珈琲は一日二杯まで

あずの気が向いたときに気が向いたことを書く場所です

ゲームのことを書いたり、絵を描いたり、漫画を描いたり、小説を書いたり、適当に何でもありな趣味のブログです。

竜連れ9-1

 
「竜を連れた魔法使い」
目次
 あらすじ
 第一話 沈まない太陽 (1) (2)
 第二話 手に入れた力 (1) (2) (3)
 第三話 竜たちの覚醒 (1) (2) (3)
 第四話 エルフの族長 (1) (2) (3)
 第五話 レッド・グー (1) (2) (3) (4) (5)
 第六話 不死の支配者 (1) (2) (3) (4)
 第七話 惑星の守護神 (1) (2) (3) (4)
 第八話 世界を継ぐ者 (1) (2) (3) (4)


 第九話 未来への約束 (1)

 薄曇りの空の下。蔦《つた》に絡まれた門構えの小さな屋敷は、お世辞にも手入れが行き届いているとは言えない。その屋敷に一人で住む金髪のエルフ女性に、一通の手紙が届けられた。二十歳くらいに見える彼女の年齢は、六十五歳であり、若く見えるのはエルフ族ゆえである。
 差出人の名前を見て驚いた彼女は、ゆっくりと一杯の香茶をいれた。それを一口飲んでから、白いテーブルクロスの上に置かれた白い封筒に手を伸ばし、ようやく開封する。
 白い便箋に、見慣れた文字が綴《つづ》られていた。

 ~~ ~~ ~~

 お母様、お元気ですか。私が神殿護衛隊に入隊して、家に帰らなくなってからもう六年になりますね。実は、これが最後のお手紙になりそうです。だから今回は、今まで言えなかったことを書かせてくださいね。
 ごめんなさい。私はお母様の気持ちを誤解していました。
 私がお母様に引き取られてすぐの頃、夜中にお母様の部屋の前を通ったことがあります。その時、いつもは優しいお母様が泣きながら、エステル族長のことを大層悪く言うのを聞きました。お父様が死んだのはエステル族長のせいだと。私はひどくショックを受けて、お母様はずっとエステル族長を恨んでいるのだと思い込みました。
 私は自分が偉くなって、エステル族長を追放しようと思っていました。そうすれば、お母様が喜んでくださると信じたのです。私が神殿護衛隊に志願したのは、そんな理由でした。
 自分でも無茶な努力をしたと思います。それといくつかの幸運のおかげで昨年、奇跡的に神殿護衛隊の隊長に任命され、すぐに族長代行の任を受けるまでになりました。皮肉なことに、それはエステル族長の私への信頼が大きかったゆえです。
 その後、様々なことがありました。
 この世界があと三年で滅びるという話が真実だと知ったこと。私が禁断の山で受けた啓示を、エステル族長が思い出させたこと。それを辿《たど》る過程で、ヒューマン族の王と知り合ったこと。この世界を救うというカイ・リューベンスフィアと竜が、あまりに無知で無計画なこと……。
 お母様が暮らすこの世界のために、私はヒューマン族の王を欺《あざむ》いて啓示をまっとうしようとし、カイ・リューベンスフィアが竜に出会うのを助けました。そのために、宿敵のドワーフ族に協力するフリまでしたのです。
 どうかそのことを恥と思わないでください。そうして啓示に従った私は、とうとう……。
 この世界の神となったのです。
 冗談だと思われますか。いいえ、お母様はきっと私の言葉を信じてくださるでしょう。今の私は、全てを知り、何でも思い通りにできます。
 エステル族長を一瞬で葬ることさえ可能です。そしてエステル族長への誹謗が、お母様の本心ではなく、お父様を失った寂しさゆえだったことも、今の私にはわかります。

 神になるというのは、この世から消えるのと同じことだと初めて知りました。
 いつでも何でもできるとなると、急ぐ気持ちがなくなります。そして何もする気がなくなるのです。誰かをひいきしたり憎んだりするのも、ばかばかしく思えます。全てが自然な因果関係のままに絡み合って、時が流れていくのを眺めるだけになっていきます。
 この手紙を書き終えたら、今や意味のなくなった肉体も捨てるつもりです。そうしたら、ますます世界への執着が薄れ、私という存在は消えているのと同じことになるでしょう。
 そうなるまえにやっておきたいことが二つあります。
 一つは、お母様にこの手紙を書くこと。もう一つは、お母様が暮らすこの世界の存続のために、カイ・リューベンスフィアと竜に最後の助力をすることです。
 この世界の滅びを止められるかどうかは、神となった私にもわからないことです。

 お母様に感謝しています。私を引き取って育ててくださったことに。病気になれば徹夜で看病してくださいました。嬉しいことがあれば一緒に喜んでくださいました。お母様の愛のおかげで、私は本当に幸せだったのです。
 お父様が死んだのは私のせいだと、憎まれてもおかしくなかったはずなのに……ありがとうございました。

 お母様を心から愛する娘 サルネイア

 ~~ ~~ ~~

 便箋の上に、ぽつぽつと涙が落ちた。金髪のエルフ女性は濡れた瞳を上げて、暖炉の上に飾られた古い弓を見た。弓の端に、〝カシム〟と名前が彫られている。
「あなたが命がけで救った命を、私は愛しました。あなたも……私も、間違っていなかった……。あの子は、他の誰にもできないことを、成し遂げるでしょう」
 香茶から漂う優しい香りが、部屋の中を満たしていた。

   *

「カイリー!」
 〈大枢至《ビッグバン》〉によって削られた荒野に仰向けに横たわるカイリの耳に、マティの声が届いた。小さな妖精が、心配気にカイリの顔を覗きこむ。
「カイリ!」
「……大丈夫。ちょっと、気が抜けただけだよ」
 黒髪の青年が少し無理のある笑顔を浮かべて、上半身を起こす。飛んできたマティに遅れて、ドライアードを肩に乗せたレイウルフと、リュシアスが到着した。
「大丈夫ですか!?」
「何があった!? あの野郎に、勝ったのか?」
 〈大遮隣《ビッグバリア》〉に守られたおかげで無傷のカイリを見て、ひとまず安心する二人。
「どうかな……一度は、ミ・ソーマの村で倒したと思ったのに、生きていた王だからな」
 レイウルフとリュシアスに手を貸されて立ち上がるカイリ。身体に異常があるわけではないが、その心遣いを嬉しく感じる。
 目の前にあったはずの建造物は、跡形もなかった。深くえぐられ、再び土砂が積もったような荒涼とした大地が広がっている。
 ……初めは、目の錯覚かと思った。
 背後の景色がぼんやりと透けて見える人物が、いつの間にか少し離れた場所に立っている。その姿は、一言で言えば〝立体映像〟だとカイリは思った。それがサルネイアというエルフ族の女性であることに気づくのに、数秒かかった。
 空と大地が広がる屋外だというのに、まるで狭い室内で反響するような声が聞こえた。
「王は死んだよ……。お前がここに来た目的は、わかっている」
「…………」
 カイリにはわからない。彼女が敵なのか、味方なのか。
 サルネイアの向こう側の空から、四体の竜が飛来するのが見えた。ひときわ大きい姿は、セイリュウだ。最初に地面に降り立ったスザクが、少女の姿に変わって走ってきた。
「お姉さん! 昨日は、助けてくれてありがとう!!」
 赤い巻き毛を跳ねさせて、サルネイアの向こう側から走って来るスザク。途中でサルネイアの不自然さに気づいて「あれ?」と呟いた後、そのまま半透明の人物に突っ込む。腕をブンブン振ってサルネイアの身体に触れようとするが、空を切るばかりだ。
「あ、映像か!」
 ようやく気づいたらしいスザクの背後に、三人の女性が立っていた。
「この人が、助けてくれたんだね。ありがとうございました」
 深く頭を下げるゲンブ。ビャッコも無言で会釈した。セイリュウは、状況をどう判断していいのか、わからない様子だ。単純なスザクはともかく、ゲンブやビャッコまでほとんど初対面のサルネイアに警戒を解いているのが不思議だった。
 竜たちには返事をせずに、サルネイアがカイリの目を見て言った。
「レベルIIIのさらに下にあるテラ・フォーミング装置の制御設備は、問題なく稼動している。そして、お前がそこで知りたかった情報……テラ・フォーミング装置の正確な場所だが……」
 驚くカイリ。彼がここを目指した理由は、まさにそれだった。
 テラ・フォーミング装置の場所は、いかなる記録媒体にも残されていない。ナノマシン・システムが追加プログラムに従って建造したはずのテラ・フォーミング装置は、その場所の設定から各ブロックの配置構造まで、全てプログラムの判断に任された。ナノマシン自身が適正な建造ポイントを複数割り出し、その中からランダムに選んだ場所に、その巨大な設備を設計指針プログラムに従って建造したはずだ。だがその場所も、その外観さえも、プロジェクトに関わった人々さえ知らないのだ。テロ対策のためである。
 この時代……自転を停止し、巨大な沈まない太陽に照らされているにも関わらず生命が息づく地球。一日二十四時間太陽に晒《さら》される砂漠半球と、永久に陽が射すことがない氷半球に挟まれた帯状地域のみとはいえ、確かに広がる生物圏。テラ・フォーミング装置は、人々が知らない場所で確実に稼動しているのだ。
 テラ・フォーミング装置の場所を知るには、その制御設備が設置されたこの筑波に来るしかなかった。もちろん、セキュリティレベルは尋常ではない。ナノシステム研究所分室・ナノマシン開発室のレベルIII……地下十二階のさらにその下にあるのだ。
 サルネイアの冷静な声が響く。
「王さえも入れなかった……いや、存在さえ知らなかったレベルIV。そこには、お前達でも入ることは叶わないさ。だが、私が入り……操作し……情報を引き出してきてやった」
 すぐには、信じられなかった。だがサルネイアは、この時代の人間が知るはずの無い言葉を、スラスラとしゃべっている。そしてスザク達は、サルネイアに助けられたことがあるという以上に、あたかも本能的にサルネイアを信頼しているように見える。その理由が、カイリにはわからない。
「サルネイア、君は一体……」
 そう言うレイウルフの言葉を、カイリが手で遮《さえぎ》った。
「レイウルフ……彼女は、あなたが知っているサルネイアじゃない。だが……信頼できるかどうかを、あなたが判断してくれないか?」
「そういうことなら、はっきり言いましょう」
 レイウルフが溜息をもらした。
「彼女の尖った左耳が小刻みに動いているのは、イライラしている証拠です。カイリは、彼女は私が知っている彼女ではないと言いましたが……サルネイア本人に間違いありません。そしてサルネイアという人間は……まぁ、鼻持ちならない奴ですが……エステル様と私が、最も信頼する仲間です」
 カイリを見つめるレイウルフが、ニヤリと笑った。それを見て、カイリも微笑んだ。
「話は終わったか?」
 そう言うサルネイアの左耳は、動きを止めていた。残念ながら半透明なせいで、彼女の表情の細かな変化までは読めない。レイウルフだけが予想していた。彼女の顔が赤らんでいることを……。
 カイリが頭を下げた。
「テラ・フォーミング装置の座標を教えてください。仮の存在に過ぎない俺が、どうしてもやり遂げたいこと……それが、この世界を救うことです」
 真剣な眼差しだった。ただ一人を除いて、その真っ直ぐな姿勢に目を奪われた。サルネイアさえも。〝仮の存在にすぎない〟……その言葉を耳にして、マティだけが顔を曇らせている。
 半透明のサルネイアが満足気に頷いた。
「教えてやる。滅びの運命は、私にも手を出せないところで動いちまっているからな」
 大地を、風が渡っていた。その風の中に、サルネイアの意識が溶け始めている。カイリに座標を教えると、サルネイアの人としての意識はほとんど拡散していた。
「カイリ……お前に英雄としての資質を残していく……何だかわかるか?」
 カイリが頭を横に振った。
「……〝運〟だ。ほんの少しの幸運を……私から世界への最後の介入として……」
 サルネイアの声が小さく聞こえなくなっていく。
 ――さようなら、お母様。あなたに贈りたかったものを、私たちの世界を救う英雄に託すことをお許しください。
 神になるというのは、この世から消えるのと同じこと――。複雑なナノマシンのネットワークに介入すればするほど、人としての意識を保つのは難しかった。ただ、意志を……世界を救おうとするカイリという若者に、助けの手を……漠然とした願いだけが、世界に残された。

 ~(2)へ続く


コメント

カイリ君おひさしぶりー(笑)

サルネイアはナノマシンシステムを配下においた、この世界の絶対神になるのかと思ったら
情報を引き出してカイリに伝えただけで、むしろシステムに溶け込み取り込まれたように思えます。
肉体を失い、自我や意識を失い、それでは死んだも同然で、ハッカーがやりたかったことがよくわかりません。

さて、「王」は倒れサルネイアもまた味方としてカイリに必要な情報を与えました。
あとは、テラ・フォーミング装置の元へたどり着くこと?
そして、滅びの謎を残すのみとなりましたね。
4匹の竜達がどうかかわるのか、最後の謎が明かされるのを楽しみにしています───
が、お身体に気をつけて無理な更新はなさらないでくださいね(^-^)

◆Aryuさん
「死んだも同然」は、その通りです。
「ハッカーがやりたかったことがよくわからない」と思われた件については、もうなんというか、自分の力量不足が情けない……。
よくわからない話になっていてすみません。
ハッカーとサルネイアについて、私が描きたかったものが、ちゃんと伝わるように描けていないということです。
で、そこまでは仕方がないのですが、それを補完するための修正がまた難しいです。
これは、こちらの話ですが、小説中にハッカーの行動を客観的に語れる人物がいないんですよね……。
エステルでは理解不足のはずで、語らせるには少し無理があるし。
サルネイア……に語らせるかなぁ……。
それも無理があるなぁ……。
ということで、悩み中です。
来週までに解決策が見つかるといいのですが。
前回指摘していただいた、種族の件については、もっと後の方で少し触れようと今は思っています。

連投、長文すみません。

先の書き込みでよくわからないと書いたハッカーの行動ですが、ちょっと考え方を変えてみました。
最初は、ハッカーの母国であるアメリカの大統領のDNAを受け継ぐ者を
世界の頂点に立たせることが目的で、そのために攻撃魔法を無効化するようにして守っていたと思ったのですが
ハッカーが、愛国心より自分の知識・技術を行使することに喜びを見出し行動するなら
日本製のナノマシンシステムを乗っ取ることが目的で、サルネイアはそのウィルスの媒介にするために守られてきた。
ハッカーにとって道具の一端にすぎなかったのではないかと。
そう思えばサルネイアが「死んで」しまったことも納得できます。
そしてサルネイアもそれを理解していながら、育ての親である母親や、エステル達の暮らす世界を守るために受け入れたのではないかと・・・
これでわたし的には物語の辻褄が合うのですが、誤解釈でしょうか?
作者様は読者を選べないので、物語についていけない頭の悪い読者がいると、笑ってください。

長々とすみませんでした。

◆Aryuさん
貴重な時間を私の書いた小説のために使わせてしまって、すみません&ありがとうございます。
Aryuさんの中で納得していただけたなら、私から言うことはありません。
いつでも読み手にとっては、読み手の解釈が正しいと思うのです。
作者の思いは別として。
書き手としてマズイのは、解釈できない状態を作ってしまうことだと思っています。
今回、Aryuさんが戸惑われたのは確かで、ということは、そういう方が(未来も含めて)他にもいるはずで、それが私に危機感を与えるんですよー。
ということで、次回に何らかの補完をしようとは思っています。
たぶん、結局エステルに頼ることになるかな?
貴重なコメントをありがとうございました。

コメントの投稿


管理者にだけOK


管理者に連絡する(メールフォーム)
※コメントを投稿できない場合にご利用ください。管理者からの返信はできません。
トラックバックURL

HOME

カウンタ

  • 閲覧/訪問数 since 2005
    hits / visits

最新の記事
最近のコメント
カテゴリ
月別アーカイブ

リンク
プロフィール

  • Author:あず霧絵(笹谷周平/ささ)
  • 誤字、脱字、リンクミスにお気づきの場合は、コメント欄にてお知らせいただけると助かります。

最近のトラックバック
商標/著作権等