珈琲は一日二杯まで

笹谷の気が向いたときに気が向いたことを書く場所です

ゲームのことを書いたり、絵を描いたり、漫画を描いたり、小説を書いたり、適当に何でもありな趣味のブログです。

竜連れ4-2

 
「竜を連れた魔法使い」
目次
 第一話 沈まない太陽 (1) (2)
 第二話 手に入れた力 (1) (2) (3)
 第三話 竜たちの覚醒 (1) (2) (3)
 第四話 エルフの族長 (1)


 第四話 エルフの族長 (2)

 スザクの身体の大きさは、すでに乗用車なみに成長していた。背中の翼竜のような翼を広げると、左右の幅は十メートルはありそうだ。眼下に見える山々よりはるかに高い位置で、飛翔するスザクの背からカイリが降りた。それでも宙に浮いたままなのは、効果が切れそうになるたびに再詠唱を繰り返した〈品浮《レビテート》・度等《ブースト》2〉のおかげだ。
「あれか……」
 マティが指を差した場所を見下ろして、カイリが目を細めた。森に覆われた山の中腹に切り開かれた場所があり、直径三十メートル程度の巨大な縦穴が掘られている。徐々に高度を下げると、縦穴の内側に木材で組まれた足場が見えた。
 初めはウキウキした様子のマティだったが、徐々に無口になっていた。縦穴近くの地面に降り立ったが、人影が見えない。すぐに周囲を歩き回ろうとするカイリを、マティが止めた。
「待ってください、カイリ。人影が見えないのは、エルフ族が警戒しているからです」
「…………」
 カイリは、エルフ族が警戒心の強い種族であることを思い出した。危機を感じると物陰に潜み、姿を隠すのが彼らの常套手段だ。油断すれば、あっさりと彼らの剛弓の餌食となる。
「いるなら、姿を見せなさい! 私は、テクニティファ・マティ・マヌファ……」
 マティの言葉が終わらないうちに、一人のエルフ族が木陰から姿を見せた。つややかな光沢を放つ薄手の立派な魔法ローブを身に付けた彼女は、真っ白の美しい髪と理知的な碧《みどり》色の瞳を持っている。カイリを見つめるその表情は厳しかった。
「エルフ族族長のエステルだ。カイ・リューベンスフィアだな?」
 堂々とした態度の彼女からは、その存在の大きさを示すオーラが感じられた。二十代前半の若い女性に見えるのは、エルフ族だからだ。実際は二百歳になる……。
 慌てて声をかけるマティ。
「エステル! 久しぶ……」
「テクニティファは、黙っていてくれ」
 エステルの冷え切った言葉が、マティの口を閉ざした。カイリはエステルを見つめたまま頭を下げた。
「初めまして。ここに眠る竜に会いに来ました」
「竜はすでに我々のものだ」
 エステルとカイリが互いの表情を読みあっていた。二人の様子を交互に見ては、オロオロするマティ。人としての格は、明らかにエステルの方が上に見える。そして彼女の態度は、けして友好的には見えなかった。
「ここに、もう一匹の竜を連れて来たことには感謝するぞ」
 スザクは再び人の姿になっていたが、エステルが驚く様子はなかった。むしろマティの方が驚いた。スザクが十五、六歳の少女に成長していたからだ。竜の少女は、遠くからただ黙ってこちらを見つめている。地上に降りる前にカイリから、おとなしくしているように言いつけられていた。
 カイリが口を開く前に、エルフ族の族長が命令した。
「……死にたくなければ、おとなしくその竜をおいて立ち去れ」
「スザクを手放す気はない。そして……ゲンブをいただいていく」
 空気が凍りついたようだ……とマティが感じた瞬間だった。交渉決裂となるカイリの言葉が終わるか終わらないかのうちに、エステルが叫んだ。
「……〈消散言《サイレント》〉!」
 汎数《レベル》4の魔法だ。この汎数《レベル》の魔法を使える者を、マティは他に知らない。もちろんカイリは使えるだろうが、もう遅い。対象者周囲の空気伝導を遮断することで一定時間相手を黙らせ、敵の呪文詠唱を封じる魔法。魔法戦では無敵を誇るエステルの……静かなる最強魔法であった。それを遠慮なく最初に使ったエステルは戦闘の熟練者であり、カイリにとっては、これが初めての対人戦であった。
 悲鳴をあげるマティ。かつての仲間であるエステルと戦闘になるとは思っていなかった。一緒に旅をし、共に泣き、笑いあったのは、たった九十年前のことだ。エステルの戦闘能力をカイリに説明していなかった。カイリは……エステルが汎数《レベル》4の魔法まで使えることを知らなかったはずだ……。
 カイリの表情がゆがんでいた。
(やってくれる……)
 魔法を封じられたカイリは、棒立ちするだけのただの高校生であった。
 〈消散言《サイレント》〉を役名《コマンド》だけで発動してみせたエステルが、今度は通常の呪文詠唱を始めた。

 低目移行《ランクダウン》・汎数《レベル》2……
 通模《インプット》・要俳《キーワード》……
 〝電子の嶺〟……〝イオンの泉〟……〝電界の道標〟……

 その呪文を聞いて、マティがパニックした。彼女の知る最強の攻撃魔法だ。今のカイリは防御魔法さえ唱えることができない。カイリがエステルに殺される……あってはならないことだった。マティにとって……この世界にとって、二人とも大切な存在のはずだ。
 カイリは、近づこうとするマティに「来るな」と言おうとしたが、言葉が出なかった。〈消散言《サイレント》〉のせいだと気づいて、手振りでマティを止める。その間も、エステルの流暢《りゅうちょう》な詠唱は続いていた。

 転配《コンパイル》……
 役名《コマンド》……

「〈一気通貫《ライトニング》〉……!」
 役名《コマンド》の明示で完成する呪文。カイリに向けてエステルの右手が開かれていた。そこから、自然の雷と同じ一億ボルトの稲妻がほとばしった。大気を電離させて眩《まばゆ》く輝く雷撃が、轟音とともに一瞬で……カイリの身体を貫通した――。

 木々の陰から、カイ・リューベンスフィアとエステルの闘いを見守る者たちがいた。〝箱〟発掘に召集されたエステルの部下たちである。〝手を出すな〟と、族長からきつく命令されていたが、皆が弓を手にし、矢をつがえて待機していた。騎士隊以外の者は、戦闘慣れしておらず、緊張して手に汗をかいている。〈一気通貫《ライトニング》〉の白い光が一直線に伸び、あまりの眩《まぶ》しさに目がくらんだ後。エステルの部下たちは安堵の息を漏らした。族長の勝利を確信していた。
 エステルもまた、自らの勝利を確信していた。〈消散言《サイレント》〉+〈一気通貫《ライトニング》〉の連続魔法に耐えた者はいない。耐えられるはずもない。助かる手段があるとすれば、〈消散言《サイレント》〉の詠唱中に何らかの攻撃を仕掛けることだが、今回はその時間さえ与えなかった。唯一の懸念点は、カイ・リューベンスフィアが連れてきた竜の存在だったが、赤い髪の彼女は闘いを見つめるだけで、最後まで何もしなかった。
 だから……。
 何事もなかったようにたたずんでいるカイリを見た時。エステルは何十年も感じたことのなかった〝恐怖〟を心の底で感じたのだった。
 エステルがそうだったのだから、彼女の部下たちがパニックに陥ったのも、無理はないと言えるだろう。何十本という矢が、カイリに降り注いだ。……が、ただの一本さえ、カイリの身体に触れることはなかった。あせりで手元の狂った矢のほとんどは外れたし、当たるはずだった矢は、ことごとく折れて地面に落ちていた。
「闘いの準備をしていたのは、あなただけではありませんよ」
 カイリが優しさのない笑みを浮かべていた。マティは知っている。カイリが時折見せる、冷たい目を。容赦なく強力な魔法を行使する時の冷めた表情だ。……すでに、エステルがかけた〈消散言《サイレント》〉の効果時間が過ぎていた。
「〈消散言《サイレント》〉!」
 今度は、カイリが詠唱なしで〈消散言《サイレント》〉を発動させた。言葉を封じられたエステルは、動揺してあたかも動きまで封じられたかのように、一瞬硬直した。
 ……が、すぐに腰のレイピアを抜いた。細身の剣先を向けて一気に間合いを詰める。武道の心得どころか一般的なスポーツさえ苦手なカイリの喉元に、エステルの剣先が突き立てられ……はじかれた。
「どうして……」
 疑問を口にしたのは、マティだった。
「君が教えてくれたことだ」
 カイリが大したことではないように言った。
 ――魔法は、対象物と発動条件を決めておけば、あらかじめ唱えておくことができる。
 マティが〝この世界の言葉を話せるようになる魔法〟を、カイリにかけた時に話した魔法のルールである。このルールを利用すれば、詠唱の省略も可能というわけだ。
 エステルとカイリは、互いに互いを〈消散言《サイレント》〉の対象として指定していた。出会えば闘いになることを想定していたということだ。ソロンからこの場所を聞いている時に、カイリが魔法の詠唱をいくつもしていたことを思い出すマティ。おそらく何らかの条件をきっかけにして、今のカイリには空を飛んでいた時よりもはるかに強力な……度等《ブースト》を乗せた〈衣蔽甲《シールド》〉が発動しているに違いない。
 そこまで考えて顔を上げたマティの表情から、血の気が引いた。
「やめてください、カイリ……!!」
 遅かった。エステルに向けられたカイリの呪文が完成したところだった。エステルは、魔法の軍事用オプションである〝度等《ブースト》〟の存在を知らない。通常の〈衣蔽甲《シールド》〉では防げるはずのない魔法の役名《コマンド》を、カイリが口にしていた。
「〈一気通貫《ライトニング》・度等《ブースト》2〉……」
 ――森が震えた。

 ~(3)へ続く

コメント

どんどん、小説の世界に引き込まれてしまいました。

◆ゆつひあさん
コメントをいただけると励みになります。
どうもありがとうございます。
拙い素人小説ですが、また見にきていただけるとありがたいです。

おおおお
かっこいい、魔法戦ですな!

まえもって魔法詠唱できるのがいいですね。
そして、最後は敵より強い魔法で!
なんとなくバスタードを思い出しましたw

エステルは二十代前半の若い女性に見えるけど、二百歳を超えている。
ソロンは三百歳を超えているけど、胸まで白いひげが伸びた老人・・・。
九十歳ぐらいの老人の姿を想像したのだけど、
エルフは急激に老け込むのかしら???

◆Leppardさん
ありがとうございます。
バスタード……週間連載していた頃は見てました。
「やり直しを要求する~!」が印象に残っていますw

◆Aryuさん
すみません、そういえばエルフやフェアリの外見上の老化について作品中で触れてないですね。
そのうち書くようにします。

コメントの投稿


管理者にだけOK


管理者に連絡する(メールフォーム)
※コメントを投稿できない場合にご利用ください。管理者からの返信はできません。
トラックバックURL

HOME

カウンタ

  • 閲覧/訪問数 since 2005
    hits / visits

最新の記事
最近のコメント
カテゴリ
月別アーカイブ

リンク
プロフィール

  • Author:笹谷周平(ささ)
  • 誤字、脱字、リンクミスにお気づきの場合は、コメント欄にてお知らせいただけると助かります。

最近のトラックバック
商標/著作権等