ささやかに駅メモ!

駅メモの旅先でたまに娘キャラ活動と出会うブログ
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駅メモ!の世界に足を踏み入れたところ、なんだか楽しいのでそのまま彷徨い始めました。ウロウロ。怖くないですよ?

竜連れ1-2

 
「竜を連れた魔法使い」
目次
 第一話 沈まない太陽 (1)


 第一話 沈まない太陽 (2)

 広大な空が広がっていた――。
 青い空に白い雲が流れるような模様を描いている。実際にすさまじい勢いで雲が流れていた。眼下では深緑色の森と、いく筋ものきらめく幅広の河川が、空の雲と同じ方向に流れる模様を作っている。
 切り立った崖の上にカイリはいた。
 雲と森と河が流れ着く先に地平線があり……そこに信じられないものがあった。
 巨大な……とうてい信じられない大きさの巨大な〝白い太陽〟が、地平線から半身をのぞかせているのだ。本当は赤いはずのその光は、柔らかく……直視しても目が痛むことはなかった……。
「……驚かれましたか、師匠《マスター》。ここが、あなたの生きる新しい世界です。そして……」
 背後で声がした。声の主は見なくてもわかる。翅の生えた小さな……一言で言えば、服を着た〝妖精〟の少女だ。
「……あと三年で、この世界は滅びます」
「……!」
 思わず振り返るカイリ。真剣な眼差しの少女がそこに浮いている。
「…………」
 カイリの心は不思議と落ち着いていた。あきらめや絶望とは少し違う……あまりの出来事に、感覚が麻痺しているのかもしれない。そもそも、この少女の言うことは信用できるのだろうか……?
「俺は、滝谷海里《たきたにかいり》……君の名前は?」
「……申し遅れました。私はフェアリ族のテクニティファ・マティ・マヌファ……〝マティ〟とお呼びください」
 長い黒髪を揺らして少女が頭を下げた。
「何からご説明すれば良いのか……。そうですね、まず申し上げておかなければならないのは……」
 マティは申し訳なさそうに目を伏せている。
「あなたは今日から……この世界に存在するあらゆる勢力から狙われます。先ほどの森での威嚇攻撃……あれは、この大陸における二大勢力の一つ……エルフ族の者に間違いありません」
「……狙われるって?」
 こくりと頷くマティ。
「……まさか、森の果実を勝手に食べた罪……とかじゃないよな?」
「いいえ、私のミスです。マスターを見つけるのに三日もかかってしまいました……そのせいで、先にエルフ族に見つかってしまった……」
 本来なら、最低一年は姿を隠し、自衛の手段を含め様々なことを学んでもらうはずだった……と、マティは言った。
「ちょっと待ってくれ。それは、俺が狙われる理由の説明になっていない」
「…………」
 黙りこんでいる少女。目をそらさないカイリ。あきらめたように、マティがぽつりと言った。
「マスターが……この世界の運命を握っているからです」
「…………」
 今度はカイリが黙りこんだ。わからないことだらけで、何から聞けばいいのかわからなくなったのだ。
 唐突に、妖精の少女が森の中で言ったセリフを思い出した。彼女は言った……〝やはり記憶は受け継がれなかった〟と。前世のようなものが絡んでいるというのだろうか……?
「マスター……」
 マティの遠慮がちな言葉に意識を引き戻される。少なくともこの少女は……カイリにとって必要な情報のいくつかを持っているようだ。この世界で今現在頼れる存在がマティだけであることは間違いない。そして少女の態度……一つ一つの仕草さえ、カイリに良い印象を与えるものだった。
「最初にお連れする場所は決まっています。どうぞ、こちらへ……」

 マティが進む先に大きな二階建ての屋敷があった。今まで立っていた場所は、その屋敷の庭のようだ。マティは手を振れずに扉を開け、屋敷の中にカイリを導いた。
「こうして……マスターを、マスターの屋敷に案内するのは二十一回目です。そして……これが最後……」
 マティの後ろ姿が少し震えているように見える。
「簡単な質問を二つしていいかな?」
「は……はい」
 カイリの言葉にマティがふり返る。
 家の中は中世と現代を合わせたような雰囲気だが、けして違和感はなかった。机、椅子、カーペット、スタンド、本棚、ベッド、壁紙……どれもまるで普通で、少しヨーロピアン風味という程度だ。屋敷の中に入ってしまうと、まるで元の世界に戻れたような錯覚さえ起こす。おまけに……壁のスイッチを押すと、天井の電灯に光が灯った。この不思議な世界にも、人工的な〝電気〟が存在するということだ。
 それだけのことが、妙にカイリの心に落ち着きを取り戻させた。
「どうして、俺をマスターって呼ぶの?」
「……どうぞ、お掛けになってください」
 マティが示した肘掛け椅子にカイリは素直に座った。実に座り心地のいい椅子だ。一つ目の質問に、マティは真面目な顔で答えた。
「あなたは二十一人目のカイ・リューベンスフィアです。ここは、カイ・リューベンスフィアの屋敷で……初代のカイは、私の魔法の師匠《マスター》なんです」
「魔法……さっき、急に場所を移動できたのも魔法なのか?」
 マティがこくりと頷く。
「俺は魔法なんて使えないけど……」
 少しばかり申し訳ない気持ちになりながらカイリがそう言うと、マティがにっこり微笑んだ。
「心配ありません! ……もう一つの質問は何ですか?」
 まあいいかと思い、カイリは続けた。
「うん……最初は君の言葉がわからなかった……それなのに急に話せるようになったのは何でだろう……?」
 なぜかマティの顔が赤くなった。
「それは……私が、この世界の言葉が話せるようになる魔法を、マスターにかけたからです」
「いつの間に……? 場所移動の時は呪文のようなものを聞いたけど、それ以外は……」
 カイリの質問に深い意味はなかった。この世界のことを理解する助けになるかもしれないと思っただけだ。ところがマティは顔を赤くして落ち着きがない。
「魔法は……言葉が重要ですが……対象物と発動条件を決めておけば、あらかじめ唱えておくことができるんです。先代マスターが、あらかじめかけておいてくれた魔法です」
「ふーん……対象物は俺で……発動条件は?」
 マティの目が踊っている。
「キ……です」
「……樹??」
 森には樹がたくさんあったなぁと思う。
「違います…………キ……スです」
 消え入りそうな声のマティ。……カイリは自分の頬をぽりぽりと掻きながら思い出した。森で何かが顔にぶつかって来たと思った……それがマティだった。あの時、額にヒヤリと冷たい感触を感じたのは……。
「あれはマティの舌先だったのか……」
 ばふっと、カイリの顔にクッションが飛んできた。
「何ですか! そういう魔法にさせてくれって死ぬ間際に頼んだのはマスターでしょう! もう二度とごめんですから!!」
 真っ赤な顔でそう叫ぶと、マティは怒って部屋から出て行ってしまった……。
「……そう言われても、俺は知らないんだけど……」
 まずかっただろうか……? 椅子に背中をあずけて、天井を見上げるカイリ。居心地のいい部屋だ……。前世のことを身体が覚えているとでも?
「俺は……生まれ変わりとか……信じていないんだけどなぁ」

 何気なく、横にあった本棚に顔を向けたカイリ。様々な題名が背表紙に書かれている。機械や電気関係の本……何冊か英語の本も混ざっている。
「M、E、M、S……か。〝マイクロ・エレクトロ・メカニカル・システム〟の略だったな、確か……」
 一冊の本の背表紙に見つけた単語を読み上げたカイリ。その思考が一瞬停止した。がばりと立ち上がる。
(ちょ……ちょっと待てよ……)
 カイリは日本語のタイトルが書かれた本を手に取った。
(…………)
「どうして……この世界に、日本語や英語の本があるんだ!?」
 マティの魔法で、文字も読めるようになったのか? ……そんなはずはなかった。言葉がわかると言っても、やり取りしている言葉が日本語でないことは認識できている。ただ意味がわかってしまうし、自分も話せてしまうというだけだ。しかし目の前にあるのは、日本語の文字なのだ。それに……明らかに洋書と思われる本が混ざっている。魔法なら、すべて日本語に翻訳してほしいというものだ。自慢じゃないが、英語は日本語ほど得意ではない。
(俺は……身体と、身に付けた物のみでこの世界に飛ばされた。本と一緒に飛ばされた奴が、過去にいたということか? それとも……)
 もう一度椅子に座ると、手にした本の表紙を見つめるカイリ。ストライプのみのシンプルな柄の上に、明朝体の大きな文字で本の題名が書かれている。
〝沈まない太陽〟……と。
 カイリは、ゆっくりと表紙をめくった。そこには、はっきりと書かれていた。なぜ太陽があれほど巨大なのか。そして、なぜ沈まないのか、が……。
 本には出版日が記されていた。その年号は、西暦二三一一年。カイリが今年だと認識していた年から三〇一年後だ……。
「この本には、太陽が沈まない現象が予測として書かれている……ここは……この世界は……」
 いくら時間が過ぎようとも、この世界に夜の帳《とばり》が下りることはない。カイリは、眠くなるまで本を読み続けた。

 ~第一話完、第二話へ続く


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