珈琲は一日二杯まで

笹谷の気が向いたときに気が向いたことを書く場所です

ゲームのことを書いたり、絵を描いたり、漫画を描いたり、小説を書いたり、適当に何でもありな趣味のブログです。

FP4-2

 
「フレッシュ・プラネット」
目次
 第一話 黒髪と金髪 (1) (2)
 第二話 異変 (1) (2)
 第三話 思い出した? (1) (2)
 第四話 M&M兵器 (1)


 第四話 M&M兵器 (2)

 雲が渦巻く空。ところどころで、残留電荷がバチバチと光を発している。瞬間的に発生したジュール熱で大気の対流が起こり、地上では砂嵐が暴れていた。
 舞い上がる砂塵で視界は悪く、吹き抜ける風の音で耳が痛い。その中で叫ぶ美欧。
「美和! ……無事!?」
 すぐそばにいた美和が、すぐに応えた。
「無事よ。美欧は?」
「大丈夫」
 その時、彼女たちを包んでいた砂の世界が風で流され、三六〇度にわたって元の赤茶けた荒野が現れた。そして同時に空を見上げる美和と美欧――二人の表情が固まった。
 ズン……と、大地が揺れた。
 宇宙船レッドフォックスが、その胴体を地面に押し付けていた。美和と美欧は、その下敷きだ。船体と地面に挟まれて声も出ない。船外スピーカから低い声が響いた。
〈……はずれたわよ、美和……美欧……〉
 挟まれたまま、反射的に顔をひきつらせる娘たち。
(か……かーちゃんだ!)
(おしおきだ!!)
 真っ青な二人をよそに、フォックス所長の声は静かだった。
「……かーちゃんね。思い込んでた」
 沈む夕陽が、透明な壁を介して彼女の半分をオレンジ色に染め、もう半分が青紫色の影になっている。
「あなた達が、私に攻撃なんかするはずないって……」
 東の空が、夜の闇に包まれつつあった。
〈でもそれは、かーちゃんの思い上がりだったわ……〉
 船外に響く声を聞きながら、レッドフォックスの下から自力ではい出してくる美和と美欧。
〈本当に……母親のつもりだったの……〉
 二人は、彼女たちの製作者が何を言おうとしているのか、わからなかった。
「かーちゃん達は、このまま研究所へ帰ります。あなた達は好きな所へ行きなさい――」
 太陽が沈み、暗くなりつつある艦橋。上昇を開始した宇宙船から、フォックス所長が地上の二人を見つめている。
「さようなら、美和、美欧――。でも、これだけは忘れないで……どこにいても……どんな時も……愛してるわ」
 その言葉と遠ざかるエンジン音を残し、宇宙船レッドフォックスは夕闇の雲間に姿を消した。暗い大地にたたずみ、空を見上げる二人の娘。
「かーちゃんの声、震えてたね……」
「うん……」
 美和の頬に、涙が伝っていた。
「泣いてたのかな?」
「かーちゃんが? まさか」
 青紫色のグラデーションに染まる空に、暗い雲が広がっている。
「美欧は、なんで泣いてるの?」
「あんたこそ」
「だって……だって、よくわかんないけど……きっと私たち、すごく悪いことしたんだよ!」
 弱気になる美和に対し、気丈に振る舞う美欧。
「なによ? 私たちは〝自由〟になったのよ!」
「ヤダよこんなの……。私、帰る! 正座だって、ちゃんとするもん!」
「……だめよ、今さら……許してくれないよ……」
 辺境の惑星が、無言の宇宙に包まれている。その宙域から遠ざかる宇宙船レッドフォックスに、通信が入った。
〈プレーン・フォックス博士! M&Mの軍への納期は、今日ですぞ!〉
(ふん……)
 透明な壁には、星空を背景に軍高官の姿が映し出されている。腕を組み、椅子に座ったまま、フォックス所長が口を開いた。
「将軍、残念ながらM&Mには重大な欠陥が発見されたため、廃棄処分致しました」
〈な……なんですと!? ま……まさか、他国に売り渡したわけではないでしょうな? 軍のヘリがM&Mの攻撃を受けたという情報が……〉
 プチッと小さな音がして通信が切れた。切ったのは、もちろんフォックス所長自身である。
「所長」
 その所長に背後から声をかけたのは、ブラウンヘアーの若い男ロイだった。
「ん?」
「M&M……いえ、我々の可愛い娘たちは、大丈夫でしょうか?」
 外見は一八歳に設計された二人だが、中身はまだ子供である。所長の決定とはいえ、〝宇宙最強兵器〟を放つことに、ロイは不安を覚えていた。くすりと笑うフォックス。
「生まれてまだ一年だが……あの二人には、私の信じる正義と道徳のすべてを教えてきた……」
 赤茶けた荒野が、猛烈に降り始めた雪によって、白く染まりつつあった。夜の雪の中を、二つの影が歩いている。一人は黒髪の娘、美和。まだ泣きながら目をこすっている。もう一人の娘は金髪の美欧。前を歩きながら、時々美和を振り返る。
 フォックスは、その二人を完全に信頼していた。
「あとは、人生経験を積むだけよ。心配いらないわ。必ずここへ帰ってくる……ひとまわりも、ふたまわりも成長してね」

 うたた寝から目を覚ました男が、三年前の出来事を夢に見ていたのだと自覚した。フォックス所長からは放っておけと言われていたのに、心配性の彼は結局、二人についてきてしまったのだった。
「研究所時代のコネクションが、これほど役立つとはね……」
 彼は知り合いを通じて、様々な〝依頼〟を引き受ける。銀河系に分布する国家勢力図とは無関係に、科学者達は独自のネットワークを持ち、人類の発展に貢献していた。それはすなわち、常に様々な難題を抱えている人々と知り合えるということだ。
「M&M兵器の戦闘原理は、異空間とのエネルギーのやり取り……無から有を生み、有を無に帰す……帝国一の天才フォックス所長が生み出した究極の兵器だが……不可能なはずの事件を解決する何でも屋……それが、今の俺たちだ」
 観葉植物と窓から見える宇宙空間に囲まれた部屋で、ロイがディスプレイに目をやった。地上の異空間指数が三乗に達している。
「惑星上では、汎数《レベル》3以上を転配《コンパイル》するなと言ってあるのに……あいつら……」
 これだから目を離せない……と思うロイだった。

 ~第四話完、第五話へ続く

コメント

「何でも屋」誕生のお話でしたか。
さて、今回の3人のお仕事はなんなのでしょうね?
そして、2話放置されたあの人も次回は救ってもらえるのかな?(笑)

いまさらですが、美和と美欧の名前
黒髪だから「和」で、金髪だから「欧」
とか、思ってみたり・・・

◆Aryuさん
いつもコメントを、ありがとうございます。
名前と髪の話は、主にその通りの理由です。
ひなりがなくてすみません( ̄▽ ̄;
最近になって、美月と美陽の方が良かったかなとも思ったり。
そうすると、美月の方が攻撃担当となって、月と太陽のイメージと合わなくなる感じもあるんですけど。

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