珈琲は一日二杯まで

笹谷の気が向いたときに気が向いたことを書く場所です

ゲームのことを書いたり、絵を描いたり、漫画を描いたり、小説を書いたり、適当に何でもありな趣味のブログです。

映画「おおかみこどもの雨と雪」の正体

 ネタバレは含んでいないと思いますが、観た人にしか通じない内容ですので、観てからお読みください。
 「おおかみこどもの雨と雪」という作品は、今時珍しいほど、観る人によって賛否が大きく分かれています。その理由について、自分なりの結論を出している方がたくさんいらっしゃいますが、この文章もその中の1つということになるでしょう。
 私は、とても楽しんで観ることができましたので、賛否という意味では「賛」の立場です。それはアニメーションの技術としてはもちろん、内容も含めてです。ただし、親子の絆とか自然の素晴らしさを感じる……という文章にはなっていませんので、ご注意願います。

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 「技術」と「内容」を分けて捉えれば、「技術」の部分で否定的な方は少ないと思います。私の場合は、いきなり冒頭の花畑のシーンでスクリーンに目が釘付けになりました。アニメをある程度見慣れている方であれば、どこがどう素晴らしいのか具体的にわからなくても「おっ」と感じるものがあったのではないでしょうか。
 3DのCGがアニメに持ち込まれたのは、私が中学生から高校生になる頃でしたが、違和感があったことを覚えています。2次元の絵の中で、明らかに3Dの部分だけが浮いていました。その後、色合いは2Dの絵に溶け込むようになり、フル3Dのアニメも珍しくなくなりましたが、それでもダメなんです。絵でありながらポリゴンを回り込む映像は視覚的な刺激を与えてくれますが、逆に作り物であること、偽物であることを強調しているようにさえ感じます。2Dの絵であれば、立体感を想像で補うことができるのに、3Dでは立体感だけリアルに近づいたせいで、色合いや質感、線画部分などの非リアルさが強調されてしまうのです。ところが、「おおかみこどもの雨と雪」は違いました。
 この作品における新しいアニメーション技術として、「背景が動く」という説明をしているテレビ番組がありました。それはそうなんですが、そこがポイントではないでしょう。背景の動き方がリアルなんです。花が風に揺れ、水面が波打つ。特に冒頭の花々は1本1本が個別に3Dで揺れて、全体を流れる風を表現していました。車が回り込むように走ったり、ビル群を回り込むようにヘリコプターが飛ぶだけでは表現できなかった、「空気の動きを含めた精緻さ」がこのアニメのポイントではないでしょうか。

 「内容」の話をします。まず、このアニメの中で唯一のファンタジーが「おおかみこども」だと思っている人がいるとすれば、間違いです。全てがファンタジー、あるいは「おとぎ話」と捉えているとしたら、そうとも言えると思います。
 結論を言いますと、このアニメの中のファンタジーは「母親」です。ばかを言うなという人もいれば、ピンときた人もいるかもしれません。私なりにできるだけわかりやすく説明します。ちなみに「おおかみこども」は、物語の単なるスパイスであって、「おおかみこども」の存在自体がテーマになっているわけではありません。
 物語は、登場人物に感情移入することでその世界に浸り、それを楽しむ場合が多い気がします。しかし「おおかみこどもの雨と雪」では、場面場面で一時的に感情移入することはあっても、全体を通してその世界にどっぷり浸るような感情移入は難しいと思います。この作品は、そういう感情移入を目指していないのです。
 はっきり言いますが、この作品が目指しているのは、「母親」の疑似体験です。短時間だけ遊んで終わる遊園地のアトラクションのようなものだと思ってください。女が恋をし、母親になり、育てた子供が親離れしていく……それは、どんな感じなのだろうか……それを思い描き、理想化し、体験してみたいと思う人は、この作品を楽しめます。それは例えば私のように、彼女と結婚し、子供が生まれ、妻の子育てを見てきた男です。あるいは細田監督のように、「自分の身近で子供が出来た夫婦が増えてきたときに、親になった彼ら、特に母親がやたらカッコよく、輝いて見え(公式ページより)」た人です。特に男は、母親にはなれません。だから「母親」はファンタジーになりえるのです。
 悪者を倒すヒーロー、不思議な世界を旅する冒険家、それらは現実には存在しないファンタジーの主人公です。彼らの物語は、観る人が楽しめる内容になっています。でももし、それらの主人公が自分をファンタジー扱いした映画を観たらどう思うでしょうか?「確かに苦労も描かれているが、どうも納得いかない。俺たちが生きているのは、現実なんだ!」と訴えるかもしれません。
 いずれにしても「女→母親」の部分に興味がない人には、面白いと感じる部分が限定的、あるいは全くなくても不思議ではないのです。疑似体験アトラクションですから。また、「女」と「母親」を別物と思っている若い人は、「母親」を疑似体験しても楽しくないでしょうね。「母親」を自分が守ってあげなければ……と思うくらいの年齢になると、ぎりぎりセーフくらいでしょうか。
 疑似体験アトラクションですから、苦労も含めて楽しめるように作られています。生臭い真実や面倒な部分は必要ないですし、強い感情を頻繁に押し付けてくる主人公では困るのです。


※8月19日追記
「母親像」がファンタジーだとはっきり書かれている記事がすでにありました。しかもかなり有名な記事のようです。まあ、そういうこともありますよね( ̄▽ ̄;

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