珈琲は一日二杯まで

あずの気が向いたときに気が向いたことを書く場所です

ゲームのことを書いたり、絵を描いたり、漫画を描いたり、小説を書いたり、適当に何でもありな趣味のブログです。

ソマリストーラ1-1

ソマリストーラ

第一話 サキエとの再会 (1)

古く大きな屋敷があった。
ずっしりと重量感のある瓦屋根は苔むしており、中に入ると湿った木と畳の匂いがする。

幼い頃の真希は、この屋敷が恐かった。
生まれた時から住んでいるにも関わらず、家の中のあちこちにできる暗い影に、何か得体の知れない闇の住人が潜んでいるのではないかと、怯えていた。

高校生になった今は、どちらかというとこの家が好きだ。
近代的なマンションのような機能的な便利さはないけれど。
たくさんの立派な木々が建材として使われているし、広い庭は木も砂も造園業者によってよく手入れされている。
エアコンなどなくても、屋敷自体が体温調節しているかのように、夏は涼しいし、冬は暖かく感じる。
いや、それは少し言いすぎかもしれない。
冬はやはり、寒い。
自分の部屋に電気コタツがなかったら、ちょっと耐えられないだろうと真希は思った。
ともかく最近は、この家での暮らしが贅沢で悪くないと感じるようになっている。

そんな今でも、真希には近づきたくない部屋があった。
祖母の部屋だ。
九十四歳になる祖母は寝たきりで、介護が必要だった。
彼女は真希の顔を見ると、何かと物を言い付ける。
無理矢理用事を作って、何かをさせたがっているとしか思えない。
とにかく、相手をするのが面倒なのだ。
だから、めったにその部屋には近づかないのだが、父親に呼ばれた時には仕方なく一緒に行くのだった。

「真希――」
玄関の方から、真希を呼ぶ落ち着きのある声がした。
お父さんだ――もちろん真希にはすぐにわかった。
電球色の蛍光灯が黄色く照らす玄関で、真希の父親――謙一郎が、脱いだコートの雪を払っていた。
「おかえりなさい。折りたたみ傘、持って行かなかったの?」
コートを真希に渡しながら、少し口の端を持ち上げる謙一郎。
「ただいま。そこでいきなり振り出したんだ……傘を出すより、走った方が速いと思ったんだよ」
真希が微笑んだ。いつも無表情な父親が口の端を持ち上げているのは、満面の笑みと同じだからだ。
靴を脱いで廊下に上がり、歩きながら上着を脱ぐ謙一郎に、真希がすぐに手を伸ばす。
「ありがとう」
真希のショートボブの黒髪を、父親のごつい手が軽く撫でた。
腕の中にコートと上着をかかえた真希が、今度は少し怒ったような顔だ。
「お風呂の準備、これからだよ。どうして今日は電話してくれなかったの?」
「いいんだ。服を置いたら、おばあちゃんの部屋に来てくれ」
一瞬で渋くなる真希の顔。
謙一郎は気づかないまま、歩いていってしまった。
「は~い」
小さな声でそういうと、真希はクローゼット代わりの小部屋からハンガーを出してきて、湿ったコートと上着を廊下の横木にかけた。
遠くからお手伝いの結花と謙一郎の声が聞こえる。
「おかえりなさいませ。すみません、今、咲枝さんのお薬のお片付けを……」
「いいんです。母は起きているんですね?」
真希の祖母であり謙一郎の母親である咲枝の世話をしているのが、介護福祉士の資格を持つ結花だ。給金は高いが、この家の中で一番咲枝の扱いが上手い。

祖母の部屋の襖(ふすま)に真希が手を掛けた時、中から父親の声が聞こえた。
「どうしたんだい、母さん、いきなり会社に電話をしてくるなんて。しかも真希も一緒にすぐに来いだなんて。びっくりして、残業を他の人に押し付けてきたんだよ」
「結花さんの電話を借りたんだ。用件は、電話でも言ったはずだよ」
真希が襖を開けると、二人が黙った。
「こんばんは、おばあちゃん」
「はい、こんばんは」
そう言うと咲枝は、籐のベッドに横たわったまま真希を見つめてじっとしている。
「母さん……」
立ち上がる謙一郎。
「一服してくるよ。後で話そう」
彼が出て行くと、部屋には咲枝と真希だけになった。
「わ……私も、お風呂の準備をしないと……」
「真希」
老婆の声には力があった。
「――いくつになった?」
「十七です」
素直に答える真希の顔に、諦めの色が浮かんだ。
こんな口調の時の祖母は、逆らうと大変なことになる。ヒステリックに大声を上げて騒ぐのだ。私のせいで結花さんの手間を増やしたくない……普段、私がやりたくない祖母の世話を、全部任せているのだから……。そう考えて、真希はひんやりした畳の上に正座した。
「そうだよ。忘れていた。すっかり忘れていたんだけど」
落ち着かない様子の咲枝。てっきり何かを言い付けられると身構えていた真希は、いつもと違う祖母の雰囲気に気づいた。
「おまえが十七ということは、私は九十四になった筈だけど……間違いない?」
「う……うん。二ヶ月前の誕生日から九十四歳だよ。お父さんと私と結花さんで、おめでとうって言ったよね」
「そうだったかね……まあいいんだ、そんなことは。そうか……九十四……九十四になって、何ヶ月たった?」
うなだれる真希。相手が友達の奈津美だったら、頭をはたいてやりたいところだ。
「二ヶ月です」
「そうか……二ヶ月か……」
尻すぼみに小さくなる咲枝の声。なるべく目を合わせないようにしていた真希が顔を上げると、そこには魂の抜け殻のようになって天井を見つめる老婆の姿があった。
(あれ……おばあちゃんって、こんなに皺(しわ)が深かったっけ?)
おばあちゃんの顔を凝視するのは、一年振り……いや、二年振りくらいかもしれない……と、真希は思った。

コメント

また1つ目だけ書いて消すはめになったら、すみません。

新作ktkr

無理はしないでくださいね~・・・でも期待wヽ(゜∀゜)ノ

◆Jさん
ありがとうございます。
いつも続かなくてすみません。
全然そう見えないと思いますが、SFでしかも
いかんネタバレダメΣ( ̄▽ ̄;
面白く書けるとといいなぁ。

新作キター(*^^*)

◆ヒデタルさん
ぎく。
チェックありがとうございます。
面白く……というか、次をアップできるといいのですが( ̄▽ ̄;

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