珈琲は一日二杯まで

あずの気が向いたときに気が向いたことを書く場所です

ゲームのことを書いたり、絵を描いたり、漫画を描いたり、小説を書いたり、適当に何でもありな趣味のブログです。

時駆け3(最終回)

 
「時を駆けなかった娘」
目次
 あらすじ
 (1)
 (2)

 (最終回)

「それで、それで!?」
 唯衣《ゆい》が目を大きく見開いて、頬を紅潮させていた。そうだった。こういう話は、彼女の大好物だ。七年の付き合いでよくわかっている。
「つまり、こういうことさ」
 ベランダに差し込む秋の日差しが、眩しい陽だまりを作っている。それを眺めながら、俺は優しい気持ちで話を続けた。

   *

 あなたのことなら何でも知っているので、すぐには信じてもらえないことはわかっています……が、まぁ聞いてください――。そう呟く宝石男は、俺そっくりの大ケガ男を心配しすぎて、心が麻痺してしまっているかのように静かな口調だった。
「俺は、俺の時間で六時間ほど前……ある女性と待ち合わせをした喫茶店で、時間を潰していました」
 ……何の話だ? 俺はとりあえず、黙っていた。
「彼女は、約束した時間から一時間遅れて姿を見せたのですが……開口一番、こう言ったんです」
 その時は、今みたいな宝石だらけの格好ではなく、普通の服装だったという宝石男の話は、こうだった――。

「遅れてごめんなさい、東條先輩」
「いや、いいって。俺もかなり遅れてさ。もう朝野さんが怒って帰っちゃった後だったらどうしようと、心配していたところだったから」
 手にしていたコーヒーカップをテーブルに置きながら、慣れない嘘をついて笑顔を見せる男に、女はさらに謝った。
「ごめんなさい。私、先輩とはお付き合いできなくなりました」
「……え」
 真っ青になる男。いろいろな考えが、頭を一気に駆け巡り、言葉が出てこない。別の誰かと付き合うことになったのか――それが、考えうる最悪の結果だった。だが、彼女の次の言葉は、男が想像できるはずもない内容だった。
「今さっきそこで、“未来人”に会っちゃったんです。それで私、一時間近く話しこんじゃったんですけど……彼にスカウトされて、タイムパトロールになることを決めました!」
「…………」
 ぽかんと口をあける男。これは彼女流の、待ち合わせに遅れた場を和ませるギャグなのだろうか……。付き合えないというのは、冗談だったのだろうか……。
「そ……そっか。じゃあ、俺もタイムパトロールになっちゃおうかなー。そうすれば朝野さんと……」
「先輩なら、そう言ってくれると思っていました!」
 指を組んだ両手を頬に寄せて、全身で喜びを表現する彼女。ただ――と、申し訳なさそうに話を続けた。
「今回タイムパトロールになれるのは、一人だけみたいで……先輩は、タイムパトロールの“助手”という形になっちゃうみたいなんですけど……」
「いいよ、いいよ、朝野さんと一緒にいられるなら」
 ギャグにしては、話が長いな……と思いつつ、男は安心していた。初デートで出会った瞬間にフラれた、というわけではないらしい。
「何か、注文するよ。コーヒーでいいかな?」
「先輩に、もう一つお願いがあります」
 彼女の瞳は真剣だ。その頃になってようやく男は、これはギャグじゃないのかもしれないと思い始めた。
「タイムパトロールには、男の人しかなれないらしくて……未来人の彼が言うには、男の人の身体をもらえば、タイムパトロールになれると……」
「え」
 なんだかややこしい話になってきた……ただ、この話が場を和ませるためのギャグではないことは確かなようだ。
「先輩の身体を私にください。タイムパトロールの“助手”も、男の人しかなれないそうなので……先輩は、未来人の彼の身体をもらってください。彼には私の身体をあげます」
「ちょ……待て待て。それなら、俺は今のままで、朝野さんとその彼が身体を交換すれば……いや、それはもっと嫌だな……」
 好きな女が、知らない男の身体になるのを想像して、男は顔をしかめた。
「タイムパトロールの人が定期的に交代するのは、本人の心の負担もあるけど、タイムパトロールの正体がバレにくいようにという配慮からなんだそうです。だから、私が彼の身体をもらうわけにはいかなくて。……彼も元は女だったそうで、できれば女の身体に戻りたいって言っていたから、私の身体をあげる約束をしちゃったんです」
「……その非常識なほどの決断力は、さすが朝野さんと言うか……」
 自分だったら、そんな約束は絶対にできない……と男は思った。
 その後、男は彼女と一緒に未来人に会い、タイムパトロールの助手になったという。三人は未来の技術で身体を交換し、男はめでたく未来人の姿……宝石男になったというわけだ。

 俺は言葉を失っていた口を、ゆっくりと開いた。
「じゃあ……今、手術を受けている俺そっくりの男は……朝野……朝野唯衣《ゆい》なのか」
 宝石男が、無言のまま頷いた。
「お前は……その宝石だらけの格好をしたお前は……未来人の姿になった東條春彦……“俺”だって言うのか」
 宝石男が、再び頷いた。俺は浮かせた腰を長椅子の上に戻し、それから背中を壁にあずけた。
「……なんて未来だ」
 とりあえず、手術の結果が心配だった。俺そっくりの大ケガ男の中身が唯衣だという事実は、どうにも実感がわかなかったが。
「俺のことは、何でも知っている……って、それはそうだよな、俺なんだから」
「…………!」
 その時、手術室の扉から医師が出てきた。宝石男と俺は立ち上がって、その医師を捕まえる。まだ止血しただけだが、内臓は傷ついていないので助かるだろうとの言葉。俺と、少し未来の俺は、二人で安堵の息をもらした――。
 気が付くと、唯衣との待ち合わせ時間を三十分過ぎたところだった。彼女が待ち合わせの喫茶店に顔を出すのは、今から三十分後ということになる。
「俺、唯衣との待ち合わせに行きます……今聞いた話を聞かされると思うと、少し憂鬱だけど……」
「いろいろ、ありがとうございました。……なんだか、変な感じですね」
 宝石男が頭を下げた。本当に変な感じだ。

 待ち合わせの喫茶店に、唯衣が顔を見せた。
「遅れてごめんなさい、東條先輩」
「いや、いいって。俺もかなり遅れてさ。さっき着いたところだから」
 本当のことだった。そして覚悟を決めて次の言葉を待つ。
「先輩、ひどいです! デートの日に、ケータイの電源を切ってるなんて!」
「え」
 俺は、ケータイの入っている胸ポケットに手を当てた。そうだった。救急車を降りて病院に入ったら、医療機器に影響があるからとかなんとか書かれた張り紙を見て、ケータイの電源を切ったままだったのだ。
「勇気を出して、先輩の自宅の電話にかけて……そうしたら、先輩のお母さんと話がはずんじゃって、気がついたら一時間近く話しこんでいて……遅れちゃいました」
「…………」
 俺は唯衣に聞いた。
「未来人に会わなかった?」
「何の話ですか?」
 ……脱力した。
 つまり、こうだ。俺が少し未来の俺に会ったせいで、本来なら切るはずがないケータイの電源を切っていた。本来なら俺とケータイで話し、すぐに家を出るはずだった唯衣が、俺のお袋と長電話をすることになり、家を出る時間が遅れた。その結果、唯衣をスカウトするはずだった未来人と唯衣が出会うことはなかった……。

   *

 二六歳になった唯衣が、俺の顔を見つめていた。
「……タイムパラドックスーだね」
「何が?」
 得意げな顔で説明する唯衣。
「春くんが宝石男の春くんと会ったせいで、実際には宝石男になることがなくなったわけでしょ。でも、春くんが宝石男にならなかったら、そもそも宝石男に会うこともなかったわけで……矛盾してる」
 ああ……と俺は答えた。
「あれだろ。時間を超えた時点で、別の世界……パラレルワールドが生まれるとかいう……」
「そうだけど……そうだとしたら、タイムパトロールなんて意味があるのかなーと思って」
 それはそうだな、と俺は思った。そもそも、過去の人間を調達する時点で、その後の未来が変わるということだ。タイムパトロールの仕事が、歴史を変えるような事件の阻止だとしたら、彼らの存在自体が矛盾している。
「……タイムパトロールって、ちょっと違うのかも」
 唯衣が思いついたように言った。
「歴史を変えないようにしているんじゃなくて……たくさんの歴史を作って、いろいろな可能性を試している人たちなんじゃないかな」
「……ふーん」
 俺には、今日になって唯衣の前に現れた宝石男……別世界で別の運命を生きるもう一人の俺の気持ちがよくわかった。
「見たかったんだろうな……タイムパトロールになることもなく、普通に暮らす俺たちを。俺と結婚した唯衣を……」
 俺は、少し考えてからこう言った。
「間違いなく、これだけは言えるね」
「何?」
 できるだけ真面目に、唯衣を見つめる。
「数あるパラレルワールドの中でも、俺たちが一番幸せな日々を送っているってこと」
 頬を染める唯衣。それが、俺と唯衣が幸せである確かな証だった。 

時を駆けなかった娘・完


コメント

最終回面白かったです
干渉が干渉を呼んでさらに別の干渉があって・・・・
物語の中だからいいけど
実際にこのようなことがあったら・・・・
歴史を変えてしまったら元の世界に戻れなくなったりとか


FF11でも過去に行ったりしてるけど・・・・
どうなるんでしょうね~
まさか歴史を変えてしまうこともあったり?

◆Yuunanさん
最後までお付き合い、ありがとうございます!
元の世界には戻れないでしょうね~。
戻れるなら、タイムパラドックスは避けられないので……。
元の世界に限りなく近い世界には行けるかもしれませんけど。
FFXIの方も、NPC達のセリフからすると、過去に干渉した時点でかどうかは別として、未来が複数存在しているようですし。
歴史を変えるというより、どの未来を選ぶかという感じでしょうか。
今回こんな話を書きましたが、時間を超える話は、個人的にはファンタジー世界を語るより非現実的な気がして、実は違和感を覚えます。
ただ、理屈をこねるんじゃなくて、トリッキーな話を楽しむ上では面白いですよね♪

こんにちは( ゚∀゚)ノ

最終話を読ませて頂いて、「時を駆けなかった娘」の題に超納得しつつ、このようなお話を考え付くアイデアに驚きです。とても面白くて、でもすんなりと読めてしまうのがすごいですねヽ(゜∀゜)ノ

いまは竜を~のほうを読ませて頂いてます!(今更

◆Jさん
こんにちは。
読んでいただき、ありがとうございます!
小説を書き始めてから、書くたびに短くなってきて、ようやく、ここまで短い話を書けるようになったという感じです。
まだ長いですけど……もっと短い話を書けるようになれば、少しは上達するのかなぁと漠然と思っていたり。
竜を連れた魔法使いは、2作品目なので、まだかなり長いですね( ̄▽ ̄;
Jさんが描かれたAAEVを見た時に、これ、後ろ髪が長ければエステル……と思ったのは秘密です。
前髪が耳前まで伸びる髪のデザインが、私が大学生の時に漫画に描いたエステルと同じだったので……( ̄▽ ̄)

こんにちは。完結おめでとうございます。

自分のことのようにわかる宝石男の言葉に
未来から来た=子孫?みたいな安易な想像をしつつ
でも、子供だって親のことを全部知ってるわけじゃないし
春彦はタイムパトロールに監視されるような人物なのかな?
とか、色々考えていましたが
中の人が入れ替わっていたとは・・・

体の交換(精神の入れ替わり)は
お話としてどこかでも見たことはありますが
ここでそれをつなげることはできなくて
やっぱりサシュさんはすごいと思いました。

書き直しも新作も期待して待ってます。
(短い感想が書けないw)

◆Aryuさん
こんにちは。
いつもいつも、どうもありがとうございます!
推理小説ではないので、特にヒントの出し方とか考えていませんが、Aryuさんのように色々と話の展開を想像していただけるのは、とても嬉しいです。
連載中ならではの楽しみ方をしてもらえていると言うか……!
身体の交換ネタは、たくさんの作品で使われていますよね。
この作品で最も書きたかったのは、今一緒にいる相手と一緒にいられるのは、たくさんある歴史の選択肢の中の1つにすぎないという儚さのようなものです……が、私の技量不足でそれは伝わらなくても、何かしら読んで良かったと感じてもらえる部分があればいいなぁと思っています。
で、そのためのストーリーを組み立てる過程で、身体の交換ネタも出てきました。
書き直しと新作も、気長に待っていただけるとありがたいです。
それから、感想は長い方が嬉しいに決まっています!( ̄▽ ̄〃
……短くても、コメントをいただけるだけで嬉しいですけどw

コメントを頂いたので、こっちも読んでみました。
やっぱり面白いですね!
ちょうどいいところで、現実に戻ったり話に戻ったりと・・・
どうやっても真似できなさそうな技術ばっかな気がします。
これからも、いろいろな話を書いてくださいね。
時間があればになりますが、じっくり読みたいと思います!(^-^)v

そういえば、私のブログのURLをとっても恥ずかしいのですが、書いておきますね。
できればコメントをいただけるといいです・・・・・
http://ameblo.jp/mikamine110

◆蜜柑さん
こちらにまでコメントをどうもありがとうございます。
ブログのURLもありがとうございました。
コメントさせていただきに伺いますね!

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