珈琲は一日二杯まで

笹谷の気が向いたときに気が向いたことを書く場所です

ゲームのことを書いたり、絵を描いたり、漫画を描いたり、小説を書いたり、適当に何でもありな趣味のブログです。

竜連れ2-2

 
「竜を連れた魔法使い」
目次
 第一話 沈まない太陽 (1) (2)
 第二話 手に入れた力 (1)


 第二話 手に入れた力 (2)

「うそ……二千年間……誰にも侵入を許したことは、なかったのに……」
 そう呟《つぶや》くマティは、カイリの肩越しに何かを見つめていた。その表情は、驚きと警戒心で固まっている。振り向いて〝それ〟を目で確認したカイリ。まるで早回しの映像を見るように、一本の樹の根が部屋の中を這いずり回っていた。
「何だと思う……?」
 カイリの疑問に、マティがゆっくりと答えた。
「木の精《ドライアード》の……触覚器《フィーラー》です。どうしてこんな所に……」
 木の精……か。それは見た目から付けられた名称だったな……とカイリは思い出す。本から得た知識だ。木の精は……マティのように実際に生きているわけではない。
「試してみるか……〝魔法〟って奴を」
 そう言うと、カイリはマティの小さな身体を宙に放し、呪文を口にした。その流暢《りゅうちょう》さに耳を疑うマティ。
(たった三日で……本から得た知識だけで、これほど正確な発音で呪文を唱えられるものなの……!?)
 ……マティは知らなかった。カイリが流暢に呪文を唱えられるのは当たり前なのだ。なぜなら……魔法の呪文は全てカイリの母国語……日本語なのだから。カイリが唱えているのは、マティが使った〈離位置《テレポート》〉や〈品浮《レビテート》〉よりも、上位の呪文だった。

 高目移行《ランクアップ》・汎数《レベル》2……
 通模《インプット》・要俳《キーワード》……
 灯る光……見透かす瞳……闇を払う……
 転配《コンパイル》……
 役名《コマンド》……

「〈散暗光《ライト》〉……!」
 最後に魔法の名称を口にして、汎数《レベル》2の呪文が完成した。足元の床が円を描いて白く光る……それが、役名《コマンド》がこの世界に受け付けられた証《あかし》だ。
 カイリが掲げた手のひらから少し浮いて、白く眩《まぶ》しい光が灯《とも》る。直径三センチ程度の光球が、次の瞬間に直径五十センチほどになり……。その〇・五秒後に、四方八方に飛散した。無数の光の粒が壁も天井も床も無視するように突き抜けていき……。屋敷を構成する軽い元素を暗く……重い元素を明るく照らす……。その結果……。まるでレントゲン写真のような世界が目の前に展開した。
「すごいな……」
 自分で完成させた呪文の結果に感心するカイリ。マティがうっすらと見える白い筋を目で追っている。
「木の精《ドライアード》の触覚器《フィーラー》が、もう屋敷中に張りめぐらされている……!」
 ミシミシと壁が音を立て始めた。屋敷全体が震えているようだ。
「そんな……この屋敷は、私とマスターの思い出の……」
「そんなことを、言ってる場合か!」
 できるだけ乱暴にならないよう気を遣いながら、カイリはマティの身体をつかんで窓の外に飛び出した。森で矢を避けた時に体験済みなのだが……マティの身体の柔らかさに一瞬ドキリとする。強く握ったら、簡単に潰れてしまいそうだ。
 一階とはいえ、地面に転がって擦れた皮膚から血がにじんだ。
「くそ、痛ぇなぁ……」
 顔を上げたカイリの目の前で、大きな屋敷がバキバキと音を立てて揺れている。危険を感じてさらに後ろに下がった。十本以上の木の枝のようなものが屋根を突き破って踊っていた。その枝先に引っ掛かった、数冊の本が見える。
「……狙いは、〝本〟か……ドライアードを操っている奴がいるな……」
 カイリのセリフに、マティが取り乱した。
「そんな……! 本には、この世界を救うヒントが……!!」
「…………」
 カイリは考えた。日本語を読める人間が自分以外に全くいないという保障はない。それに本の中には、ある程度まで翻訳されたノートが混ざっている。その内容を知ることは、善にも悪にもなる大きな力を手にすることに等しい……。
 ドライアードを操っている奴……何の挨拶もなしにいきなり襲ってくるような奴……に、その内容を知られる可能性が少しでもあるとしたら……?
「こっちが先に手にしたんだ。黙って渡す理由はないよな……」
 カイリはほとんど無表情のまま立ちあがった。冷めた瞳に、無残に崩れ落ちる屋敷が映っている……。普段とは異なる冷淡な雰囲気にマティが気づいた。
「マスター……?」
「……〝あとは任せてくれ〟と言った……その言葉に嘘はない」
 この世界の秘密を知っているのは俺だけだ……だから、この小さな少女の期待に応えようと思った。わずか三年以内に、この世界を滅びの運命から救うのだ。ドライアードごときに……振り回されている暇はない。
 元の世界ではけして他人に……親にさえ見せたことがない冷徹さを、カイリはその瞳に宿していた。自分が持つ特別な能力……他人がうらやみ、ねたみ、疎《うと》んじた能力……。それを意識した時に感じる優越感と寂しさが入り混じった不思議な……荒涼感……。
「一流の魔道士っていうのは、どれくらいの汎数《レベル》まで魔法を使えるんだ?」
 カイリの質問にマティがきょとんとした。
「……まれに汎数《レベル》3の魔法を使う者が存在しますが……普通の魔道士は私と同じで……汎数《レベル》1と、いくつかの汎数《レベル》2魔法が使えるくらいです」
 そうか……それじゃあ、とカイリは続けた。
「〝度等《ブースト》〟を知ってるか?」
「……?? 聞いたこともありません」
 にやりと笑うカイリ。
「そうか……軍事用なんだが……カイ・リューベンスフィア達の翻訳は、そこまでたどり着いていなかった」
「マスター……?」
 カイリが呪文の詠唱を始めた。宙に伸びた木の枝は、本とともにどこかへ消えようとしている。瓦礫から姿を見せた木の根が、カイリとマティにその矛先を向け始めた。本を確実に手に入れるために、カイリ達を足止めする気なのだろう……。
 カイリの呪文がマティの耳に届く――。

 高目移行《ランクアップ》・汎数《レベル》4……

 汎数《レベル》4の魔法……。呪文の意味を知らないマティも、最後の数字は理解できた。

 通模《インプット》・要俳《キーワード》……
 渦巻く炎……撫でる手のひら……熱で包む……

 そのフレーズは、汎数《レベル》1の魔法では……とマティは思った。しかしこの呪文にはマティの知らない続きがあった。

 度等俳《ブーストワード》……イフリートの目覚め
 転配《コンパイル》……
 役名《コマンド》……

「〈燐射火囲包《ファイアボール》・度等《ブースト》3〉……!」
 カイリが呪文を完成させた瞬間。その足元が白く光り、巨大な炎のかたまりが屋敷が建っていた場所に出現した。直径三十メートルはあろう灼熱の火の玉。マティは目を見張り、息を呑んだ。
 マティの知っている〈燐射火囲包《ファイアボール》〉は、料理をするための火種に使うマッチのような小さな炎だった。同じ名前の魔法とはとても思えないすさまじい威力……。
 ドライアードの枝と根は一瞬で炭と化し、持ち去られようとしていた本も運命を共にして燃え尽きた。魔法の発動が終わっても、炎は残った。崩れた屋敷が炎に包まれ、燃え続けている……。
「ああ……」
 地面に降り、ヒザをつくマティ。彼女の脳裏には、一緒に過ごした過去のカイ・リューベンスフィア達との思い出が通り過ぎていた。皆、この世界のために生きてくれたのだ。頬を涙がつたった……。
「マティ……」
 声をかけるカイリに、マティは背を向けたまま答えた。
「わかっています……この屋敷の存在を知られた以上……こうするしか……」
 理性ではわかっている。それでもマティはすぐに立てなかった。
「誰も知らない魔法を使って見せてくれたマスターを……信じて、ついていきます」
 ただ……とマティは言った。
「今だけ……泣かせてください……私の二千年間のすべてが、ここに……」
 カイリは何も言わなかった。彼女の辛さを理解できるのは、同じ超長寿のフェアリ族だけだろう……。
(さて……ドライアードを操っていた者は、このまま姿を消すのか……それとも?)
 カイリがそう考えるのとほぼ同時に、屋敷の裏手にある雑木林の陰から姿を現す者がいた。汎数《レベル》4の魔法を目にしながら無防備に出現する相手に、カイリの警戒心が刺激される。
 ――クセのあるブラウンヘアーとダークブラウンの瞳を持つ若い女だった。軽装のスリムな身体に尖った耳……。記憶のページをめくるカイリ……この種族は……。
 顔を上げたマティが叫んだ。
「エルフ族……! どういうつもりですか!?」
 長髪のエルフ族の女は、十メートルほど離れた位置で立ち止まり、腕を組んだ。
「テクニティファ……! もうあんたの夢物語には付き合っていられないんだよ!」
 ややハスキーな声がカイリを不快にした。テクニティファとは、マティのファーストネームだ。エルフ族が今現在どのような立場で、マティとどのように関わっているのかカイリは知らない。強気なエルフの娘に対して、マティも負けてはいなかった。
「無礼者! 私にそのような口のきき方をするとは……エステルの教育は……」
「エステルは関係ないっ!!」
 ヒステリックな叫びに、マティがたじろいだ。
「な……なんですって……? 自分たちの族長のことを………」
 ふん……と、エルフ女が鼻を鳴らした。
「レイウルフの奴が、カイ・リューベンスフィアはまだ魔法を使えないって言ってたけど……とんだ嘘っぱちだった」
 マティは黙ったままだ。
「いつもすましているアイツのミスを指摘してやれるんだから、こんなに愉快なことはない。今日のところはこれで帰ってやるよ」
「…………」
 つっぱり娘……それがこの若いエルフ女に対するカイリの印象だった。だが、汎数《レベル》4の魔法を恐れなかったのだから、その自信を裏付ける何かがあるのだろう。
「私の名前は、サルネイア……覚えておきな。エステルがくたばった後のエルフ族は、私が締めるんだから」
「な……! エステルがどうかしたの!? 病気でも?」
 マティの狼狽《ろうばい》ぶりは尋常ではなかった。若い娘を前に威厳を見せていた様子はすっかり消え、まるで娘を心配する母親のようだ。
「ちっ……知るかよ」
 サルネイアは、自分の存在より族長の心配をしているマティの様子が気に入らないようだ。
「じゃあな」
「待って……!」
 引き止めようとするマティを無視して、サルネイアは〈離位置《テレポート》〉で姿を消した。カイリは最後まで口を挟まなかった。

 茫然としていたマティが、少し間を置いてから呟いた。
「マスター……お願いがあります」
「いいよ」
 即答したカイリに、マティが驚いた。
「あの……私のお願いは……」
「エルフ族の族長に会いに行きたいんだろう? 俺も行くよ」
 振り向いたマティが頬を染めていた。考えを見抜かれたのが恥ずかしいのだろう。それより……と、カイリが言った。
「俺も頼みがある」
「は……はい、なんなりと」
 マティが慌ててかしこまった。

 ~(3)へ続く

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