珈琲は一日二杯まで

あずの気が向いたときに気が向いたことを書く場所です

ゲームのことを書いたり、絵を描いたり、漫画を描いたり、小説を書いたり、適当に何でもありな趣味のブログです。

竜連れ3-2

 
「竜を連れた魔法使い」
目次
 第一話 沈まない太陽 (1) (2)
 第二話 手に入れた力 (1) (2) (3)
 第三話 竜たちの覚醒 (1)


 第三話 竜たちの覚醒 (2)

 〈離位置《テレポート》〉で跳べるのは、術者が訪れたことがある場所だけ。カイリ、マティ、ドライアードの三人は、深い森の中にいた。目の前には直径十メートル程度の小さな池。周囲の木々で空が丸く切り取られている。そこは、カイリが初めてマティと出会った場所だった。
 カイリに振り回され、意識が遠のきかけていたマティが、丸い空を見上げて固まった。
「カイリ……あれは………」
「ああ……」
 カイリも空を見上げていた。青空を流れる雲を背景にして、一本の光の柱が上空に伸びている。
 光はゆっくりと薄れ、やがて消えた……。だが確かにそこに光の柱があったことを示すように、雲が乱れている。
「大した威力だ……だが……あれでも、まだ足りない……」
 カイリの言葉は、わからないことばかりだとマティは思った。
「カイリは……この世界がどのように滅びるか、知っているのですか?」
「ああ……このままなら、間違いなくあと三年で、この世界は滅びる……」
 空を見上げたままカイリは言った。
「戻ろう……生まれた子は、俺達が世話をし、教育しなければならない」
「子……?」
 ようやくカイリがマティの方を見た。
「そうだ……放っておいたら、この世界の脅威になってしまう。でも……ちゃんと育てれば、この世界を救う鍵になる……唯一の……」
「…………」
 黙りこんだマティに、カイリが微笑んだ。
「協力してくれ、マティ。世界を救えるのは俺達だけだ」
「……はい!」
 カイリが真っ直ぐに見つめる瞳には、嘘も偽善もない。マティの頬が赤らんでいた。
「あの……」
 マティが何かを思い出したように口を開いた。
「ん?」
「ドライアードは、どこに……」
「ああ!」
 カイリが慌てて自分の左肩を確認する。マティからは死角になっているそこに、ドライアードがいた。くすりと笑うカイリ。
「どうしました?」
 マティがカイリの頭を回りこんだ。そこには、すこやかな顔で眠るドライアードの姿があった。
「働かせ過ぎちゃったかもな。……寝かせておこう」
 カイリの言葉にマティが頷いた。

   *

 天井全体が人工照明として白く光り、窓のない石造りの広い部屋をこうこうと照らしている。床には段差が設けられ、その高い段上に大きくて重そうな椅子が置かれている。人が寝転がれるほどゆったりとしたその幅広の椅子には、いくつものクッションが転がっていて座り心地が良さそうだ。高い背もたれの上部には細やかな装飾と大小の宝石がちりばめられ、〝玉座〟という言葉が連想された。
 静まり返った部屋に、ぴちゃぴちゃという不規則な音が響いている。
 ――その音が急に止んだ。
「……御主人様、い……」
「誰が休んでいいと言った?」
 女性の透き通るような高い声を、男の低い声が遮った。
 玉座にゆったりと座る初老の男は、髪と同じグレーのあごひげを左手でさすりながら天井を見上げたままだ。その足元の床に、紺色のチャイナドレスを身に付けた若い女性が這《は》いつくばっている。細い身体をぴっちりと包んだ服が、大きな胸からくびれた腰、尻、太ももへと美しいラインを描いている。ライトブルーの髪はストレートで短くカットされていて、皮製の黒い首輪が付けられた白く美しいうなじをさらしていた。
 そのうなじも、細い手足も、まるで湿っているようにしっとりとしていて、明るい人工照明の光を反射している。
 男は、女がすぐに〝奉仕〟を再開すると思っていた。逆らうことは許していない……そのように〝教育〟してきたのだ。……だが、この時は違った。
 女性が端正な美しい顔を上げ、潤んでいるように見える綺麗なダークブルーの瞳で男を見上げた。
「ですが、御主じ……」
 突然、女性が床に身体を打ちつけられ転がった。容赦なく女性の顔を蹴った男が、玉座の前に立ち上がっている。冷徹な眼差しが女性を見おろしていた。
「……まだ何か言うことがあるか?」
 うつむいて頬を手で押さえた女性の細い肩が震えている。
「……いえ、申し訳ございませんでした」
「続けろ」と男が言い、「はい」と女性が答えた。
 唾液でぬらぬらと光る男の素足が目の前にある。たった今男が立ち上がったせいで、足の裏にはホコリや砂が付着していた。女性は床に頬をこすりつけるようにしながら、男の足裏に舌先を伸ばした……。

 やがて、男が再び口を開いた。
「目覚めつつあるな……お前の妹たちが……」
 女性の動きが一瞬止まり、すぐに再開した。
「それを感じたんだろう、セイリュウよ」
 女性がライトブルーの髪を揺らしてコクリと頷いた。
「ふ……別にどうということはない。竜の一匹や二匹……出てきたら叩くだけのことだ」
「…………」
 長い沈黙。部屋にはぴちゃぴちゃという音だけが響く……。足元に這いつくばる女性を見おろして、男がもう一度口を開いた。
「午後にはサルネイアが顔を出す……食事の用意をしておけ」


イラスト:J様

   *

「カイリ……」
「ああ……」
 〈離位置《テレポート》〉の魔法で屋敷の庭に戻ったカイリたちは、黒くなった地面の中心を見つめていた。そこには、原型がわからないほどに溶けて崩れた大きな箱の残骸。その周囲では細い煙が、何本も立ち昇っている。
「ここからじゃ、よく見えませんね」
 マティが宙に浮いたまま、ゆっくりと近付こうとする。
「……熱い」
 周囲の空気が熱かった。箱付近の地面は、まだ相当な熱を持っているようだ。マティが唱えようとした魔法を、カイリがすでに完成していた。
「〈衣蔽甲《シールド》〉……!」
 地面が白く光った直後に、二人と眠ったままのドライアードの身体が一瞬白く輝いた。汎数《レベル》1の基本的な防御魔法で、ある程度の熱も防ぐことができる。
 そのまま近付き、大きな箱の残骸を回り込んだ時、カイリはドキリとした。
 視界に入った紅《あか》いもの。全長十五センチ程度……ドライアードと同じくらいの大きさだ。全身を真っ赤なウロコに包まれたその生物は、確かに動いていた……。
「カイリ……」
「ああ……」
 同じセリフを繰り返すマティとカイリ。マティが指さしながら、少し後ろに下がった。
「……アレは何でしょうか?」
 カイリは逆に一歩前に出た。長い首……四足……長い尾……背には大きな翼……。肉食恐竜の頭と、首長竜の身体と、翼竜の翼を併せ持ったようなその姿は……。
「……ドラゴン……だな」
 ドラゴンの小さな赤子は、カイリを見つけて「ピイ」と鳴いた。大きな翼の割に脆弱そうな脚……歩くとヨタヨタと身体が傾く。カイリが両手を伸ばし、そっと持ち上げた。〈衣蔽甲《シールド》〉の魔法が効いていたが、予想以上に熱くて、思わず落としそうになるのをぐっとこらえる。
(最初が肝心だ……ここで放り投げたら、一生敵と見なされるだろう……。〝箱〟を起動させずに自然孵化させたんだから……)
 手のひらに軽く火傷《やけど》を負ったようだが、〈産触導潤《キュア》〉の魔法ですぐに治るはずだ。ドラゴンの大きな瞳とカイリの目が合った。その横で、マティがドラゴンをまじまじと見つめている。
 再び「ピイ」と鳴くドラゴン……その口から、小さな炎がポッと出た。「きゃ」と驚くマティに対し、動じないカイリ。
「よろしくな……ええと……」
 端が溶けたセラミック製の白いプレートが、カイリの視界に入った。そこにアルファベットが刻まれている。
 CODE DRAGON #1 〝SUZAKU〟
「……よろしくな、スザク」
「ピイ」
 生まれたばかりの小さなドラゴンは、ご機嫌なようだった。

 ~(3)へ続く

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