珈琲は一日二杯まで

あずの気が向いたときに気が向いたことを書く場所です

ゲームのことを書いたり、絵を描いたり、漫画を描いたり、小説を書いたり、適当に何でもありな趣味のブログです。

竜槍1-1

 
「竜を連れた槍使い」
目次


 第一話 世界闘技大会の用心棒 (1)

 この世界に夜はない
 白く大きな太陽が 東の地平に顔を出したままだから
 この世界に海はない
 東の海は干上がり 死の砂漠となったから
 西の海は凍りつき 死の氷壁となったから
 万物を見守る女神サルネイアよ
 小さな箱庭に生きる我々を 優しい心で見守りたまえ
 いつまでも いつまでも

 吟遊詩人の歌が心地よく響く窓のない地下酒場で、背が低く丸々と太った老人が、顔の半分を埋めるボウボウに膨れ上がった白ヒゲを左手でいじっていた。ランプの揺れる光に照らされた彼の眉間にはシワが寄り、不機嫌そうな表情《かお》だ。酒の入った木製のカップがテーブルの上で震えている。テーブルに置かれた老人の腕が怒りで震えているせいだった。
 満席の店内を占める客の大半は筋骨隆々の男たちだったが、老人の視線の先にいる白いローブ姿の男は違っていた。黒い口ヒゲを綺麗にカールさせ、逆三角形のアゴヒゲを五センチほど伸ばした長身の男は、他の客とは対照的に痩せている。武具に触ったことさえないのではないかと思える細く美しい指が、女性店員の白いアゴを持ち上げていた。
「お嬢さん――〝夜〟とは何か、〝海〟とは何か、ご存知かな?」
 黒ヒゲの男はさらに何かを小声で囁《ささや》き、女のアゴに当てていた左手を女の右頬に移した。それから右の手のひらで女の短い金髪を何度も撫でた。
 酔った客の扱いには慣れている筈の女性店員。だが彼女の反応は鈍かった。虚ろな目で男を見つめたまま、ゆっくりと首を横に振る。
「ご存知ない? 無理もない……聡明な我々エルフ族であっても、この有名な古《いにしえ》の詩《うた》を理解できる者は一人もいないのだから。今の世界には無いもの……としか言いようがない。ましてや卑しいヒューマン族の君に、わかる筈もない――」
 男の言葉は、たわいない世間話のように聞こえた。だが、女の様子は明らかにおかしい。まるで薬物でも使われたかのように虚ろな表情だ。
「おい、いい加減にしろ!」
 腹に響く重低音の声が室内に轟いた。その声に含まれる怒りの成分が、騒がしかった店内をシンとさせる。椅子から立ち上がった白ヒゲの老人が、こぶしを震わせて黒ヒゲの男を睨んでいた。
「おい、エルフ野郎! 女を口説くのに、いちいち魔法を使うんじゃねぇ。汎数《レベル》2以上の魔法を街中で使うことは、お前らの国でも禁止されている筈だ!」
「…………」
 黒ヒゲの男が、面白くなさそうに老人を振り返った。男の耳は頭の横から上に伸びていて、一目でエルフ族のそれとわかる。一方、老人の耳もヒューマン族のように丸くはなく、上端が尖《とが》っていた。
「おや、大陸から遠く離れたこのような地にも、脳無しのドワーフ族がいるとはね……。ここはヒューマン族の国と聞いていたんだが、まさか……いや、力だけがとりえのドワーフ族には、他に理由があるはずもない。おまえも〝世界闘技大会《エラントヴァール》〟の参加者……というわけか」
 長身の黒ヒゲが、背の低い白ヒゲの老人を遠慮なく蔑《さげす》み、見下ろしている。
 酒場の中がざわめいた。
「ふふ……猛者《もさ》どもが、ざわついてやがる」
 カウンター席でそう呟いたのは、黒髪の青年だった。
「世界大会と名はついてるが、まさか本当に見たこともねえ異国からの参加者がいるたぁ、思ってなかっただろうからなぁ」
 青年の身体を覆う立派な筋肉は、他の客に負けていない。彼の独り言が耳に入ってきた左隣の小太りな中年男が、そっと話しかけた。
「今日は強面《こわもて》の客ばかりで、正直ちっとも酒がうまくないよ。お前さんも見ない顔だが、エラントヴァールの参加者なのかい?」
 振り向いた青年が、陽気な笑顔で答えた。
「はっは、違ぇよ、俺は」
 その時、店の真ん中で、ガタガタ、カラカラと大きな音がした。木製のテーブルと椅子がひっくり返り、同じく木製の食器類が食べ物や酒と一緒に散らばっている。白ヒゲの老人が、黒ヒゲの男の胸倉をつかんでいた。背が低いので、見上げる格好だ。
「お前が使った魔法は〈翻弄頭《コンフュージョン》〉……戦場で敵の意識を混濁させる魔法だが。魔法耐性のないヒューマン族に使えば、一年は後遺症が残る汎数《レベル》3の魔法だ。可愛そうに、あの娘……一年は働けん……病気の母親の面倒を、誰がみると言うんだ……」
 黒ヒゲのエルフ族が大声で笑った。
「はっはっは、そんな事情を知っているとは、お前、あの娘と懇意にしていたようだな。シワ肌のドワーフ族が、色気を出しやがって」
 小太りな中年男が、青年の横で目を丸くしていた。
「レベル3の魔法だって? 魔法にレベルがあるとは知らなかったな。それにあのエルフ族の人、本当にエラントヴァールに参加するつもりなのかね? 軽い剣でも持てなさそうに見えるけどねぇ……」
 黒髪の青年が、視線だけを痩せたエルフ族の男に走らせてから呟いた。
「まぁ、俺たちヒューマン族の国じゃあ、生活に便利な汎数《レベル》1の魔法しか知られてねぇからな……。汎数《レベル》2以上の魔法になると、十分闘いに通用する力になる」
 目を細める中年男。
「へぇ……お前さん、物知りだねぇ。エラントヴァールに魔法で参戦……ってのもありってことかい。俺の勘だと、お前さんは運び屋か……商隊の護衛ってとこだろう。少なくとも、この国を出て大陸に渡るような仕事に違いない」
 中年男の興味は、騒ぎを起こしている異国の二人よりも、黒髪の青年に向いたようだった。青年の向こう側を指で指した。
「で、さっきから気になってるんだけど……そのでかくて長い包みは何なんだい?」
 陽気な青年が一瞬だけ浮かべた警戒の表情を、中年男は見逃さなかった。
「きっと、大切な物なんだろうね」
 青年の横……中年男の席とは反対側の空席で、白い布で丁寧に包まれた細長い何かがカウンターテーブルに立てかけられていた。高さは、三メートルはありそうだ。天井の低い店だったら、立てて置くことはできなかったに違いない。
 青年が酒の入ったカップを片手に、前を向いたまま微笑んだ。
「大事な物っちゃあ、大事な物だな。親父の形見なんだ」
「ほう」
 中年男はそれ以上、白く長い包みについて話題にすることはなかった。
「お前さん、その身体を見る限り、相当鍛えているだろう。本当に、エラントヴァールには参加しないのかい? 参加するなら、応援するんだがなあ……」
 中年男の真面目な表情を見て、青年が頭を掻きながら照れ笑いを浮かべた。
「はは、確かに毎日鍛錬しちゃあいるけど……それは、親父の遺言を守ってるだけでさ。実ぁ俺、まだ人を相手に戦ったことがねぇんだよ。どう戦ったらいいのか、わかんねぇ」
 情けない顔の青年を見て、中年男が吹き出した。
「あっはっは、それじゃあ仕方ないな。真面目に日々の仕事をこなすことだ。それが人生で一番大切なことだよ」
 背後でドカンと大きな音がした。中年男が振り返ると、店の真ん中で厚い木のテーブルが真っ二つに割れている。ドワーフ族の老人が、背にしていた戦斧で叩き割ったのだ。驚嘆する中年男の視線の先で、今度はエルフ族の男が呪文を唱え、テーブルも食器類も区別なく店の隅に吹き飛ばした。何も言えない店長が、カウンターの奥で顔を青くしている……。
 酒場の中は、今や狭い闘技場のようだった。大勢いた客の男たちは、壁に貼り付いて観客《ギャラリー》となっている。中年男が興奮した声を漏らした。
「見なよ、お前さん。俺は、こうなると思ってたよ。戦うのは苦手だが、観るのは好きなんだ」
「ああ、おっさん、ひとつだけ言っとくけど」
 青年の言葉に、中年男が軽く返事をした。
「なんだい?」
「気を付けなよ。下手に手を出すと、怪我するぜ」
「手なんて出すわけないよ、観てるだけだって」
 ドワーフ族の老人と、エルフ族の男が向かい合っている。今にも戦いが始まろうとしたその時……入口の扉が、大きな音とともに開かれた――。
「エラントヴァールの開催期間および、その前後三日間における私闘は、特法違反である!」
 場の空気が一瞬で変わった。店内に響く感情のない大きな声に、客たちの興奮が急に冷めていった。警ら隊が来やがった――そんな声が漏れ聞こえる。今から、いいところだったのに――とも。
 どかどかと数人の重装備の男たちが部屋の中央までなだれ込んでくる。国から正式に警備権限を委譲されたエラントヴァール開催委員会直轄の警ら隊である。こうなると騒ぎを起こした張本人二人は、大人しく捕まるしかない。警ら隊に手を出せば、エラントヴァールへの参加権が剥奪されてしまうからだ。
「大人しくしていれば、明日の朝には解放される。今夜は……」
 警ら隊の隊長が決まり文句を放っている時。突然、カウンター席の方から大きな悲鳴が聞こえた。ぎゃあという男の叫びだ。店内の全員が振り向くと、そこに小太りの中年男がうずくまっていた。カウンター席で黒髪の青年と会話をしていた男だ。
「指が……指がぁ……!」
 中年男の周囲にいた客たちが左右に移動し、警ら隊隊長の視界を確保した。精悍な顔つきの隊長が目にしたのは、三メートルはありそうな長くて白い大きな包み。横倒しになったそれが床にあり、中年男の両腕が包みの下に伸びている。
「だから手を出すなって言ったろ。別に金目のもんじゃねぇって」
 黒髪の青年が近寄り、ヒョイと……軽々と、白い包みを持ち上げた。ヒイイと情けない声を出しながら、中年男が自分の手を引っ込める。白い包みの重さで、両手の指が完全に潰れていた。もちろん血まみれだ。骨ごと砕けていて、二度と使い物にならないだろう……。
「普通の人間がコレを持とうとすると、その重さでたいていケガをしちまうんだ。もっとはっきり言っておけば良かったなぁ……すまねぇな、おっさん」
 あまりの痛みと絶望で、中年男が震えながら涙を流している。警ら隊の隊長が、無表情のまま青年に声をかけた。
「その男は、手配されていたケチな置き引きだ。少額ながら逮捕協力への報奨金を出そう……と、言いたいところだが……」
 厳しくなる隊長の顔。青年が苦笑いを浮かべている。
「小僧、貴様の顔は覚えているぞ……大会の用心棒として、二日前に委員会に雇われた奴だろう。我々警ら隊が来る前に、今回の騒ぎを止めるくらいの働きはしても良かったのではないか?」
「えー、まぁでも、俺の仕事は、大会当日の会場警備なわけで……べらぼうに強い大会参加者様の相手なんて、とてもとても……」
 フンと鼻を鳴らすと、隊長が踵《きびす》を返した。相手にするだけバカらしいと思ったのだろう。青年は苦笑いを浮かべたままだ。
「大人しくしろ。大会に出たかったらな」
 警ら隊に言われるまでもなく、ドワーフ族とエルフ族の二人は大人しく連行されて行った。その様子を見て、すっかり白けた客たちも滅茶苦茶になった店を出ていく。客のほとんどは大会参加者だ。優勝は俺に間違いない……そんな会話が聞こえてくる。その中に、白い包みを抱えた青年のことを気にする者はいない。
 ぼそりと呟く青年。
「大会の決勝は、あの二人の闘いになるだろうな……」
 店員たちが掃除を始め、青年も店を出て行く。愚痴をこぼしなら床を掃いていた若い店員の一人が気づいた。――一人だけ、まだ客が残っていることに。
「お客さん、もう今夜は店じまいですよ」
 くすんだ赤色のローブ姿をした客が、短く答える。
「ええ、ごめんなさい」
 若い女の声だった。深く被《かぶ》ったフードのせいで、顔は見えない。よれたフードからわずかにこぼれている黒髪は、サラサラのストレートだ。店のドアを開け、地上に向かう階段を上る……。
「あれが、〝重槍使いのジーク〟……あんなに若いとは思わなかった。でも……」
 女の独り言が続いた。
「……ついに、見つけたんだわ」

 ~(2)へ続く~

コメント

おおおおおおおお
新しいSSだー!
無理をせずさささんらしい作品に仕上がるよう願いつつ、楽しみに読ませていただきますヽ(゜∀゜)ノ
竜を連れた槍使い=リューサンリューサン( ゚∀゚)o彡゜

◆Jさん
早速のコメントをありがとうございます!
ぼちぼち(?)書いていきたいです。
普通に生活しつつ、FFXIもやりつつなので、なかなか進まないと思いますが、またこの素人小説を読んでいただけると嬉しいです。
槍使いであることは重要な要素なんですが、リューサンとは……違うかも……w

新作キター!!
竜をつれて槍使いとくれば
リューサンリューサン( ゚∀゚)o彡゜
体調をくずされたようですが、無理せず続きを書いて下さい。お大事に
次話も楽しみですがエオルゼアでお会いするのも楽しみにしています。
結局フェイズ2では遭遇できなかったのでw

◆Aryuさん
いつもいつも、本当にありがとうございます。
シーフ上げに没頭していたら、いつの間にかフェイズ2が終わっていました( ̄▽ ̄;
エオルゼア、景色はすごいんですが、どう楽しんでいいのか、いまいちまだわからなくて……。
フェイズ3でお会いできるといいですね!

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