珈琲は一日二杯まで

あずの気が向いたときに気が向いたことを書く場所です

ゲームのことを書いたり、絵を描いたり、漫画を描いたり、小説を書いたり、適当に何でもありな趣味のブログです。

竜連れ9-3

 
「竜を連れた魔法使い」
目次
 あらすじ
 第一話 沈まない太陽 (1) (2)
 第二話 手に入れた力 (1) (2) (3)
 第三話 竜たちの覚醒 (1) (2) (3)
 第四話 エルフの族長 (1) (2) (3)
 第五話 レッド・グー (1) (2) (3) (4) (5)
 第六話 不死の支配者 (1) (2) (3) (4)
 第七話 惑星の守護神 (1) (2) (3) (4)
 第八話 世界を継ぐ者 (1) (2) (3) (4)
 第九話 未来への約束 (1) (2)


 第九話 未来への約束 (3)

 小雨の中。愛用の剛弓に異常がないことを確かめるレイウルフ。かがむ彼のそばに立つ影があった。エルフ族の装束を身に付けた黒髪の少女ゲンブだ。
「お父様……私は……」
 ストレートの長髪に、ぱらつく雨粒が光っている。
「何も言うな、ゲンブ」
 視線を合わせないまま、レイウルフが呟いた。
「お前は生まれた瞬間から、私を父と慕ってくれた。カイリの言うとおり、お前の竜としての本能が、最初に出会った私を主人として認めたのだろう」
 ゲンブは黙っている。それが主人の命令だからだと考えることは、レイウルフには辛かった。
「今までお前に、命令らしい命令をしたことはなかった。これが最初で、最後の命令だ。……黙って見ていろ」
 立ち上がったレイウルフは、最後までゲンブと視線を合わせなかった。

 広がる荒野。三メートルほどの高さに、岩が浮いている。そのてっぺんに手のひらを当てているのは、その岩の半分くらいの身長しかないマティだ。〈品浮《レビテート》〉で持ち上げて宙に浮いているのである。そのマティと三角形を描く位置に立つ、カイリとレイウルフ。二人の距離はおよそ二十歩分離れている。彼らの動きをかろうじて識別できるくらいの距離をおいて、リュシアスと竜たちが見守っていた。
 まるで、西部劇におけるガンマンの決闘だった。レイウルフは左手に弓を構え、背にした矢筒の矢に右手を掛けている。初めから矢を弓につがえていないのは、彼の流儀なのか自信の現れなのか、マティにはわからなかった。
 対するカイリは、まるで取っ組み合いでもするかのように、両腕を身体の前に出して構えている。この世界の魔法では、手を使って結ぶ印のようなものは不要だ。呪文さえ唱えればいいのだから、魔道士はただ超然と立っているだけでもいいはずである。その構えの意味が、やはりマティにはわからなかった。
 マティにわかっていることは、一つだけ。〈品浮《レビテート》〉を解除し、落ちた岩が地面に触れた瞬間に決闘が始まる。それは、一瞬で終わるだろう。……おそらく、カイリの事前詠唱魔法で。決闘というスタイルは、カイリが力づくで竜を連れて行くことを正当化するためだけのように、マティは感じていた。
「いつでもいいですよ」
「始めよう」
 二人にせかされるように言われ、マティは両目を閉じた。〈品浮《レビテート》〉を解除するしかない。
 ……岩が、地面に落ちた。

「がっ!」
 奇妙な声を上げて、身体を丸めたカイリが地面にヒザをついた。その両腕に二本の矢。腹部に三本、左ヒザに一本。レイウルフの弓から、文字通り目にも止まらぬ速さで放たれた合計六本の矢が、全てカイリの身体に命中していた。
「なっ……」
 カイリからの反撃がないことに気づいたレイウルフが、声を上げた。
「どうして!? エルフ族の何十本という矢を、魔法詠唱なしで全て弾《はじ》いたあなたが……」
 レイウルフが言っているのは、カイリがエステルと対決した時の話だ。うろたえた部下たちが、一斉に矢の雨をカイリに降らせた。その時カイリは、発動条件を〝周囲の原子速度が急激に変化した場合〟と定めた〈衣蔽甲《シールド》・度等《ブースト》5〉に守られていた。今、レイウルフの矢が身体に刺さったということは、その防御魔法を解除していたということだ。
 カイリは両腕で頭から胸を覆っていた。魔法詠唱に必要な呼吸器官を守るためだろう。その代償として、胃から下の内臓は三本の矢でズタズタだった。
「思ったより……痛くない……というか……感覚が、麻痺しているみたいだ……」
 レイウルフが弓を下ろしたのを見て、カイリが仰向けに倒れた。自分の手で腹に刺さった矢を一本抜くと、そこから大量に赤い血が吹き出した。急激な貧血で、視界から色が消える。構わずカイリは、腹部に刺さった残り二本の矢も抜いた。できた血溜まりの表面に、小雨が小さな輪をいくつも作っている。バシャリという音とともに、小さな輪が大きな輪に飲み込まれた。血溜まりを踏んだレイウルフが、カイリのそばに立っていた。
「…………カイリ」
 レイウルフには答えず、カイリは呪文を詠唱していた。一瞬身構えたレイウルフだったが、それがよく知られた回復魔法だとわかると、あたりを見回した。マティが飛んで来るところだ。
「来るな!」
 マティを制止するレイウルフ。その声を聞いて、どうしようか迷っていたスザクも動きを止めた。リュシアスは腕を組んで二人を見つめたまま、動いていない。
 まだ終わったとは思っていないレイウルフが、ゆっくりと言った。
「……どういうつもりですか?」
「……今なら、簡単にトドメを刺せる」
 額に汗の玉をいくつも浮かべたまま、カイリがニヤリと笑った。両腕と左ヒザの矢は突き刺さったままだ。
「私なら、あなたを殺さないと……そう思っていますか?」
 場は未だピリピリとした緊張感に包まれている。レイウルフの問い掛けに、カイリはしばらく黙って……それから答えた。
「そうかも知れない。……どっちでもいいんだ」
「…………」
 汎数《レベル》2の回復魔法〈産触導潤《キュア》〉が、カイリの出血を止め、傷口を塞ごうとしている。それに目をやりながら、レイウルフが静かに言った。
「……知っていますか? ゲンブはよく泣くんですよ。……私のためにね」
 カイリは何も答えなかった。
「この右手から、五本の指が離れて地面に落ちた時……あの子は、黒く変色した指をかき集めて、地面にうずくまったまま泣いてくれました。まるで自分のことのように」
 自嘲の笑みを浮かべるレイウルフ。
「それなのに私は……あの場で、役立たずになった自分がエステル様にどう思われるか、ということしか考えていなかった……」
 うつむいていたレイウルフが、顔を上げた。
「でも今は違います! 本当の娘のように大切に思っています。カイリは……」
 金髪金眼の男が、言いにくそうにその言葉を口にした。
「カイリは、あの子の気持ちに気づいているんでしょう? だから、リュシアスより先に私を指名した」
「それは……」
 まだ動けないカイリが口ごもった。
「確信していたわけじゃない……ビャッコよりもゲンブの方が、俺について来てくれる気がしただ……」
 レイウルフが、容赦なくカイリの腹を踏んだ。塞がりかけていた傷口が再び開き、血が溢れる。カイリの顔が苦痛に歪んだ。
「レイウル……」
「そう、あの子は、あなたに恋心を抱いています。とても控えめなね」
 カイリの腹を踏みつけたことで、レイウルフの気が少し晴れたように見えた。
「ミ・ソーマの村に入る前のあなたの言葉に、ゲンブが頬を染めるのを見て、私は確信していましたよ。だから……あなたがゲンブ〝だけ〟を連れて行くというのなら、決闘までするつもりはありませんでした」
「…………」
「あの子は、姉妹思いでもあります。あの子自身は、あなたについて行く気でいるでしょう。それでも……あなたが四人の竜を平等に扱う限り……そして、あの子に特別な感情がないことを思い知らせる行動を取る限り……あの子の心は傷つき続けるでしょう。それでも……」
 レイウルフが口を閉じた。カイリの腹部からは、血が染み出し続けている。数秒続いた沈黙の後で、カイリがはっきりと言った。
「それでも連れて行く……世界を救うために。それが嫌なら、今ここで殺してくれて構わない」
 カイリが、レイウルフの目を見つめていた。真剣な瞳だ。
「俺は……この世界を救うことを理由に、仲間の心を踏みつけたくない。レイウルフ……あなたに選んで欲しいんだ……この世界を救うかどうかを。ただ、俺の心は……ゲンブにはあげられない」
「…………? カイリには、好きな人がすでに?」
 レイウルフのセリフが、場違いなほど間抜けに響いた。カイリは答えない。それからレイウルフが、カイリの近くで身をかがめた。
「……あなたなど、死んでしまえばいい」
 レイウルフが唱えた呪文は、〈薬杯《ヒーリング》〉だった。カイリの傷口が再び塞がりはじめた。

   *

「くだらん……」
 言葉を漏らしたのは、リュシアスだった。彼の視線の先では、カイリとレイウルフのそばに、マティとスザク、ゲンブが集まり、ほっとした表情を浮かべている。
「すぐに俺が殺してきてやる。それでいいな、ビャッコ?」
「はい」
 リュシアスの問いに、即答するビャッコ。彼らにとって、世界を救うのは二人のためであり、二人が引き裂かれるようなことは、たとえ世界を救うためでも、あってはならないことだった。
 小雨だった雨脚《あまあし》が、激しくなりはじめていた。土壌が荒れた足元に、いくつものぬかるみができ始めている。
 やがて、リュシアスとビャッコの前に、カイリが自力で歩いてきた。両腕と左ヒザの矢も抜かれ、治療されている。だが、カイリの体力がまだ回復していないのは明らかだった。レイウルフとの決闘の前には、死力を尽くした王との闘いがあったのだから、当然である。
「俺は勝てればいい。遠慮はせんぞ」
 リュシアスのセリフに、カイリが静かに答えた。
「当然だ。魔道士は、口が動けば問題ない」
「じゃあ、すぐに始めよう」
 容赦ないリュシアスの誘いに、カイリが頷いた。
 二人にせかされ、マティは合図のための岩を持ち上げるしかなかった。

 ~(4)へ続く


コメント

知性派のレイウルフは納得しましたが、
脳筋のリュシアス相手にどうするのか。
やはり力ずくが一番わかりやすそうですが・・・

とはいえ、たとえ滅びることがわかっている世界でも、
好きな人に、「世界を救うために、あいつについて行け。」なんて言われたら、
「こんな世界滅びてしまえー」と、その場からいなくります。わたしなら
うん。絶対カイリ君にはついて行きません。
あ、物語終わっちゃいますね(笑)

リュシアス、ビャッコをどう納得させるのか・・・
するのかなー???

◆Aryuさん
今週はもうコメントをいただけないかと思っていたので、嬉しいです。
実はこのAryuさんのコメントを見る前に。
今回は珍しく、土曜日の今日、今週末分を書き上げたところです。
Aryuさんに納得していただける内容になっているかどうかは別にして~( ̄▽ ̄;

カイが仲間を傷つけたくないから
魔法で攻撃しなかったと想像するんですが
防御魔法まで使わなかったのが
いまいち分かりませんでした。

死ぬつもりだったのか・・・
でも回復魔法は使ってるし・・・

◆Leppardさん
コメント欄で解説するのは間抜けなので、したくないのですが……うーん、どうしよう。
ヒント(?)は「選んで欲しいんだ……この世界を救うかどうかを。」というカイリくんのセリフです。
死ぬつもりというわけではありません、ここでは。

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