ささやかに駅メモ!

駅メモの旅先でたまに娘キャラ活動と出会うブログ
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駅メモ!の世界に足を踏み入れたところ、なんだか楽しいのでそのまま彷徨い始めました。ウロウロ。怖くないですよ?

時駆け2

 
「時を駆けなかった娘」
目次
 あらすじ
 (1)

 (2)

 救急車から降りると、大ケガの男はすぐに病院の奥に運ばれていき、宝石男と俺は急患用の受付に向かうように言われた。俺には、宝石男に聞きたいことがたくさんあったが、目の前に深刻な救急患者がいて、今まで聞ける雰囲気ではなかった。それ以上に宝石男の思いつめた表情が、話し掛けることをためらわせていた。だが今は、長椅子に腰掛けて受付から呼ばれるのを二人で待っている状態だ。落ち着きを取り戻しつつあった俺は、同じく少し落ち着いた様子の宝石男に話し掛けた。
「自販機で飲み物でも買ってきましょうか。何がいいです?」
「あ、すみません。俺はいいです。それより、言いにくいことなんですが……」
 大きな赤い宝石が散りばめられた銀のとんがり帽子が、今は彼のヒザの上に載せられている。柔らかそうに軽くカールした茶色い前髪の下で、彼の黒い瞳が力なく動いていた。
「その……保険証を貸してくれませんか? 病院の手続きがスムーズに行くと思いますし……ええと、今日、持ち合わせがなくても、なんとかなると思うんです」
 彼の言葉は、再び俺の警戒心を刺激した。今までに保険証を他人に貸したことなどない。身分証明書にもなるそれは、悪用されればひどい目に遭うに違いないのだ。明日からいきなり多額の借金を抱える身にでもなったら、目も当てられない。
「な……なんで、俺の保険証なんですか。そもそも、今は持っていませんよ。彼自身の保険証でなければ意味が……」
 俺はハッとした。大ケガの男は、俺にそっくりだった。それどころか髪型も、着ている服さえも、今日の俺と同じだった。
「俺じゃなきゃ駄目だって言ってたのは……はじめから俺の保険証をアテにしていたんですね。いったい彼は、誰なんです? どうして俺とそっくりの……」
 その時、受付から呼ぶ声が聞こえた。宝石男が立ち上がって、きっぱりと言った。
「あなたが他のカード類と一緒に、保険証を普段から持ち歩いていることは知っています。俺はあなたのことなら何でも知ってる。悪用するつもりなら、もっと上手くやっています。事情は後で必ず話しますから……お願いします」
「…………」
 何もかも気に入らなかった。得体が知れないくせに馴れ馴れしいこの男も、俺そっくりのケガ人の存在も、今病院にいることも。だいいち今日、俺は、とても大切な用事で家を出てきたのだ。たとえ自分のドッペルゲンガーが現れようとも、無視していいくらい重要な用件だ。
 ――唐突に、男が言った。
「唯衣《ゆい》……さんなら大丈夫です。今日の初デートは、待ち合わせに一時間遅れて来ますから、まだ時間に余裕があります」
「な……」
「保険証を貸してください」
 宝石男は、俺から保険証を受け取ると受付に向かった。三メートルほど離れたところにある受付のカウンターに、彼の後ろ姿が見える。
 どういうことなんだ……。俺はますます混乱していた。全てが謎だった。どうして宝石男が、唯衣のことまで知っているんだ。
 唯衣は、今年二年になったばかりの大学の後輩だ。天文サークルで知り合ったので趣味の共通性はあったが、性格はまるで違う。だが天然系で素直な性格の彼女が、俺には新鮮で可愛く感じられた。彼女もまた、ぶっきらぼうで他の女子からは敬遠されがちな俺を、なぜか慕ってくれていた。三月の終わりに意を決してデートを申し込み、あっさりOKをもらってから今日まで、俺は嬉しさと緊張の中で過ごしてきたのだ。
 まさに当日。このXデーに。こんなことに巻き込まれてしまった運命を、俺は呪いたい……。
 唯衣が一時間遅れてくるって……どうしてそんなことが、あの宝石男にわかるというのだ。いや、わかるはずがないが、一時間遅れそうな情報を持っているのかもしれない。電車事故のニュースでもあったのだろうか。いや、そんなことより、あの俺そっくりの男は何なんだ。俺そっくりの男が大ケガをしているというのは、ただケガ人を前にした以上にいい気分ではなかった。そんな俺そっくりの男を真剣に心配している宝石男……彼を、悪人とは思いたくない自分がいることも確かだ。いや、それは正確な判断を曇らせるだけのような気もする。そもそも俺そっくりの男が存在していることが問題じゃないか? 彼は何の目的があって、俺と同じ服装までしているのだ? この状況は俺にとって良いことか悪いことかと言えば、何か悪いことが起こっているとしか思えない……大ケガをしているところを見ると、何らかのトラブルがあったのは間違いないだろう。俺の知らなかった悪だくみがあって、たまたまこういう形で露見したのだとは考えられないか……。いや、ただの大学生の俺に、ここまで手のこんだ悪だくみなんて……。
 思考はグルグルと回るだけで、何の結論も導けなかった。事情は後で必ず話します――そう言った彼の言葉に期待するしかない。
 自販機で一個だけ四角いパックのお茶を買い、カラカラに乾いた喉を潤している時だった。受付の方から大声が聞こえた。
「助かるんですか!? 助かるんですよね!?」
 怒っているのか泣いているのかわからない叫び声の主は、宝石男だった。直後、こちらに早足で戻ってきてこう言った。
「今から俺は、手術室の前に移動します。手術は長くなるかもしれませんので、あなたは帰っていただいて結構です。ありがとうございました」
 差し出された保険証を受け取りながら、俺は心を決めた。
「俺も行きますから……そこで全てを話してください。あなたが俺のことを何でも知っているなら、このまま納得して帰るわけがないこともわかりますよね」
「でも、それでは唯衣との……いえ、唯衣さんとの待ち合わせが……」
 俺と目が合った彼は、少しばかりの間の後に“わかりました”と答えた。

   *

 手術室前の廊下は、想像していた以上に静かだった。もっとあわただしい雰囲気があるのかと思ったが、今のところ出入りする人もなく、通りかかる人もいない。防音性がいいのか、中の音も人の話し声も聞こえず、静まり返っている。ただ“手術中”の赤いランプだけが、部屋の中が無人でないことを伝えていた。
 もし今回の事件が俺に関わることだけだったら、俺は気にしながらも病院を後にし、デートの待ち合わせに向かったかもしれない。少なくともまず病院の外に出て、ケータイから唯衣に電話をかけただろう。だが今俺の隣に座っている宝石男は、唯衣の名前を口にしていた。この不思議な男は、目を離したら二度と会えないかもしれない……俺と唯衣の何を知っているのか、どうしても聞いておきたかった。
 指を組んだ両手を額に当てて、祈るようにうつむいていた宝石男が、口を開いた。
「俺は……タイムパトロールの助手です。俺の時間で、ほんの六時間ほど前に就任したばかりの新人ですが……」
「……え?」
「ケガをした彼は、私と同じくほんの六時間ほど前にタイムパトロールになったばかりの新人です。これから二人で、未来に新人研修を受けにいくはずだったのですが……タイムマシンがトラブって、あの時刻の公園に放り出されてしまいました。その時の衝撃で、彼が大ケガを……」
 俺はまず、“タイムパトロール”という突拍子もない話を信じるところから始めなければならないらしかった……。

 ~最終回へ続く


コメント

タイムパラドックスが発生しそうな・・・・・・・
この4人の関係が気になりますね~
続きが楽しみです~

◆Yuunanさん
コメントありがとうございます。
発生しますね、この感じだと~。
以前に比べるとスローペースですが、また続きを書きますね!

タイムパトロールは、未来の人がなるって先入観があったのですが
その時代時代の「現地人」ならぬ「現時人」をスカウトしていて
その人達は未来に研修に行くということなのかな。
面白い設定だと思いました。
研修生を乗せたバスが事故にあったような感じですね。
服装からして別の時代の研修生らしい宝石男は
ただの同僚にしては色々知っていたり、気にかけたりしていて
・・・・(サイレス)なのかな?とか
まったり続きを待ってます。【楽しみ】

◆Aryuさん
いつもコメントをありがとうございます。
今回の小説は、絡み合う複雑な設定みたいなものは考えていなくて、ネタとしては1つだけなので、短く済む予定です。
あと2回くらいで完結したいなと思っていますが、うん、たぶんそれくらいで……たぶん終わります( ̄▽ ̄;

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