ささやかに駅メモ!

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駅メモ!の世界に足を踏み入れたところ、なんだか楽しいのでそのまま彷徨い始めました。ウロウロ。怖くないですよ?

Cカーズ5-5

 
FFXI小説「カーバンクル・カーズ」
 目次
 登場人物紹介
 第一話 白絹の少女 (1) (2) (3) (4)
 第二話 罠 (1) (2)
 第三話 黒き雷光団 (1) (2) (3) (4)
 第四話 下層の歌姫 (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9)
 第五話 刺客の価値 (1) (2) (3) (4)


 第五話 刺客の価値 (5)

 陽射しの温かいよく晴れた日だった。その日、院長先生が私と五人のヒューム族の子供を呼んでこう言った。
「あなた達、とても素敵な方が見つかったのよ! 六人全員の親になってくださるそうなの」
 その時の院長先生の嬉しそうな顔を今でもよく覚えている。生まれてすぐにこの孤児院に預けられた者ばかりだった六人は、院長先生に抱き付いて泣いた。院長先生がずっと母親だと思っていたから。
「泣かないで、みんな。本当に素敵な方なんだから。安心してあなた達を任せられるわ」
 院長先生は私たちを慰め、新しい家でも〝いい子〟でいるようにと念を押した。
 それから私の顔を両手で挟んで、額《ひたい》にキスをした。
「アンティーナ、あなたはまだ三歳で、六人の中で末っ子になるわね。お兄さんお姉さんの言うことをよく聞くんですよ」
「やだ!」
 物心がついて反抗期に入っていた私は、何もかもが嫌な時期で……院長先生を困らせていたらしい。やがて、正式に兄弟姉妹になった六人の子供は異国に運ばれ、大きな屋敷に迎え入れられた。

 長男は五歳のマーク。四歳の男の子が三人と女の子が一人。三歳は女の子の私だけ。そこは、サンドリア王国の貴族であり高級官僚でもあるブレソール卿の別邸であった。たくさんの使用人がいてびっくりしたのを覚えている。
 ブレソール卿は人望のある優しい人柄のエルヴァーン族だと聞いていたが、実際に会ってみて納得した。私たちは大きな丸テーブルに呼ばれ、おいしい紅茶をいただきながら、これからの話を聞いた。途中で私が紅茶をこぼす粗相をして、兄達がひきつったが、ブレソール卿は少しも怒らず、使用人に片付けさせた。
 私たちはこれから、特殊部隊としての訓練を受ける。国の危機に陰から活躍するカッコイイ、ヒーローヒロインになるのだ。長男のマークが「任せてください!」と、〝いい子〟をアピールした。
 翌日から、たくさんの先生が入れかわり立ちかわり屋敷に現れては、私たちのジョブ適正を見たり、基礎体力訓練を始めたりした。それは時にはつらいこともあったが、おおむね楽しい訓練の方が多かったし、何より私たちは〝いい子〟でいたかった。教育の時間もあって、文字の勉強などもした。そして必ず最初と最後に、ブレソール卿への感謝の言葉を復唱した。ブレソール卿がいかに偉大で、忠誠を誓うに値する人物かを解説する授業が毎日のようにあった。新しい親が素敵な人物であることは私たちの願いでもあったから……。絶対服従の精神は、何の抵抗もなく私たちの心に染み渡っていった……。
 それが洗脳教育と呼べるものであることを知ったのは、ずっと後のことだ。
 ……いや、今でもブレソール卿は尊敬に値する人物だと私は思っている。ブレソール卿は。

 マークが十五歳、私が十三歳の時のことだった。私たちは冒険者レベルで言えば、すでに70前後に達していた。マークはナイト、私は黒魔道士、他の兄弟もそれぞれのジョブのエキスパートになっていた。
 ところが。
 久しぶりに屋敷に現れた年老いたブレソール卿は、突然「私はもう政界から引退しようと思う」と告げた。彼は一人の男を連れていた。その男が素敵な笑顔で長男のマークに握手を求めた。
「はじめまして、ブレソール卿の甥のベッケルです。もう三十三歳ですが、卿の意思を継いで、政界にデビューしたばかりです」
 わけもわからず握手するマーク。ブレソール卿がにこやかに説明した。
「ベッケルは親戚の中で最も見込みのある奴なのだ。頭がいいし、正義感も強い。将来は、このベッケルのために働いてくれないか?」
 私たちにとって、ブレソール卿の〝頼み〟は〝命令〟と同じだった。全員がその場で頷いた時、ベッケルの目が妖しく光ったことに気づいたのは、私だけのようだった……。
「歳も私より若いからな……本当の親子のように仲良く頼むぞ」
 ブレソール卿はそう言って、先に帰っていった。

 ……ベッケルの態度が一変した。

 詳しく語る気はない……。彼はブレソール卿の前で被っていた〝いい人〟の仮面を何の躊躇もなく脱ぎ捨てた。
「お前たちは、俺の下僕だ」
 事実、彼の命令に逆らうことは、私たちにできなかった。私たちの心の奥底に染みついたブレソール卿への忠誠心は、私たちが生きる心の支えでもあったから。彼の望みがベッケルを支えることであるならば、それに従う以外の選択肢はなかった。
 もっとも、三年もすると彼が私たちの屋敷を訪れることはなくなっていた。彼と同じエルヴァーン族の信者を増やし始めた頃のようだった。

 そして、今から約一ヶ月前。マークが二十六歳、私が二十四歳。私たちは冒険者レベルで言えば、その限界と言われるレベル75をとっくに超え……尺度がないのではっきりとは言えないが、あえて言えば、レベル90近くに達していると思う。
 ベッケルから、突然指示がくだった……。

   *

「……それが、シェンの捕獲……」
 サシュがぽつりとつぶやくと、アンティーナと名乗った女暗殺者が頷いた。
「よく知ってますわね。プルゴノルゴ島のヌシと言えど、私たち六人の敵ではありませんでしたわ」
「あの黒鎧たちにシェンを捕らえる力があるとは思えなかったからね……納得がいったよ」
 サシュのモグハウスに暗殺者が侵入した翌日の朝である。昨夜、ミサヨとカリリエを無理矢理帰したサシュは、縛ったままの暗殺者にベッドを譲って寝袋で眠った後、早朝から二人で会話をしていたのだ。
「ベッケルがヒューム族の部下を持っているのも不思議だったけど……それも納得した。君が話してくれたことは真実だと思う」
 サシュはそう言うと、アンティーナに近付き縄をほどいた。
「!?」
 突然の解放に、女が驚いた。
「どういうつもりですの?」
「いいから服を着て。また誤解されちゃうから」
 そう言って、床に散らばっていた服と下着を無造作に拾い、そっと暗殺者に投げるサシュ。アンティーナは顔を赤くしてそれを受け取ると、急いで身に付けた。
「私が生きていくためには、あなたを殺すしかない……そ……」
「そうでもないさ」
 ここで、サシュは初めてアンティーナの目を正面から見つめた。
「君には、ここで死んだことになってもらう。そのためには、ちょっと昔の知り合いの協力が必要だけど……なんとかなると思う」
「そういう問題ではありませんわ。私が生きる目的は……」
 アンティーナは、サシュの目の奥に深い哀しみの色を見たと思った。つい、言葉を途切れさせてしまった。
「君の生きる目的を見つけるところまで面倒を見る気はないよ。ただ……」
 サシュが視線を外した。
「君をノドから手が出るくらい欲しがりそうな就職口なら、心当たりがある」
 口の院院長の言葉を思い出すサシュ。
 ――いつでもうちに来いよ……いい実験台になる……。
 実験台というのは、彼流の言い回し……未知の魔法を身に付けられる可能性がある……という、彼なりの高い評価の言葉だ。
「…………」
 黙っているアンティーナに、サシュがさらに声をかけた。
「六人のうち、生き残っているのは、君だけなんだろう? ベッケルは何かしら理由をつけて君も殺すつもりのはずだ……。なぜなら……」
「証拠隠滅……そして、彼の理想にヒューム族は不要だか……ら……」
 気が付くと、アンティーナは泣いていた。子供のようにみっともなく、泣き声ともうめき声ともつかない声がノドから漏れていた。
 マークの顔が浮かんだ。
 他の兄弟たちの顔も。
 つらい訓練にも耐えてきた。
 何のために……殺されるために……?
「院長……先……せ……」
 アンティーナの頭に最後に浮かんだのは、幼い自分達を育ててくれた、孤児院院長の優しい笑顔だった。
 ――とても素敵な人が見つかったのよ!
 私たちの幸せを信じている言葉。

「……あの頃に……戻り……た……」
 アンティーナはいつまでも泣き続けた……。

 ~(6)へ続く


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