珈琲は一日二杯まで

笹谷の気が向いたときに気が向いたことを書く場所です

ゲームのことを書いたり、絵を描いたり、漫画を描いたり、小説を書いたり、適当に何でもありな趣味のブログです。

竜連れ4-1

 
「竜を連れた魔法使い」
目次
 第一話 沈まない太陽 (1) (2)
 第二話 手に入れた力 (1) (2) (3)
 第三話 竜たちの覚醒 (1) (2) (3)


 第四話 エルフの族長 (1)

 直径三十メートル以上の太い幹を持つ巨木がまばらに立ち並んでいる。てっぺんが見えないくらい高い木ばかりだが、枝が少ないおかげで地面に明るい陽だまりが揺れている。その中に、サッカー場が丸ごと入るくらい大きな木造の建造物がたたずんでいた。内部の造りとしては学校の体育館に似ていて、大きな入り口がある南面から覗くと、奥側の壁面に段差があり舞台のようになっている。その舞台袖――天井から垂れ下がった質素な装飾の大きな布の陰に、カイリとマティ、そして一人のエルフ族の老人がいた。
 広い建物内には、他に誰もいなかった。ここは、エルフ族の中央神殿エリア内にある第一催事場。種族規模の祭事の中心になったり、族長のエステルが公式の声明を発表する場である。
 いきなりこんな場所に〈離位置《テレポート》〉で移動できたのは、かつてマティがよく訪れていた場所であるからだ。〈離位置《テレポート》〉には、術者が訪れたことがある場所にしか移動できないという制約がある。さらにマティは、その連れまで神殿内に入場を許可する最重要人物の一人として登録されていた。そうでなければ、エルフ族の魔法結界内にこうもたやすく侵入することはできなかっただろう。
「お久しゅうございます、テクニティファ・マティ・マヌファ様」
 首席神官――それがどんな地位なのかカイリにはピンとこなかったが――が、最敬礼をしてから胸まで伸びた白いあごひげをさすって微笑む瞳は、慈愛に満ちていて物腰は優雅だった。三百歳を超えるという老エルフに、カイリも慌てて頭を下げる。
「出会えたのがあなたで良かったわ、ソロン」
 マティは顔見知りに会えて嬉しそうだ。「百年ぶりかしら?」と言うマティに、「九十一年ぶりでございます」と答えるソロン。だが、楽しい世間話の時間は短かった。
「ところで、エステルは――?」
 マティからの問いに、ソロンが口ごもった。視線をカイリに向けるソロンの様子を見て、マティが謝る。
「ごめんなさい。紹介が遅れたけど、こちらは……」
 そこまで言って、マティがカイリの顔色をうかがった。カイリはすぐに気づいた。マティはカイリを〝カイ・リューベンスフィア〟として紹介したいのだ。そうすれば首席神官ソロンが、カイリに対する警戒心を解いてくれるということなのだろう。だがカイリはマティに対して、〝生まれ変わりなんて信じていない〟〝カイリと呼んでくれ〟と言ってきた。ここでカイ・リューベンスフィアとして紹介したら、カイリの機嫌を損ねるのでは……と心配しているのだ。
 カイリがソロンに再び頭を下げた。
「二十一代目のカイ・リューベンスフィア……ということのようです。お見知りおきください」
 これでマティが動きやすくなるというのなら、それでいいとカイリは思った。

 顔を上げたカイリの目に飛び込んできたのは、興奮して今にも涙をこぼしそうな老エルフの姿だった。
「カイ様……!! ああ、再びお会いできる日がこようとは……! テクニティファ様と姿をお見せになった時から、もしやと……私は……」
 ソロンが震えながらカイリの腕をとり、うつむいて膝をついた。内心ではかなり驚いたカイリだったが、同時にカイ・リューベンスフィアが背負っている〝責任の重さ〟を実感した瞬間だった。横では、マティがもらい泣きをしている。
「ソロンは……九十年以上前にマスターと、私、エステル、リュシアスと共に旅をした仲間なんです……」
 震える声のマティ。ソロンの声も震えていた。
「何度も……助けていただきました……それなのに……私のせいで、カイ様は……」
 カイリの知らない過去の話だった。十四歳でこの世界に召喚された先代……二十代目のカイ・リューベンスフィアは二十歳で公に姿を現し、マティやソロン達と旅をした。世界を救うための旅を……。だが二十三歳で命を落とした。……ソロンのうかつなミスが原因だったらしい。九十一年の間、後悔の中で生きてきた老エルフが、今ただただ泣いていた。
「その……」
 カイリは、とまどいながらも今朝のことを思い出していた。マティが胸の中で泣いて震えながら叫んだ言葉。
〝お願いします、マスター! この世界を……この世界に生きる私たちを救ってください……!!〟
 この異常な……〝五千万年後の地球〟を救ってみせるという決意を思い出していた。
「ソロンさん……顔を上げてください」
 カイリの言葉を聞いて、白いあごひげまで涙で濡らしたソロンが顔を上げた。自分の十倍以上生きている老人が、まるで子供のように見える。
「俺は……先代の日記も読んでいます。そこには、あなたへの感謝の気持ちしかなかった。彼が世界を救えなかったのは、短かった生命のせいじゃない……だから気にしないでください」
 その言葉は、老エルフの両目からさらに涙をしぼり出したが、やがてソロンは落ち着きを取り戻したようだった。
「……九十一年前に世界を救えなかった理由を、カイ様はご存知なのでしょうか?」
「できれば、俺のことはカイリと呼んでください。呼び捨てで結構です」
 ソロンの言葉に、カイリはあっさりと答えた。
「先代のカイ・リューベンスフィアは知らなかったんです……〝竜〟たちの眠る場所も……彼女たちを目覚めさせる方法も……」
「〝竜〟……!!」
 何かを思い出したようなソロンの反応が、心にひっかかったカイリ。
「どうしました?」
「…………」
 実は……と、ソロンは語り始めた。族長エステルのことを。
 エルフ族の族長エステルは、現在公式には、行方不明ということになっている……が、実際は違う。神殿護衛隊隊長のサルネイアに族長代行を任せ、臨時に集めた数十人の部下と共に極秘裏に遺跡の発掘調査に没頭しているという。その遺跡とは、〝箱〟と呼ばれていた。このことを知っているのは、サルネイアと、森林防衛隊隊長レイウルフ、それにソロンを含む首席神官六人のみ。
「エステル様は、全くの偶然からその〝箱〟を見つけられました。その箱が、世界を救う鍵となる〝竜〟と呼ばれる存在と関係するかもしれないという話を、エステル様から直接お聞きしたことがあるのです。〝お前だけには話しておく〟とおっしゃっていたので、他にこのことを知る者はいないと思います」
 ソロンの言葉に、マティが驚いた。
「エステルが〝竜〟の存在を知っていたなんて……マスターとずっと一緒にいた私も知らなかったのに……」
 マティに優しく微笑むソロン。
「エステル様は、この九十年間、ずっとお一人で世界を救う手段を求めて調査を続けていらっしゃいました。孤独な取り組みだったと思います。今やエルフ族の誰も……いえ、宿敵であるドワーフ族の者達の中にも、世界の滅びが迫っていることを信じる者は少なくなっています」
 老エルフは寂しげだったが、その口調には力があった。
「ただエルフ族の中でも、かつてカイ様と共に旅をした私とエステル様だけは、世界が滅びることを〝知っています〟。カイリ様……あなたが現れてくださったことは、私たちにとって大いなる希望の光です」
 その通りだわ……とマティが頷いた。

 空気が変わった。いきなりだった。何か大きな存在が……全ての者を圧倒する強大な者が放つオーラが、カイリの背中を突き刺した。見開かれるソロンの目。カイリとマティが振り返った場所に、五歳くらいのヒューマン族……カイリと同じ人間のように見える少女が立っていた。
 無造作に伸びたボサボサの髪の色は真紅だった。燃えるような緋色の瞳がカイリを見つめている。彼女の背後に転がっているバスケットからは、かぶせてあった白い布が飛び出し、中身は空《から》だった。
「……行かなきゃ。ゲンブお姉ちゃんが、泣いてる……」
 少女が口にした言葉の意味を、理解できる者はいなかった。カイリ達の目の前で、第一催事場の舞台の床……少女の足元が赤く円を描いて光った。どんな魔法であっても、それを唱えた時に地面が放つ光は白かった。赤く光るのを見るのは初めてだ。
 その光の中で……少女の姿が、〝竜〟に変わった。
 体長は二メートル程度。頭の高さはカイリより少し低いくらいだ。全身を赤いウロコで包まれたその姿は……。
「スザク……なのか……」
 鋭い爬虫類のような目が、カイリを見つめている。生まれた時には十五センチくらいの大きさしかなかったスザクが、数時間でここまで成長した……そうとしか考えられなかった。
「カイリ様……これは……」
「落ち着いて。大丈夫です」
 ソロンとカイリの短いやり取りの間も、スザクはカイリを見つめたままだ。
「わかったよ、スザク。ちゃんと連れて行くから……十五分だけ待ってくれ」
 スザクが目を伏せるようにして、長い首の先の頭を下げた。
「どうするんですか、カイリ?」
 マティの質問への答えを兼ねて、ソロンに話しかけるカイリ。
「教えてください。エステルさんのいる場所……〝箱〟のある場所を。世界を救うためには、四体の竜を集める必要があります。……エステルさんも、私たちと会うことを望んでいるはずです」
 頷いたソロンが、詳しい場所をマティに説明し始めた。かなり複雑な場所にあるようで、時間がかかっている。その間、カイリは一人で呪文を唱えていた。ソロンと会話をしていたマティの身体がいきなり魔法の光で白く輝いた時には、二人が驚いてカイリを振り返った。が、カイリは微笑んで「気にしないで」と言った。
 カイリが最後の呪文を唱え終わった時、マティがそばに来ていた。
「〈離位置《テレポート》〉できそうな場所だった?」
 カイリの質問に、首を横に振るマティ。
「ここから私が〈離位置《テレポート》〉できる場所……ソロンもそこまでしか行ったことがなくて〈離位置《テレポート》〉できる場所は同じなんですけど……そこから、歩いて半日はかかりそうです」
「そうか……」
 カイリが目を上げると、スザクが待ち遠しそうにカイリを見つめていた。
「じゃあ、数分で行けるだろう」
「えぇっ!?」
 驚くマティに、カイリが笑った。
「身体を浮かせる魔法〈品浮《レビテート》〉に度等《ブースト》を乗せると、かなり高くまで空を昇れる。さらに〈衣蔽甲《シールド》〉で身体を守って……あとは、空を飛ぶスザクにつかまるか、乗せてもらえば……」
「空を……飛べる……??」
「ご名答……この大きさなら、スザクも飛べると思うんだ」
 カイリはカイ・リューベンスフィアの屋敷にあった本から、持ち前の特殊能力〝瞬間記憶〟で、あらゆる重要な知識……特に魔法に関する知識を得ている。そして、その知識を応用するだけの知恵を持っていた。


イラスト:J様

   *

 カイリ達が〈離位置《テレポート》〉で消えた数分後。第一催事場に姿を見せた者がいた。ソロンがうやうやしく敬礼したのは、ブラウンの髪を揺らせたエルフ族の若い女性。
「竜が目覚めたらしいぞ」
 族長代理サルネイアの第一声に、ソロンが驚いた。
「竜のことをご存知でしたか……」
「エステルの居場所を教えろ。詳しい場所を、レイウルフと貴様だけは知っているはずだ」
 有無を言わさぬ口調だった。

 ~(2)へ続く

コメント

おお いよいよ新たな物語が始まった!

4匹の竜をめぐる戦いがこれから始まるのですね!

◆Leppardさん
この先、どうなっていくのか……楽しんでいただけるといいのですが。
あまり展開させずに早く収束させたいと思ってはいますw

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