ささやかに駅メモ!

駅メモの旅先でたまに娘キャラ活動と出会うブログ
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駅メモ!の世界に足を踏み入れたところ、なんだか楽しいのでそのまま彷徨い始めました。ウロウロ。怖くないですよ?

竜連れ2-1

 
「竜を連れた魔法使い」
目次
 第一話 沈まない太陽 (1) (2)


 第二話 手に入れた力 (1)

 カイ・リューベンスフィアの屋敷は静かだった。窓にかかったブラインドの隙間から見える広い寝室の中を覗いたフェアリ族のマティ。身体が小さいので、狭い隙間からでも中がよく見える。ベッドで寝ているカイリを確認すると、彼女はふわふわと飛んで屋敷の裏口にまわった。
 裏口の外には、大きなバスケットが置かれていた。白い布がかかっていて、中身は見えない。
バスケットの取っ手に手を触れると、小さな声で呪文を唱えるマティ。
「〈品浮《レビテート》〉」
 自分の体重の数倍はあるであろう重さのバスケットを手にして、彼女は軽々と浮き上がった。そして正面玄関から入った時と同じように、手を触れずにドアを開けてキッチンに入ると、バスケットの中身を大きな冷蔵庫の中に移しはじめた。
「……唯一解けなかった謎が、今解けたよ」
 突然背後から声をかけられたマティが、身体全体でびくりと反応した。ゆっくり振り返ると、キッチンの入口の柱にもたれ掛かるようにして、カイリが立っていた。
「お……おはようございます、マスター……」
 バツが悪そうに微笑むマティ。「三日ぶりだね」と、カイリが言った。
 以前、マティはカイリを見つけるのに〝三日もかかってしまった〟と言った。陽の沈まない世界で、彼女は日数の感覚を持っている。それは、カイリの腕時計が刻む日数と同じなのだろうか?
「君がとてつもなく意地っ張りな性格だとよくわかったよ……でも、ありがとう」
カイリはマティのそばに来ると、冷蔵庫に入れられたばかりの干し肉をかじり、ミルクを口に運んだ。
「それから……デリカシーのない言い方をして悪かった……ごめん」
「い……いえ」
 マティは伏し目がちの顔を真っ赤にして口ごもった。
 マティがカイリをこの屋敷に案内し、怒って出ていってから三日がたっている。その間、マティは一度も顔を見せていない。ただ冷蔵庫の中だけが、毎日新鮮な食料で満たされていた。最初はこれも魔法かとカイリは思ったが、やがてそんな筈《はず》はないとわかった。なぜなら……今のカイリは、この世界に存在する全ての魔法を知っているからだ。
「マスターがずっと本を読みふけっていらしたから……邪魔をしないようにと……」
 マティはこの期に及んでまだ言い訳をする自分を止められなかった。怒って出ていった手前、顔を合わせづらかったのは、やはり意地っ張りということなのだろう。
「……おかげで、この本棚の本は一冊残らず目を通せたよ」
「……え!?」
 驚きの目を向けるマティと、微笑むカイリ。小さな本棚とはいえ、三十冊以上の本やノートが並んでいる。しかも本はともかく、手書きのノートの方は複数の言語が混ざっているはずだ。そんなことはありえない……そう思いながら、マティの胸が高鳴った。もし、この目の前に立っている新しいマスターが、ここにある本の内容を全て理解したのだとしたら……マティの長年の夢が半分叶《かな》ったも同然だからだ。
「マスターは……ここにある本やノートの文字が、読めるのですか?」
「たしかに本の方は日本語と英語のものがあったし、手書きのノートにいたっては、世界中の言語が混ざっていたけど……って。そうか……君は、読めないのか」
 コクリと頷くマティ――。宙に浮かんだ小さな妖精《フェアリ》が、その身を震わせていた。カイリの言葉は、つまりここにある全ての本やノートを読めたことを意味している。過去に仕えた二十人のカイ・リューベンスフィア達のうち、誰一人として成《な》しえなかったことだ。多くのマスター達は、〝英語〟の本はよく理解できたし、ノートに書かれた二つか三つの言語を読んでみせた。しかし肝心の……無限とも思える多種類の複雑な文字――日本語――が記された〝専門書〟を完璧に読める者は一人としていなかった……。
「嘘……ですよね? だって、本当に読めたとしても……一冊読むのに、少なくとも丸一日はかかるはず……三日で全部なんて……」
 理性では、ありえないと思っているマティ。だが、心が期待してしまう……望んで、望んで、望み続けたことだから……。
 〝嘘だよ、悪かった〟――そんな言葉を口にされる瞬間を想像して、マティの胸が締め付けられた。呼吸ができなくなるくらい苦しい……。
 君に秘密にしても仕方がないから……とカイリが言った。
「目を通した書物の内容を一字一句正確に記憶できる……理解する前にまず記憶するから、速読も可能……その〝瞬間記憶〟が、生まれついての俺の能力なんだ」
 こういう能力を持つ人間は、海外に数人いた。サヴァン症候群と言われる人々だ。ただ、自閉症等の障害を併《あわ》せ持っているのが一般的だ。何の精神疾患らしいものもなくこの能力を発揮するカイリは、子供の頃にマスメディアや学者の注目を浴びたのだった。何ヶ国語もの辞書を暗記してみせたこともあった。中学に上がる前に、この能力を失ったフリを始めるまでは……。
「うそ……だって……私、あきらめかけ……て……のに……」
 フェアリの少女は、出会った時のように突然涙をこぼした。よく泣くコだなぁとカイリは思ったが、今度は何も言わなかった。かつて存在した二十人のカイ・リューベンスフィアのうち、何人かはノートに日記を残していた。この少女が二千年間背負ってきた宿命を、今のカイリは知っている……。
「百年に一度召喚されたカイ・リューベンスフィアの中に、日本人が一人もいなかったのは不幸だったね……ここの書物は、ほとんどが日本語だから……」
 半永久的に劣化しない特殊な紙でできた本の行間には様々な言語が書き込まれ、過去のカイ・リューベンスフィア達が必死で解読しようとした跡が見られた。英語、ロシア語、中国語、アラビア語……様々な言語に翻訳されたらしい手書きのノートが何冊もあった。……だが、どれも途中で終わっていた。かつてのカイ・リューベンスフィア達が、その寿命を終えるまでに全ての翻訳を終えるには、量が多すぎたのだ……。日本人はカイリが初めてのようだった……しかも、都合の良い特殊能力を持っている……。
 三日前にマティが口にした〝あと三年で、この世界は滅びます〟という言葉。彼女が初めてカイ・リューベンスフィアを召喚した時にはすでに、二千年後にこの世界が滅びることはわかっていた。この世界を救う最後のチャンスがカイリだったのだ。
 この世界を救う鍵は、この屋敷の書物の中にあると考えられており……それゆえに、過去のカイ・リューベンスフィア達は必死で日本語の翻訳に没頭したのだった。辞書らしいものもなく、その苦労が伺われる……。
 世界が滅びるタイムリミットまであと三年――。最後のカイ・リューベンスフィアであるカイリに残された時間は三年しかないのだから、マティが〝あきらめかけていた〟というのも無理はない。
「過去の日記から……皆が、君に感謝している気持ちが伝わってきたよ」
 両手で顔を覆って泣いているマティに、カイリはできるだけ優しく声をかけた。
「もう一度言うけど……俺は、全ての本を読んだ。この世界の仕組みも……魔法の秘密も……全て理解したつもりだ」
 マティが泣きはらした顔を上げた。カイリが見つめている。
「……あとは任せてくれ」
 この世界で、知識は力だった。カイリが微笑んだ時……マティがカイリの胸に飛び込んできた。
「お願いします、マスター! この世界を……この世界に生きる私たちを救ってください……!!」
 カイリは手のひらで遠慮がちにマティの黒髪をなでた。彼女の震えが伝わってくる。そしてぼんやりとしていた覚悟……この世界で生きるという覚悟……を、決意に変えた。この異常な……〝五千万年後の地球〟を救ってみせるという決意を。
「本を読んでもわからないこともある……今の種族間の情勢とか……食料の調達法とかね」
 これからも……俺を助けてほしい……そう囁《ささや》いた。

   *

 マティが落ち着きを取り戻す頃……。カイリの背後で、そっと蠢《うごめ》くものがあった。床板の隙間から侵入してきたそれは……樹の根のように見えた……。

 ~(2)へ続く

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