珈琲は一日二杯まで

あずの気が向いたときに気が向いたことを書く場所です

ゲームのことを書いたり、絵を描いたり、漫画を描いたり、小説を書いたり、適当に何でもありな趣味のブログです。

竜連れ9-4

 
「竜を連れた魔法使い」
目次
 あらすじ
 第一話 沈まない太陽 (1) (2)
 第二話 手に入れた力 (1) (2) (3)
 第三話 竜たちの覚醒 (1) (2) (3)
 第四話 エルフの族長 (1) (2) (3)
 第五話 レッド・グー (1) (2) (3) (4) (5)
 第六話 不死の支配者 (1) (2) (3) (4)
 第七話 惑星の守護神 (1) (2) (3) (4)
 第八話 世界を継ぐ者 (1) (2) (3) (4)
 第九話 未来への約束 (1) (2) (3)


 第九話 未来への約束 (4)

 小雨が大雨に変わった。降り注ぐ雨粒が、カイリが着るカイ・リューベンスフィアの白いローブを重くし、リュシアスの豊かな銀のあごひげを縮めている。リュシアスが右手のウォーアクスを持ち上げて、宙に浮く大きな岩に向けた。
「テク、いつまで待たせる気だ?」
 カイリとリュシアスが決闘を始める定位置についてから、数十秒が過ぎていた。岩を持ち上げているマティが、大きな声で訴えた。
「ねえ、こんなこと間違ってる。世界を救うために仲間と殺し合うなんて、おかしいよ。他の方法を考えましょうよ!」
 呆れたように溜息をつくリュシアス。
「……だってよ。ビャッコのことは諦めな、カイリ。あいつは、俺のものなんだ」
 そう言いながらも、リュシアスは戦闘態勢を緩めてはいなかったし、カイリから目を離すこともなかった。ドワーフ族にとって、形式は異なるが決闘は日常茶飯事だ。特に族長を決める決闘では、たくさんの人々が集まりお祭り騒ぎになる。そんな大きな決闘から日常の小さな決闘まで、ずるいことをする奴は何人もいたし、立会人を味方につけて油断させる奴もたくさんいた。それでも生き残ってきたのは、彼の見た目以上に慎重な性格と、重ねた戦闘経験の賜物だろう。

 カイリは揺れる心と闘っていた。この決闘から逃げ出したい弱気な自分と。
(俺にはわからない……わかっているのは、他に方法がないということだけだ)
 世界を救うためには、四人全ての竜に、カイリを主人と認識させるしかない。もちろん口先だけではダメである。同調《シンクロ》するためには、身も心も捧げる覚悟が竜に必要だ。だが、そのために愛し合う者同士を引き裂くことが、正しいと言えるだろうか?
(俺は世界を救うと誓った。だが、そのためにリュシアスからビャッコを奪うことが正しいとは、どうしても思えない……)
 竜たちが箱によって起動されていれば、ここまで苦しむことはなかったかもしれない。彼女たちは〝契約〟として、心から主人に仕えるだけの存在だったはずだ。それが彼女たちにとって幸せかどうかはわからないが……少なくとも、それが当然のことと認識していたはずである。主人が変われば、心も変わる……まるでロボットのように。だが、スザクとゲンブは箱を起動させずに生まれたし、ビャッコはエラーによって主人が設定されないまま生まれた。唯一マニュアル通りに生まれたセイリュウも、今は主人不在の状態である。
 ――彼女たちは、自由だ。
 東の山からのぞいていた太陽が雨雲にすっかり隠されると、あたりが薄暗くなった。南の空で閃光とともに、ゴロゴロと空気を振るわせる音が響いた。雷である。
「次に空が光ったら、それを合図にしよう」
 カイリの提案に、リュシアスが「いいだろう」と答えた。

 カイリは、ここで死ぬつもりだった。レイウルフの時と同様に、過去に自分にかけていた事前詠唱魔法は一切解除している。世界を救う判断を仲間に委ねる……その考えは変わっていない。そして事前詠唱なしで、一流の戦士であるリュシアスに勝てる見込みはなかった。
 死にたいわけではない。だからといって、決闘をやめるつもりもなかった。生きたまま世界を救うことを諦めることは、カイリにはできない。この世界に召喚されてから今日までに、関わった人間は数少ない。それでも彼らのために世界を救えるのは、自分しかいないのだから。そして何より……カイリは自分の気持ちに気づいていた。
 彼女のために、世界を救いたいのだと――。その想いと、仲間を思う気持ちが、カイリの心を引き裂いていた。
 厚い雨雲が夜のように世界を暗くし、降り注ぐ雨と共に視界を悪くしている。今やリュシアスの顔さえ判別できなくなっていた。かろうじて手足の動きが見える程度だ。
 そして。
 空が光った――。

 無言のまま、リュシアスが駆けた。水たまりの水が跳ねたが、足元をすくわれることはない。振り上げた戦斧が振り下ろされる時、その先端は音速を超える。
「ばかやろう!!」
 声を上げたのも、その表情が歪むのも、カイリとリュシアスが同時だった。その瞬間、再び雲間に雷が光り、大地を照らした。音速を超えた斧は、リュシアスの筋力であっても絶対に止まることはない。
 リュシアスの正面に、光に照らし出されたマティの顔があった。小さな身体でいっぱいに手足を広げ、カイリをかばうように浮いている。その服も、緑がかった透明な翅も雨に濡れて。
 三十センチ以上の厚さがある壁を撃ち砕いたリュシアスの一撃である。間にマティが入ったくらいで止まるわけがなかった。たとえ彼女が〈衣蔽甲《シールド》〉の魔法を使っていたとしてもだ。マティごと、カイリが肉塊に変わるはずだった。
 ――が。
 その衝撃でリュシアスの腕が骨折しなかったのは、ドワーフ族の頑丈さゆえであろう。弾かれたウォーアクスが、音速に近い速さで背後の空に消えた。銀髪のドワーフ戦士の前には、何事もなかったように彼を睨みつけるフェアリの顔がある。
「…………! 決闘の邪魔をするのは、大罪だぞ」
 かろうじてリュシアスの口から漏れたのは、そんな言葉だった。カイリがかすれた声で言った。
「どいてろ、マティ」
 カイリは思い出した。エルフ族の中央神殿エリア内にある第一催事場で、ソロンがマティにエステルの居場所を教えていた時のことを。その時、カイリはエステルとの戦闘に備えて、事前詠唱魔法を唱えていた。その一つが、エステルのレイピアを防いだ〈衣蔽甲《シールド》・度等《ブースト》5〉である。ソロンと会話をしていたマティの身体が、いきなり魔法の光で白く輝き、二人を驚かせたことがあった。それは、〈衣蔽甲《シールド》・度等《ブースト》5〉の事前詠唱をマティにもかけた時だ。
 マティの声は、信念に満ちていた。
「絶対にどきません。絶対に、私がカイリを殺させません」
 その小さな身体からは信じられない迫力に、リュシアスがたじろいだ。
「やめろ、マティ。これは俺が決めたこ……」
 カイリがそう言いかけた時、振り返ったマティが今度はカイリに叫んだ。
「あなたは約束したでしょう!? この世界を救ってみせると! 言ったでしょう、任せてくれと! あれは、嘘ですか? 二千年にわたる私の思いを、もてあそんだと言うのですか?」
「…………!」
 言葉が出ないカイリ。リュシアスも黙ったままだ。身体を震わせるマティの両目から涙が溢れる。
「カイリ……あなたがここで死んだら……私は絶対に、あなたを許さない。あなたを呪って、私も死にます」
 きっぱりと言い放つマティ。カイリの表情が固まった。
「俺は……」
 返す言葉が無かった。マティの思いに比べて、自分にはまだ甘えがあったのだと思い知る。この世界を救いたいという思いが、マティの半分もあったと言えるだろうか? 死を覚悟したことは、ただの〝逃げ〟ではなかったか?
「……ごめん。君の言葉は、いつも俺に大切なことを思い出させる」
 カイリが静かに顔を上げた。その目に、強力な魔法を使う時の冷酷な光が宿っている。
「……やる気になったか」
 リュシアスが不敵な笑みを浮かべた。
「気にすることはない。大切な女のために決闘することは、ドワーフ族ではよくあることだ」
 ウォーアクスを失ったリュシアスが、こぶしを構えた。ドワーフ族の多くは、体術でも一流だ。
「ちょ……ちょっと待って。私は決闘をやめてほしいのよ!」
 マティの言葉はもう届かなかった。その瞳に冷めた光を宿したカイリは、マティでも止めることはできない。
「決闘は、やめだ」
「なに?」
 カイリの言葉に、とまどうリュシアス。カイリがはっきりと言った。
「全ての竜を連れて行く。邪魔をするなら、リュシアス……あなたでも殺す」
「そうきたか」
 リュシアスが行動を起こす前に、カイリが声を上げた。
「やれ、スザク」
 カイリに魔法詠唱の必要はなかった。ただ、スザクに命じれば良かった。今までそれをしなかっただけだ。これまで一度も、戦闘で竜に頼ったことはなかった。一瞬で皆の視線が集まる先で、スザクが右手を掲げていた。
 直後。空の雲とリュシアスの立つ地面の間を、太い稲妻が結んだ。すさまじい轟音。目がくらむ輝き。その威力は、〈一気通貫《ライトニング》・度等《ブースト》2〉をはるかに超える。
 ビャッコは何もできなかった。一つのナノマシンが二人の竜から同時に命令を受けた場合、風《ガシアス》系の竜であるビャッコよりも、火《プラズマ》系のスザクの命令を優先するのがナノマシンの設定だ。そしてスザクは以前よりもはるかに成長し、ナノマシンの扱いもスムーズになっていた。
「この先も、竜たちが自由意志を失うことはない。だが同調《シンクロ》するためには……今よりも深い関係が必要だ」
 その言葉をリュシアスは、地面から突き出した岩の天井の下で聞いた。ゲンブが瞬時に作った岩の屋根だ。それが雷の直撃を防いでいた。
「ゲンブはゲンブの判断で、あなたを助けた。繰り返すが、竜たちが自由意志を失うことはない。だからこそ強引にではなく、時間をかけて親密度を上げる必要があるんだ」
 カイリは、リュシアスがなんと言おうとビャッコを連れて行くつもりだったし、それをビャッコが拒否しない確信がすでにあった。
「リュシアス……あなたが、あなたに対するビャッコの気持ちを信じるなら……俺に預けてくれないか。ただ一緒に過ごすだけだ……洗脳するわけじゃない」
「嫌だと言ったら?」
 リュシアスの鋭い目がカイリを見つめている。
「俺を殺していけ、カイリ。かつてビャッコは言った。俺への誓約は、俺が死ぬまで有効だと。俺もそれでいいと思っている。ただし……おとなしく殺されはせんがな」
 エステル達エルフ族を空から襲う直前に、ビャッコはリュシアスにはっきりと言った。〝あなたのために、何でもいたしましょう〟――その誓約は、あなたが死ぬまで有効です……と。スザクとゲンブに比べると、箱が起動して誕生したビャッコは、本来の竜の性質を強く残している。主人と認めた者への忠誠心が強いのは、そのためだ。
 勝手に構えるリュシアスに対し、カイリに恐れはなかった。スザクが雷を落とした時に、〈衣蔽甲《シールド》・度等《ブースト》5〉を詠唱済みだ。ここでリュシアスを殺せば確かに、ビャッコが冷淡にも主人をカイリに替えやすくなる可能性はある。だが……。
「リュシアス」
 ビャッコがカイリとリュシアスの間に割って入った。
「ビャッコ」
 互いに見つめ合うリュシアスとビャッコ。ビャッコがゆっくりと言った。
「〝あなたが死ぬまで有効〟と言ったのは……あなたが死んだ時、私も死ぬからです。もちろん……プログラムである精霊《スピリット》系の竜が物理的に死ぬことはありません。記憶がリセットされ、新しい主人を迎えることになります。それは……今の私にとって死ぬことと同じです」
 リュシアスの目に涙が光った。話を続けるビャッコ。
「私は、本気のカイリには勝てません。それは〈鎮溢《エナジードレイン》〉を受けた時にわかっています。……あなたのために……あなたの未来のために私にできることは、カイリと共に世界を救うことだと……そう考えます」
 リュシアスが、自分の倍の背丈があるビャッコの腰に抱きついて泣いていた。その銀の髪を、ビャッコの滑らかな手が撫でている。
「愛しています……リュシアス」
「俺もだ、ビャッコ。俺には、お前だけだ」
 南の空に、雲の切れ間が見える。そこから西側の雲だけが、太陽に照らされて明るく光っていた。

「マティ」
 カイリが声をかけた。
「はい」
 返事をするマティに、カイリは無表情のままだ。
「三人目の決闘の相手に、君を指定したことは忘れてくれ」
「……はい」
 腑に落ちないまま答えるマティ。カイリがマティに背を向けた。
「数日後か、数年後かはわからない。世界を救ったら……救うことができたら、マティにどうしても話したいことがある。その時に、全て話すよ」
「今は、話せないことですか?」
 振り返ったカイリの視線とマティの視線がぶつかった。
「……そうだ。今の俺には、話す資格がない。でも、必ずその資格を手に入れる」
 見つめ合う二人は、互いの心を読もうと必死になっているようにも見える。
「それが今できる未来への約束だ」
「……わかりました」
 雲が流れ、大地に光が射した。空のピージは、すでに西の山に沈んだ後のようだ。
 そしてこの日。カイリと四人の竜は姿を消した。彼らが再び現れるのは、約三年後……世界が滅びると言われるタイムリミットの直前である。

 ~第九話完、最終話へ続く


コメント

うぉぉぉぉ、いよいよクライマックスが近づいてきたぞ(о^∇^о)ってあれ?今日土曜日なのに小説更新??

◆ヒデタルさん
今、右胸から脇のあたりに原因不明の痛みがあって、夜よく眠れなかったんですよ~( ̄▽ ̄;
それで、朝早く目が覚めたので、書いていました。
土曜日はいつも娘と遊ぶ日なんですが、娘が熱を出したので、少ししか遊ぶこともなく……昼過ぎに今回分が仕上がった次第です。
ようやく、次が最終話。
早く終わらせたいですw

ビャッコは大人ですねー
なるほど、カイリがリュシアスに勝つのではなく
ビャッコ自身がついて行くことに納得して
リュシアスに「待っていて欲しい」と言うのなら
リュシアスは待つでしょう。
いよいよ最終章。どうなるのか楽しみにしています。

が、笹谷家はインフルエンザで大変だそうですね。
お大事になさってください。ご家族が早く回復されることを祈ってます。
わたしも風邪をひいてしまいました。寒いのは苦手です(>_<)
お互い気をつけましょう。

◆Aryuさん
ありがとうございます。
Aryuさんもお風邪を召したということで、お大事にです。
本当にあと1話で書き終わるのか、今さら心配だったりします……。
が、今回は、さくっとしたエンディングを目指してみようと思います。
ああでもなぁ……某キャラについて最後にページを割きたい気も……もやもや。

ふー
二人の戦いが起きなくてよかったです^^

いよいよラストスパートですね!

◆Leppardさん
竜も含めた圧倒的力を見せつける……それはリュシアスではなく、ビャッコの心を動かし、それがリュシアスを納得させる……そんなイメージでした。
もうすぐ終わります!

コメントの投稿


管理者にだけOK


管理者に連絡する(メールフォーム)
※コメントを投稿できない場合にご利用ください。管理者からの返信はできません。
トラックバックURL

HOME

カウンタ

  • 閲覧/訪問数 since 2005
    hits / visits

最新の記事
最近のコメント
カテゴリ
月別アーカイブ

リンク
プロフィール

  • Author:あず霧絵(笹谷周平/ささ)
  • 誤字、脱字、リンクミスにお気づきの場合は、コメント欄にてお知らせいただけると助かります。

最近のトラックバック
商標/著作権等