパク質にしか干渉できないが……お前達のDNA情報を読み取り、〝可能性〟を探る……」
 岸からエステルが手を伸ばすが、三人には届かない。三人とも明らかに変だった。意識が遠のくように表情がウツロになり、手足の動きが止まる。やがて全身の力が抜けたように、互いにつかんでいた手を離し……ルチス、カシム、サルネイアが仰向けに浮かんだまま、湖の中央へ流されて行く。
 男の愉快そうな声が響いた。
「くく……やはりな……お前は完璧だ、サルネイア。俺が日本のナノマシン・システムに仕込んだウィルスを起動させるためのDNAに、完全に一致している。大統領のDNAに……。これで……世界を日本から取り返せる……アメリカが支配するのだ……」
 エグゼクティブ・ハッカー……彼の言葉を理解できる者は、ここにはいない。彼ははるかな過去に開発されたアメリカ製のナノマシンに生かされる狂ったコンピュータだった。この世界に、日本やアメリカといった国家の概念はすでにない。ただこの洞窟奥の狭い空間だけは日本製のナノマシン・システムから切り離され、アメリカ製システムが維持してきた。
「俺の役目は終わりだ……サルネイア……お前は日本の筑波にあるナノシステム研究所分室・ナノマシン開発室に行け。そこに行けば、全ての権限がお前のものになる……お前が、世界の大統領になるんだ……」
 サルネイアの身体が仰向けのまま、水面の上に持ち上がった。まるで水面が硬い床であるかのように、サルネイアの身体が横たわっている。一方で、ルチスの身体がゆっくりと沈み始めた。
「ルチス……!」
 エステルは思わず湖に飛び込もうとした。が、まるで水面は氷のようだった。身体を打ちつけたエステルが水の上で起き上がると、ルチスの声が響いた。
「おやめください、エステル様」
「…………」
 靴と靴下、手袋がルチスの身体から離れて水面に漂った。現れた手と足の先では、皮と肉が分解を始めており、白い骨が見えている。エステルが水の上を駆け寄ると、ルチスがエステルを見つめた。
「お願いがあります……」
 ブラウンの瞳に、涙が光っていた。
「田舎の両親にお伝えください……ルチスは、戦場でエステル様の盾となり死んだと……」
「ルチ……」
「立派な最後だったと……お願いです」
 顔の皮が醜く溶け始めている。
「……わかった」
「……ありがとうございます」
 水の底に沈んでいくルチス……その近くの水面で、カシムが目を開けていた。涙が伝う顔を彼に向けるエステル。
「カシム……お前は大丈夫なのか?」
 カシムが仰向けになったままニヤリと笑った。
「はは……時間がありません。余計なセリフは抜きでお願いしますよ」
 部下の気持ちを悟ったエステルが黙ると、すぐにカシムがしゃべった。
「女房に伝えてください。俺が愛しているのはお前だけだと……先に逝くことを、許してほしいと……」
 エステルはカシムの愚痴を思い出した。――女房が言うんですよ。私とエステル様とどちらを愛しているの?ってね――。
「ああ……わかった」
 エステルはもう、二人を助けることを諦めていた。ただ確実に、彼らの最後の望みを叶えるのが自分の役目だと信じた。
「それから……」
 両腕と両脚が、カシムの胴体から離れた。痛みは感じていないようだった。
「レイウルフに……森林防衛隊隊長を継がせてください」
 レイウルフはまだ十三歳の子供だったが、エステルは口を挟まなかった。
「すぐにとは言いません……もし奴が……二掃射の技を習得したら……で結構です」
 二掃射の技……現世一の弓の名手として知られるカシムさえ、成功させたことがない技だ。それを成功させる者がいたなら、族長に頼まなくても誰もが隊長として認めるだろう。
「奴は……必ずやりますよ。千年に一人の逸材だ」
「わかった……わかった、カシム」
 エステルが流れる涙を拭《ぬぐ》った。カシムの身体は、すでに水底に消えようとしていた……。

 横たわるサルネイアの身体を起こして、右腕を身体に回して支えた。そしてエステルは、人工の壁に浮かぶ青い光点を見つめた。
「私を殺さなくていいのか?」
 青い光はしばらく光ったままだったが、やがて答えた。
「お前には可能性がある。サルネイアが失敗した時……それを継ぐ子供を産む可能性がな」
「……知らんのか。あと十一年たてば、世界は滅びるのだぞ」
 真っ直ぐに青い光点を見つめるエステル。二十代目のカイ・リューベンスフィアと旅をしたのは、八十二年前のことだ。光が揺らめいた。
「くく……そうか、お前は知っているのか……では、教えてやろう。世界を救いたければ、〝竜〟を探せ。一匹は、北米に埋まっている」
「なに?」
「俺が大昔にハックして知った情報は、それくらいだ。まあ、俺には関係ないがな……俺の役目は、大統領の血を引き同じDNAを持つ者に力を与えること。それももう終わった……。間もなくこの洞窟は活動を停止する。忌々《いまいま》しい日本製のナノマシンに飲み込まれるだろう……」
 エグゼクティブ・ハッカーの投げやりな態度に、エステルはイライラした。
「力を与える……だと? 百八十二年前に、私に〈消散言《サイレント》〉を教えたようにか?」
「違うな。お前にそれを教えたのは、俺を信用させるためだ」
「では……」
 役目を終えたハッカーは、自分の知識を自慢するように口数が多くなっていた。
「昔……サルネイアのように大統領に近いDNAを持つ者には、ナノマシンが攻撃できないよう、システムにウィルスを仕込んでやったんだが……システムの奴がそれに対抗して、そいつらが汎数《レベル》2以上の魔法を使えないようにしやがった」
 言葉の一つ一つはわからなかったが、悪魔憑きの原因に関わることだと、エステルは直感した。ハッカーの話は続いた。
「それじゃあ、大統領が可哀想だろう? さっきアメリカ製のナノマシンを、サルネイアの身体に残してやった。こいつはスゲェぜ。日本製システムから完全に切り離した独立空間をいつでも作り出せるし、日本製システムを乗っ取ったあかつきには、脳とシステムを融合させた上、システムを改造するのにも使えるだろう。……このスゴさが、まあ、わかんねえだろうな、お前には」
 確かにエステルは、ハッカーの言うことをほとんど理解できなかった。
「わかりやすく言ってやる。お前が世界の存続を望むなら、サルネイアをしっかり教育することだ。日本製システムは、竜を使った救世プログラムを考えているようだが、不確定要素が多すぎる。サルネイアの助けがいるだろう……」
「エグゼクティブ・ハッカー……お前は何者だ?」
 エステルの中で、様々な感情が渦巻いていた。
「言わなかったか? 俺ははるか太古の世界で滅びた巨大国家の唯一の希望の星だ。今となってはどうでもいい目的でも、それが俺が作られた理由……俺はただ、そのためだけに……」
 ルチスとカシムを殺したのは、こいつだ……そう決め付けたかった。ただ決められたことをこなすだけのカラクリでは、怒りの矛先が定まらない。いずれにしても……こいつは、もう役目を終えて、自ら滅びるのだと言う。
「じゃあな、サルネイア」
 突然、ハッカーがサルネイアに向けて話した。
「さよなら」
 返事をするサルネイア。彼女は起きていた。彼女から腕を離しながら、エステルは思った。自分が話している間も、エグゼクティブ・ハッカーは、彼女の心に話しかけていたのかもしれない、と。
 ピキピキと音がした。足元の水が今度は本当に凍り始め、そして突然世界が暗闇に包まれた。壁の青い光が消えたのだ……。
「〈離位置《テレポート》〉」
 エステルの呪文。魔法が使えるようになっていた。この洞窟内も日本製ナノマシン・システムの支配下に置かれたのだ。アメリカ製のナノマシンは滅んだ……サルネイアの体内を除いて……。

 ~第八話完、第九話へ続く


コメント

「世界を継ぐ者」とはそういう意味だったのですかー。
日本製ナノマシンシステムをのっとって、脳が融合するって・・・
システムの一部となって世界中のナノマシンを統べるということかな。

ところで、米国人はエルフになったんですか?
それとも、この物語の地球ではもともと米国人はエルフだったのかな?

◆Aryuさん
そういう意味だったのですー。
エルフやドワーフ、さらにはフェアリまでいるこの世界の種族が過去とどうつながっているのか……このまま、はっきりしなくてもいいかな、という気もしますが、そのうち書くかもしれません。

日本製とアメリカ製のナノマシンがあったとはw

初代カイの本拠地は、筑波だったんだー
ふむふむ
そこで日本製ナノマイシンを制御して、自分だけ魔法を使えるようにしていたということですね。

さて、これでサルネイアの秘密が明かされたので
次回は、元の話に戻るのかな?

◆Leppardさん
そんな感じです( ̄▽ ̄〃

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