珈琲は一日二杯まで

笹谷の気が向いたときに気が向いたことを書く場所です

ゲームのことを書いたり、絵を描いたり、漫画を描いたり、小説を書いたり、適当に何でもありな趣味のブログです。

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ムンレケ1-3

「ムーンレスケージ」

目次
第一話 竜連れの魔法使い (1) (2)


(3)

 酒場の客たちは何が起こったのかわからず、とまどい、次に白髪の老人がふざけているのだと思った。
「お、おい……リュシアス、何やってんだ?」
 同じテーブルにいた褐色毛の老人が声をかけた。
 リュシアスと呼ばれた白髪の老人は、最初に口をパクパクと数回開き、とまどいの表情を見せていた。それは、突然声が出なくなったような演技に見えた。次に手足をぎこちなく振り回し、まるで強風に耐えるように力み、その場に立ち尽くしている。腕に浮かぶ筋肉の隆起は見とれるほどに立派だが、本人の表情に余裕はなかった。
「リュシアス……だと? いい名前だな」
 口の端を曲げるように笑みを浮かべた青年がちらりと視線を向けたのは、ビャッコと呼ばれた女の方だった。彼女は無表情のまま身動きが取れない老人を見つめている。
「……覚えているわけもないか。まあ、いずれにしろ、名前が同じというだけのことだしな」
 つまらなそうにつぶやく青年。
「……千年以上前に死んだ銀髪ドワーフ野郎のな」
 リュシアスは身体をブルブルと震わせていた。力を抜けば身体をねじ切られる……それほどの強風、いや高密度の空気とも言えるものが彼の周囲を渦巻いているのだ――半径六十センチ程の円筒の内側だけ。
 髪やひげが逆立ち、床からヒュッと吸い込まれた何かがキラリと光って天井に突き刺さった。店内の空気に影響はなく、天井で光る奇妙に変形したスプーンが突き刺さった瞬間の音は聞こえなかった。
「さすが、ドワーフ族。これ以上風圧を上げると、店の天井が抜けてしまう」
 ビャッコの凛とした声が夜の酒場に不似合いだった。ただその異様な雰囲気に、店の客のほとんどがこのやりとりを黙って凝視している。
「床を汚したくなかったのだけど……仕方がない。ドワーフ族の……しかも一流の戦士に打撃系のダメージを与えようとした私が愚かだったということ」
 白髪の娘がそう言い終わった瞬間、リュシアスのいた場所に赤い柱が出現した。
 二滴――たった二滴の赤いしずくが赤い柱から跳ね、穏やかな表情で事の成り行きを見ていた青年の頬に飛んだ。……青年の顔が、醜い怒りの形相に変わった。
「ビャッコおおお!」
 青年が出す低い声が店内に響いた時、そこにいる誰よりも早く反応したビャッコの顔から血の気が引いていた。
「糞ドワーフの血が、俺様の顔にかかったじゃねええかああ!!」
 青年が椅子から立ち上がるのと同時に、その右腕が振り上げられ、右に立つビャッコの顔面に向かった。
 その腕を止めることも、避けることも……切り落とすことさえ、ビャッコには容易だった。しかしそれは彼女に許されていない。主人の怒りが自分に向いた時、悪いのは百パーセント自分であり、言い訳はありえないのである。青年の左側に座る二人の女は黙って見ているだけだ。
 パシッ……と、乾いた音だけが夜の酒場に響いた。


 ―― (4)へ続く ――

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