珈琲は一日二杯まで

あずの気が向いたときに気が向いたことを書く場所です

ゲームのことを書いたり、絵を描いたり、漫画を描いたり、小説を書いたり、適当に何でもありな趣味のブログです。

FP3-1

 
「フレッシュ・プラネット」
目次
 第一話 黒髪と金髪 (1) (2)
 第二話 異変 (1) (2)


 第三話 思い出した? (1)

 子供の頃は、寝ながら見る〝夢〟というものが不思議だった。その鮮明さはマチマチで、夢の中で〝これは夢だ〟とたまにわかるようになる年齢も人それぞれらしい。少なくとも、幼い頃に気づくことはなかった。
 夢は脳の機能が低下している状態で体験するので、夢の中でその不自然さに気づくのは難しい。
 けれど、もし……神経を通じて脳に伝わる全ての信号を自由に操作できたとしたら? 脳が覚醒したまま体験するそれは夢ではなく、究極のヴァーチャル世界と言えるかもしれない。いずれにしても……それが現実ではないと知るすべはあるのだろうか?
 午後の教室は暖かく、陽の当たる窓際に座っている八重は、半分寝ぼけながらそんなことを考えていた。机の上には、書きかけの答案用紙がのっている。
 すぐ後ろの席に座る美和が、さらにその後ろから渡された答案用紙の束を八重に渡そうとした時。八重がぼーっとして背を向けたままであることに気づいた。テストの時間が終わったことに気づいていないようだ。
「八重ちゃん、テスト用紙……」
 美和の目が見開かれた。身体が固まった。
 八重のうなじから、肉の塊がムクムクと成長するのを目《ま》の当たりにした時、美和は恐怖に心臓をわし掴《づか》みにされたのだった。
 一番大切にしたかった友人が……その姿を、肉の塊に変えつつある……。
 悲鳴が上がった。目撃者は教室内の全員。目の前の光景が現実であることを、嫌でも認識させられる。
「か……鹿島さん!?」
 英語教師が大きな尻を床につけながら八重の名を叫んだ。彼女にしてみれば、声を出すだけで精一杯だったのだろう。それ以上は言葉が続かなかった。
「み……わ……ちゃ……」
 八重の言葉がかすかに聞こえた……気がした。
 ブンとうなった丸太のように太い肉の腕が、横から美和に向かって振られる。それをまともにくらった美和の身体が、教室の端まで吹き飛び、廊下との間にある引き戸にぶち当たった。その衝撃で、戸にはまっていたガラス窓が四散する。
 別の戸から逃げ出す生徒。壁や黒板に貼りついている生徒。教壇で腰を抜かしたまま動けない教師。騒ぎが聞こえて隣のA組から様子を見にきた数学の男性教師が、枠から外れた戸の手前で口をあんぐりと開けていた。その足元で、何事もなかったように立ち上がったのは美和だ。
「あ……あの子を呼んで来る。待ってて、八重ちゃん!」
 美和の頭に浮かんでいるのは、もちろん金髪の女生徒だった。
 ――ああ……A組に、外人が転校してきたとかいう噂だったな。
 女子トイレで聞いた弓香の言葉を思い出していた。隣の教室に彼女がいるはずだ。いてほしいと願った。彼女なら、八重ちゃんをなんとかしてくれるに違いない――と、信じた。
 B組で弓香たちが授業中にいないのはいつものことだが、A組の教室にも空席があった。時任がいない。そして……。美和が、その場にしゃがみこんだ。
 ざわめくA組の教室。そのどこを見ても、あのきらめく金色は見当たらなかった――。

   *

 焼けるような夕陽。
 眼下のオレンジ色の世界には、連なる畑といくつかの民家。牧場とそこに放された牛たちの長い影が小さく見える。そのどれもが凄《すさ》まじいスピードで流れていき、やがて海に出た。同時に、足元の太陽が見えなくなる。
〈すごいわね、ロイ……〉
〈ああ……これほど見事な〝再現《リプロダクション》〟は見たことがない〉
 美欧は夜空を飛んでいた。飛行機に乗って……という意味ではない。身体の周囲を覆う〝衣蔽甲《シールド》〟との摩擦で、大気が光の帯を空に描く。まるで流れ星だった。
〈……ねぇ、ロイ〉
〈……なんだ?〉
 地上には大都会の光が溢れている。役名《コマンド》〝離移地《フライ》〟で飛びながら、美欧はその美しさに見とれていた。
〈本当に……この世界を終わらせても、いいのかしら?〉
〈……それが君たちの仕事だ〉
〈……そういう言葉を、期待したわけじゃないんだけど〉
 冷たい口調とは裏腹に、美欧の口元がほころんでいた。冷静な言葉は、いかにもロイらしい。美欧が見ている幻想的な光の饗宴を、地上から三万五千七百八十六キロメートル離れた宇宙から、モニタを通してロイも見ているはずだ。だがこの男に、ロマンティックという言葉は無縁である。
〈〝偽物〟の世界だ……〉
 ぽつりとロイが言った。彼なりに、美欧の気持ちを察しての言葉だろう。その不器用な優しさは嫌いじゃない……と、美欧は思った。
〈〝偽物〟の生命から見たら、〝本物〟の世界なんじゃないかしら?〉
 素直じゃないことは、自分でもわかっている。自分の整理できない気持ちを、ロイにぶつけただけだ。優しさに甘えた八つ当たりである。
〈ごめん……こんな感傷、いつもなら美和のセリフなのに〉
〈美欧〉
〈え?〉
 ロイの口調に、緊張が走っていた。
〈急いで学校に戻ってくれ。今の美和では対処できない〉
〈了解〉
 夜空を駆ける光が、その輝きを増した――。

 ~(2)へ続く

コメント

夢、再現、偽物の世界
【むむむ】
話は変わりますが、わたしも「飛ぶ」夢をみたことがあります。
とても気持ちがよくて、目が覚めたときにがっかりします。
もっと飛んで(夢を見て)いたかったなーと・・・

◆Aryuさん
いいですねぇ!
私が見るのは、せいぜい、足は宙に浮くんだけど、目線は立っている高さと同じくらいです( ̄▽ ̄;
夢って、いろいろな意味で個人差があるみたいで、面白いですw
小説の方は、次回以降……盛り上げられるといいなぁ。

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