ささやかに駅メモ!

駅メモの旅先でたまに娘キャラ活動と出会うブログ
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駅メモ!の世界に足を踏み入れたところ、なんだか楽しいのでそのまま彷徨い始めました。ウロウロ。怖くないですよ?

FP3-2

 
「フレッシュ・プラネット」
目次
 第一話 黒髪と金髪 (1) (2)
 第二話 異変 (1) (2)
 第三話 思い出した? (1)


 第三話 思い出した? (2)

 八重の変わり果てた姿が等身大の肉人形だった頃、教室内はまだ、特撮映画の撮影中のように見えなくもなかった。ただ、八重の姿は本物だったし、ケガをした生徒の流す赤い血もまた本物だった。だが事態は、今やそんなレベルでは語れなくなっていた。
 路線バスの運転手。道を歩く営業マン。贅沢なランチを済ませたセレブ達。幼稚園から帰る途中の園児とその母親……。彼らが街外れの小高い丘の上に見たのは、高校の校舎から上半身を覗かせた爬虫類に似た巨大な怪物だった。腰のあたりに見えるタイル壁の校舎が、まるでスローモーションのように崩れるのが見える。
 怪物に姿を変えた八重は、もがき苦しんでいた。全身にひどい苦痛を感じているせいなのだが、人々からは、ただ暴れているようにしか見えない。背後には最初に瓦解《がかい》した校舎があり、足元に大小の瓦礫《がれき》が散乱していた。その下敷きなった生徒の中に、頭から血を流す弓香の姿もある。……すでに数十人の死者が出ているはずだ。
 五十キロ以上の重量はあろうコンクリートの塊が、怪物の背を転がり地面に落ちていった。その落下点にいた少女が、直撃を受けて倒れる。だが彼女は、何事もなかったように立ち上がった。……美和だ。
「八重ちゃん……八重ちゃん……」
 怪物を見上げながら、美和は気づいていた。自分の身体が普通とは違うことに。洗面台いっぱいの水に顔を浸《つ》けられても苦しくなかった。蹴られても、吹き飛ばされても痛みはなかった。一定以上の苦痛に対して、まるで痛覚が麻痺したように何も感じない。そして今、大きなコンクリートの塊が直撃しても、身体は平気で動く。つまり……痛みを感じないだけでなく、実際に身体がダメージを受けていないのだった。
 周囲で血まみれになって倒れている生徒達の中で、美和だけだが無傷で立っていた。
「八重ちゃん……」
 その言葉が爆音にかき消された。怪物を見おろすように、テレビ局のヘリが遠巻きに集まりはじめていた。その音を聞いて、八重の暴れ方が一層激しくなったように美和には見えた。
「やってみる……やってみるしかない」
 両目を閉じる美和。金髪の転校生が言っていた。
 ――私より、あんたの方がずっと強いの。
 その言葉を、今は信じよう……美和の小さな口が、ゆっくりと動いた。
「俳配《スタートアップ》……」
 美和の双眸が、赤く光った――。

 ピピピピピ……。
 人工の光と観葉植物にあふれた部屋の中に、電子音が響いた。身体を預けていた椅子から立ち上がって、ディスプレイが並ぶコンソールまで歩く男。表示されたマップとインジケータに目を走らせると、コード付きの小型マイクロフォンを口元に運んだ。
「異空間指数を一乗で検知した」
 すぐに卓上のスピーカから返事が聞こえた。
〈……美和なの?〉
「座標は一致する……間違いないだろう」
 マップ上で停止している光点が美和の位置。そこに向かって高速で移動する光点が、スピーカから聞こえる声の主がいる場所だ。それぞれの光点のわきに棒グラフが伸び縮みし、〝01〟の数字が表示されている。
 しばらくの静寂の後、スピーカから聞こえた声は震えていた。
〈……お……思い出したの……かな?〉
 光沢のあるブラウンの髪をかき上げるように手でおさえた青年が、一瞬固まった。鼻筋の通る整った顔が狼狽している。
「美欧……泣いているのか? まさか、君が?」
〈うるさい……ロイに、私の気持ちはわからないわよ〉
 ロイは黙った。生まれた時からずっと一緒にいる美和と美欧。特別な存在である彼女たちにとって、互いの関係は姉妹以上なのかもしれない。気丈な美欧が、美和に忘れられてどれだけの寂しさを感じていたのか……ロイは初めて理解した。
「ここからは、詳細な状況はわからない。慎重にな」
〈了解〉
 通信を切ると、丸い窓に目を向けるロイ。宇宙空間に浮かぶ青い惑星が、静かに輝いていた。

 俳配《スタートアップ》……その言葉を口にした途端。美和は、身体の奥からエネルギーが湧《わ》いてくるのを感じた。もっと正確に言えば、心の奥から溢れる……そんな感覚だった。
 そして。何者かの。それまで気づかなかった何者かの存在を感じ。その何者かの不快な心情を感じた。美和自身には、まるで誰かが耳元で舌打ちをしたかのように感じられたのだった。その正体が何なのか、意識を向けようとすればするほど、それは遠ざかり、やがて闇の彼方に消えた。最後に、緑色の細い尻尾のようなものが見えた気がした――。
「ああ……こんな……私、今まで……」
 思考を覆っていた深い霧が晴れるようだった。真っ先に、金髪の彼女の顔が浮かんだ。大切な……私の片われ……。
 普通の高校生としての記憶が、滑稽なほど曖昧だったことが今ならわかる。無理矢理植えつけられた嘘の記憶。その中には、幼少の記憶も、親兄弟の記憶さえなかったのに、不思議に思わなかった。一体どれほどの迷惑を、美欧にかけたのだろうか……。

 通模《インプット》・要俳《キーワード》……強く……硬く……厚く
 転配《コンパイル》・役名《コマンド》〝衣蔽甲《シールド》〟

 美和の紡ぐ言葉に、淀みはない。

 通模《インプット》・要俳《キーワード》……前方の有……後方の無……重力の傾斜
 転配《コンパイル》・役名《コマンド》〝離移地《フライ》〟

「……論《エグゼ》」
 美和の身体が、フワリと浮き上がる。周囲を飛ぶヘリの存在は気にならなかった。恐れるものは何もない。この宇宙で……自分達より強い存在など、ありえないのだから……。
「美和!」
 背後から掛けられた懐かしい声に、黒髪のポニーテールを揺らして振り向く。宙に浮く二人の少女が向かい合っていた。美和の表情を読んで、ニヤリと微笑む金髪の少女。
「……思い出した?」
「……まぁね」
 まずは眼下の八重を救うことが、彼女達の望みだった。

 ~第三話完、第四話へ続く

コメント

ここまで一部しか見えていなかった物語も
見和の意識の霧が晴れたように
「思い出した」見和達のなすべきことや
とりかこむ世界が見えてくるのでしょうね
次回以降が楽しみです。

◆Aryuさん
いつもコメントをありがとうございます。
次回以降は、ちょっと雰囲気が変わるかもしれません。
楽しんでいただければ良いのですが!

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