珈琲は一日二杯まで

笹谷の気が向いたときに気が向いたことを書く場所です

ゲームのことを書いたり、絵を描いたり、漫画を描いたり、小説を書いたり、適当に何でもありな趣味のブログです。

竜連れ3-3

 
「竜を連れた魔法使い」
目次
 第一話 沈まない太陽 (1) (2)
 第二話 手に入れた力 (1) (2) (3)
 第三話 竜たちの覚醒 (1) (2)


 第三話 竜たちの覚醒 (3)

 巨大な縦穴の底は、地上とはまるで別世界であった。染み出す地下水が、それを汲み上げる圧送器ごと凍結している。地肌が見えないくらい、視界を氷が埋め尽くしていた。
 吐く息が白い……。
 地の果てにあると言われる氷雪地帯とは、こんな感じだろうか。凍りついた手摺りに直接触れないように注意しながら、レイウルフは穴底に降り立った。見上げれば、白く淡い光に包まれた上空。そこからキラキラと光る微細な氷の粒が、たくさん舞い降りている。少し青みがかった白色の世界は、とてつもなく美しかった。
 ……そして、恐ろしかった。
 荘厳で神秘的な空間の中で、レイウルフはあまりに無力であった。汎数《レベル》1の魔法しか使えない彼にとって、〈衣蔽甲《シールド》〉の魔法と防寒具だけが自分を守る全てだ。寒さに震えていた手足は、今やほとんど感覚がなくなっている。
 彼の目の前に半分氷に埋まった金属製の大きな箱があった。高さは十メートル程度。五日前には一部しか見えていなかった箱が、発掘が進んだ今、その全貌を晒している。膨らむように歪んだ外壁に大きな亀裂がいくつも入っていた。その中の最も大きな亀裂は、ヒトが一人余裕で入れそうなほどだ。
「〈品浮《レビテート》〉……!」
 レイウルフは自分の身体を浮かせて、大きく口を開けた亀裂に右手を掛けた。
「…………!」
 思わず表情が歪む……うっかりしていた。手袋の外側に付着していた雪のように小さな氷の粒が、亀裂に触れた途端、大きな氷に成長したのだ。慌てて手を引き抜くと、手袋だけが壁に貼りついて奇妙なオブジェになった。
 そして……右手の手首から先が壊死《えし》していた。衝撃を与えれば、もげ落ちそうだ……。
「く……」
 弓使いの彼にとって、片手を失うことは戦力外通告と同じであった。死滅した細胞は、汎数《レベル》2の魔法〈産触導潤《キュア》〉でも元には戻らない……。
(なんてことだ……俺はまだ、エステル様のお役に立たなければいけないと言うのに……)
 エステルの言葉が脳裏をよぎる。
 ――無茶はするなよ……クールに見えてその実……。
 一人で先走りすぎただろうか……。気落ちしたレイウルフがその視線を上げた時。
 ……彼の金色の目が大きく見開かれた。全身に電気が走ったかのような衝撃は、右手のことを忘れさせる程だった。

   *

「これでよろしいですか?」
 〈離位置《テレポート》〉の魔法で戻ってきたマティが手にしていたのは、大きなバスケットと白い布だった。今朝、食料を運んできたのと同じものだ。バスケットの中には折りたたまれたタオルが敷かれている。
「うん、こいつももう、十分冷えたよ」
 カイリがスザクを持ち上げて、バスケットに入れた。全長十五センチ程度のドラゴンは、居心地を確認するように、お尻をフリフリしている。
「見かけの割に大人しい奴で助かるよ」
 カイリはスザクの上から、白い布をかけた。「ピイ」という、くぐもった声が聞こえた。
 マティがバスケットを見下ろしながら尋ねた。
「エサは何をあげたら、いいんでしょう?」
「……いらないよ」
 あっさりと答えるカイリに対し、マティは心配そうだ。
「でもカイリは、〝世話をし、教育しなければならない〟って言いました。エサでしつけるものじゃないのでしょうか?」
「うん……まずわかっていることは、こいつは生き物じゃないってこと」
「…………」
 マティが目をぱちくりさせている。カイリが微笑んだ。
「スザクは、ドライアードと同じ……精霊《スピリット》系の存在なんだ」
「精霊《スピリット》系……」
 ドライアードは、まだカイリの肩で寝ている。
「それじゃあ、エサも必要ないかもしれませんが、教育の必要も……」
 マティの考えは自然なものだ。精霊《スピリット》系は、ヒトに使役されるために存在している。教育などしなくても言葉を理解し、従順だ。少なくとも、この世界ではそう理解されている。
「ドライアードにも教育は必要だったんだよ。大昔にそれをしたヒトがいたはずだ」
 マティは納得できなかった。彼女が二千年間当たり前だと思っていたことを、カイリはあっさりと覆《くつがえ》す。大昔というのは、どれくらい昔のことを言っているのだろうか……。
「でも……ドライアードは生まれたばかりでも、初めから従順で……」
「精霊《スピリット》系はね……死なないんだ。死んだように見えても、生まれたように見えても、それはそう見えるだけ」
「…………?」
 首をかしげるマティ。説明するのが難しいなとカイリは思った。
 精霊《スピリット》系とは、一種の〝プログラム〟なのだ。プログラムに従ってその身体を形成し、学習し、命令を理解して実行する。少女としてのドライアードの姿は、インターフェイスにすぎない。姿が消えても、学習したプログラムは存在し続けている……。
「言葉を教える必要はないけど、情報は必要だ……スザクはまだ何も知らない」
「〝しつけ〟じゃなくて〝教育〟と言うのは、そういうことなんですね。ただ言葉で教えればいいんだ……」
 マティはなんとなく理解したらしい。
「じゃあマティ、〈離位置《テレポート》〉を頼むよ……エルフ族の族長さんのところへ」
「はい」
 マティの呪文で、地面が白く光った……。

   *

 レイウルフの視線の先に大きな氷の塊があった。その中に、十五、六歳のヒューマン族に見える全裸の少女がいた。立ち姿はスリムで、白い肌に長いストレートの黒髪が印象的だ。少女の漆黒の瞳が、レイウルフを見つめていた。死んだように冷めた視線だ。二十歳を越えるレイウルフの背中に冷たいものが走った。
 ……恐怖だ。
 相手は少女に過ぎないのに、まるでヘビに睨まれたカエルだった。理屈ではない……圧倒的な力の差を、本能が感じている。彼女がその気になれば、自分は一瞬で死ぬ……そう直感した。
 動けないでいるレイウルフの前で、少女が口を動かしたように見えた。
 次の瞬間……少女を包んでいた氷の塊が、砕け散った……。
 死の恐怖の中にいたレイウルフには、それがスローモーションに見えた。粉々になった氷の断片が、キラキラと光りながら放射状に飛んでいく……。指を開いて両腕を伸ばした少女が、自分に迫ってくる……。少女の黒髪が流れるように背後になびく……。
 トン……と音がした気がした。気がつくと、少女がレイウルフの胸に抱きついていた。
「初めまして、お父様……私が、ゲンブです」
 嬉しそうに頬を染めている少女の身体は、温かかった……。

   *

「他の竜が目覚めただって!? スザクも、ゲンブも、ビャッコも同時に?」
 クセのあるブラウンへアーのエルフ族の女が、スプーンを食器にぶつけてうるさい音を立てた。白いクロスがかかった大きなテーブルには、少ないながらも贅を尽くした食事が並べられている。同席している初老の男は、客人の行儀の悪さを気にしていないようだ。
「気にすることはない、サルネイア。竜の力は強力だが……」
「あんたが今の地位にあるのは、そこにいるセイリュウのおかげだろ!? 生まれた竜が、〝箱〟を使って起動させた者に絶対服従する仕掛けがなけりゃ、あんたなんて、ただのじじぃじゃねぇか!」
 男のグレーの瞳が冷たく光った。その目を一瞬見ただけで、黙るサルネイア。男は冷静だった。
「わかっていないな、サルネイア。この世界の最大の力は知識なのだ。知識さえあれば、何でもできる……セイリュウを手に入れたのも、その知識があったからこそだ」
「その知識ある奴を利用することを知っている私こそが、世界の主人にふさわしいと思うがね」
 男の横に控えているセイリュウが、しばしの沈黙を冷静に見つめていた。彼女の主人に比べれば、エルフ族の小娘にすぎないサルネイアは、取るに足らない存在だ。プライドの高い主人が、なぜこのように生意気な女の存在を許しているのか理解できない。エルフ族の族長エステルも、サルネイアには一目置いていると聞いているが……。
「わかってるよ……あんたは、この世で唯一、全ての魔法を使いこなす男だ。誰もあんたには勝てないさ。たぶん、本気の竜でさえ……」
 食事を終えたサルネイアが、席を立った。
「また来るよ、二千年前の亡霊さん。あんたの力を引き継げるのは、私しかいないんだ」
「……お前は、あと三年で世界が滅びる話を、まだ信じていないのか?」
 男とサルネイアの視線がぶつかった。……冷めた溜息を漏らすサルネイア。
「まるで。全然信じてねぇよ」
 吐き捨てるようにそう言うと、〈離位置《テレポート》〉の呪文を唱えた。
「じゃあな、初代カイ・リューベンスフィア」
 クセのあるブラウンヘアーが風に舞い、サルネイアが姿を消した――。

 ~第三話完、第四話へ続く



コメント

追記されたところに、新たな真実がっ!!!
しかも、情報が追加されたところに新たな謎がっ!!!
また一週間ダルメルに・・・

◆Aryuさん
一回分の文章量をだいたい揃えようかなぁなんて思ったりしたら、最後が短かったので足してみました。
早く完結まで向かいたいと思って、ネタの出し惜しみをしなくなってますけど……ペース配分が難しいです( ̄▽ ̄;

Sな爺さんが初代カイ・リューベンスフィアだったとは!

カイ同士の戦いが見ものですね!

それにしても精霊の仕組みって、プログラムとかインターフェースの
話しが出てきたから、なにか大きなシステムってことなのかな?
このへんはSFっぽいですね。

◆Leppardさん
あ、そうですね!
精霊や魔法の仕組みのあたりは、早々に公開したいと思います。
どんどん出していなかないと、ストーリーの方が進まない気がしてきていますので( ̄▽ ̄;

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