ささやかに駅メモ!

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駅メモ!の世界に足を踏み入れたところ、なんだか楽しいのでそのまま彷徨い始めました。ウロウロ。怖くないですよ?

竜連れ2-3

 
「竜を連れた魔法使い」
目次
 第一話 沈まない太陽 (1) (2)
 第二話 手に入れた力 (1) (2)


 第二話 手に入れた力 (3)

 炭で表面が真っ黒になった瓦礫《がれき》を、〈品浮《レビテート》〉の魔法でどけていく。カイ・リューベンスフィアの屋敷の焼け跡で、カイリとマティはそんな地味な作業をしていた。
 〈品浮《レビテート》〉は本来、自分の身体を宙に浮かせるための魔法だが、身体に直接触れている物も同時に重力から解放する。その対象は固体に限るが、便利な魔法だ。
「マスタ……カイリ……様、何が埋まっているのですか?」
「〝様〟は、付けなくていいって言ったろ」
 カイリはあきれた顔でマティを見た。マティは不満そうだ……彼女が今でも〝マスター〟と呼びたがっていることは明らかだった。

 俺も頼みがある――。
 エルフの族長を訪ねることに決めた後、そう言ってカイリがマティに話した頼みは二つあった。一つは、〝マスター〟という呼び方をやめて名前で呼んでくれということ。もう一つは、屋敷の焼け跡から掘り出したい物があるから、出発はそれからにしてほしいということ。
 呼び方を変えることについては、マティがかなり抵抗した。呼称は精神のあり方に直接影響するものであり、馴れ合いは役目を軽んじる態度へ繋がると。マティがカイリをマスターと呼ぶことで、マティ自身が自分の気持ちを律することができると共に、カイリ自身は〝世界を救う者〟としての役目を普段から意識することができるのだと。何より、第三者に上下関係を表明することができ、マティを敬う者は自然にカイリを敬うことになる……誰かに協力を仰ぐ時に、少なからず効果を発揮するはずだと。
 カイリは首を横に振った。
「今この世界で俺が信頼できるのはマティだけだ。君にまで普段から〝立場〟だけの呼び方をされたら……世界を救う前に、俺の心が疲れてしまうと思わないか?」
「……そんなことを仰《おっしゃ》ったマスターは初めてです」
 この時、マティは長い間沈黙を保ったままだった。彼女の心の内の葛藤……カイリを名前で呼ぼうとしなかった本当の理由をカイリが知るのは、ずっと後のことだ。わかりました……とだけ、最後にマティは言った。

「埋まっているのは……〝卵〟さ」
 そう言いながらカイリは、持ち上げて運んだ巨大な瓦礫を地面に落とした。マティが興味深げに聞いた。
「……何の卵ですか?」
「ん……俺も、よくわからない……外見までは本に書いてなかったからなぁ」
 焼け跡の中央付近に戻り、地面を見おろす。最後の大きな瓦礫が取り除かれて、剥き出しになった金属製のドアがそこにあった。カイリが取っ手をつかんで引っ張ったが重くて上がらない。仕方がないので、〈品浮《レビテート》〉を唱えた。
「………マスター!!」
 驚きの声をあげるマティ。
「名前で呼んでくれって言ったろ」
 カイリの身体と一緒にドアが持ち上がる。ドアと一緒に……十メートル四方の地面が三十センチほど持ち上がったのだ。マティには、地中から巨大生物が現れようとしているように見えた。
「……このドア……溶接されていたってことだな」
 〈品浮《レビテート》〉の魔法は、術者の身体に触れた物の重さの二倍を上限として反重力をかけることができる。どこまでを対象物と見なすかは、ルールが複雑すぎて正確に把握するのは難しい……が、おおよそ直感的に使えるようだ。今回の場合、反重力がかかった対象がドアだけでなかったのは、ドアが溶接されているためと思われた。
 姿を現したのは、一辺が十メートルほどの巨大な箱だった。あちこちから大小のケーブルが生えていて、地面までのびている。
「この中に卵が……?」
「うん、たぶんね……」
 箱を地上に降ろして、自分も地面に降りたカイリは、土がこびりついたその壁を手の甲で軽く叩いて見せた。
「とりあえず……」
 〈散暗光《ライト》〉の魔法を唱えるカイリ。……が、光は箱の中を透過できなかった。重金属の壁で覆われているのだろう……。
「まいったな……これじゃ、外から力ずくで開けていいかどうかもわからない」
「困りましたね……」
 カイリは一度マティと顔を見合わせてから、考え込んだ。視線を落とした先の地面からは、鮮やかな緑色の木の芽が顔を覗かせていた……。

   *

「失礼します」
「うむ」
 金髪で金色の瞳の男が、天井から幾重にも下がった布をかき分けて部屋に入ってきた。部屋の中には、白く美しいストレートの長髪を垂らした背中を向けて、若くスレンダーな女性が薄着で立っていた。二人きりの部屋で背を向けていることから、女性が男を信頼していることがわかる。二人とも長い耳が尖ったエルフ族だ。
「レイウルフ……何かあったか?」
 背を向けたまま、女性は香茶をいれていた。
「はい、サルネイアが神殿に戻りました」
「使いに出した覚えはないが……まあよい。それで?」
 立っている男のそばのテーブルまでやって来て、女性は香茶が入ったティーカップを二つ置いた。その美しく整った顔には、意思の強さを伺わせる緑色の瞳が輝いている。すぐには答えない男を前に、女性は優雅な振る舞いで椅子に腰掛けた。
「まぁ座れ……飲めば落ち着くぞ」
「はい、いただきます」
 座ったレイウルフは、香茶を口に運んでから軽く息を吐いた。
「サルネイアの報告によれば……カイ・リューベンスフィアは、汎数《レベル》4の魔法を使ったということです」
 女性はティーカップから口を離して、クスリと笑った。
「お前の報告と違うな」
「……はい。ですが、サルネイアが嘘を言っているようには思えませんでした」
 ふむ……と、女性は考え込むように視線を遠くに移した。
「どう思う?」
「……私の判断が間違っていたとしか……」
「ばかを言うな」
 レイウルフが視線を上げると、女性の鋭い眼差しが彼を見つめていた。彼女はカップをテーブルに置いて腕を組んだ。
「……そんな重要な案件に関して、お前が軽々しく判断するはずがないだろう」
「勿論です……ですが……」
 女性は表情を変えずに断言した。
「この数日で魔法を身に付けた……としか考えられんな」
「…………!! ……そんなことが!」
 確かに……と、女性がレイウルフの言葉を遮った。
「確かに、先代のカイ・リューベンスフィアは、汎数《レベル》3までの魔法を覚えるのに6年を要したらしい。出会った時にはたった二十歳かそこらの若造だった……が、当時の私の五分の一しか生きていないにも関わらず……魔法の仕組みをよく知っていた」
「カイ・リューベンスフィアとは、一体……私の目には普通のヒューマン族にしか見えませんでしたが……」
 女性がフッと息をもらした。
「私も先代のカイ・リューベンスフィアしか知らんからな。知っているのは、テクニティファだけだろう」
「テクニティファ様ですか……寿命が千年を超えると言う、フェアリ族の最後の生き残り……あの方も謎が多い」
「そうだな……」
 しばらくの沈黙の後、女性が口を開いた。
「まあよい。また何かあれば報告しろ。……神殿では、まだ私が〝行方不明〟のままの方が都合が良い」
「発掘の方は順調に……?」
「うむ。皆よく働いてくれている。族長代行のサルネイアにもよろしく伝えてくれ」
 渋い表情を見せるレイウルフに、女性が微笑んだ。
「確かにあの子の野心はひねくれているが……あれだけの才能とカリスマを持つ者は、他にいないからな」
「はい……失礼します」
 去り際に、レイウルフは布にかけた手を止めて振り返った。
「カイ・リューベンスフィアの件は、いかがいたしましょう?」
 女性は背中の長髪をまとめようとしているところだった。口にくわえた紐を指でつまんで横顔で答えた。
「捨て置いて良い。近いうちに会うことになるだろう」
「わかりました。エステル様にとっては、不便な生活の中です……ご自愛ください」
 レイウルフが深く頭を下げた。微笑むエステル。
「ありがとう……お前も無茶はするなよ……クールに見えてその実……」
「勿体なきお言葉、感謝いたします」
 天井から幾重にも下げられた布が揺れて、レイウルフが退室した。

 ――その数分後。部屋の中では外出用のローブを身に付けたエステルが、最後の止め具を掛け終えて呟いた。
「テクニティファ……お前がこれまで吹聴し過ぎたせいで、逆に世界の滅びを信じる者はめっきり減ってしまった。残り少ない信じる者も、カイ・リューベンスフィアをあてにはしていない……」
 エステルの脳裏には、百年近く前の思い出が蘇っていた。
「あの頃は……皆が信じていた……皆が一つになっていた……だが今は……」
 布をかき分けて部屋を出るエステル。
「私が世界を救うのだ……邪魔をするなよ、カイ・リューベンスフィア」

   *

「ダメ……ミタイデス」
 マティよりさらに小さな……身長十五センチほどの褐色肌の少女が、がっくりとうなだれた。彼女の髪と服装は緑系の色で、人間の年齢で言えば十歳くらいに見える。そんな少女があまりに落ち込んでいるので、カイリの方が申し訳なく感じてきた。
「……まぁ、気を落とさないでくれよ。ダメ元だったんだから」
「ハイ……」
 元気のない小さな女の子の頭を、マティが撫でてなぐさめている。彼らの目の前で巨大な箱を、複雑に絡み合った木の根が覆っていた。ため息をつくカイリ。
「エルフの彼女が見捨てて行ったドライアードを拾ったのはいいけど……ドライアードでも侵入は無理みたいだね」
「よほど大切な卵なんでしょうか」
 マティがドライアードの頭を撫でながら、そんなことを言った。それには答えず、カイリが頭を掻いた。
「んー……仕方がない」
「あきらめますか?」
 いや……とカイリはマティに答えた。
「自分から出てきてもらおう」
 マティとドライアードが、ぽかんと口をあけた。

 ~第二話完、第三話へ続く



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