珈琲は一日二杯まで

あずの気が向いたときに気が向いたことを書く場所です

ゲームのことを書いたり、絵を描いたり、漫画を描いたり、小説を書いたり、適当に何でもありな趣味のブログです。

竜連れ4-3

 
「竜を連れた魔法使い」
目次
 第一話 沈まない太陽 (1) (2)
 第二話 手に入れた力 (1) (2) (3)
 第三話 竜たちの覚醒 (1) (2) (3)
 第四話 エルフの族長 (1) (2)


 第四話 エルフの族長 (3)

 およそ三時間前。〝箱〟発掘現場における異常事態発生の報を受けたエステルが、現場に駆けつけた。騎士隊が見守る中、レイウルフが〈品浮《レビテート》〉で縦穴から姿を見せたところだ。そのレイウルフに、エステルの知らない少女が付き従っていた。十五、六歳のヒューマン族らしき少女が、防寒用フード付きローブを身に付けている。フードからのぞくストレートの黒髪も、細く白い手足も、わずかな穢《けが》れさえ知らぬように美しい……。
 少女の肩は震えていた。顔をこする手の甲の間から、ピンク色に染まった頬をつたう涙が見える。誰もが、どう声をかけていいのかわからない中で、エステルが落ち着いた口調で言った。
「その娘が、〝竜〟なのか?」
「箱の中にいたのは、この娘だけです」
 視線を落としたまま、率直に答えるレイウルフ。箱の中に……その言葉で、エステルは少女を竜だと確信したようだった。
「今からどうしたいか、お前の意見を述べてみろ」
 エステルの言葉に、レイウルフが顔を上げた。その目には、いつもの控えめでありながらも自信に満ちた光が消えている。
「わかりません……。もし許されるなら、少し休養を取らせてください」
「……だめだ」
 エステルの強い視線がレイウルフを貫いた。
「何があったか報告しろ。お前が判断できないと言うなら、私が決める」
 レイウルフの表情が固まった。族長のことは、生まれた時から知っている。

 エルフ族は老化のスピードに波がある。ヒューマン族が十歳になる頃、エルフ族の外見はすでに十五歳に達する。ところがエルフ族の老化は徐々に減速し、二十歳でヒューマン族に追い抜かれた後、百歳までその若い外見を維持する。そこから再び徐々に老化が進み、四十歳程度の外見に見える二五〇歳が、平均寿命である。
 現在二十一歳のレイウルフと二百歳のエステルが、一七九歳も歳が離れているにも関わらず、二十歳と二十四歳に見えるのは、そういうわけである。
 レイウルフが生まれた時、エステルはすでに二十二歳の外見を持つ族長であった。十二歳で森林防衛隊に入隊してからは、特に弓の才能を見込まれてエステルに厳しく指導を受けた。初めて二掃射の技……二本の矢を同時に放ち、二百メートル離れた場所に並ぶ二つの的《まと》に当てる技に成功した時……その時の族長の嬉しそうな笑顔を、一生忘れることはないだろう……。長い付き合いゆえに、レイウルフにはよくわかったのだ。
 族長は、怒っている……最も信頼する部下の不甲斐なさに……。

 若きエルフ族の男の目に、わずかに光が戻った。何があっても、信頼に応えなければならない……それが自分が選んだ道なのだから。
 それまで押さえていた右手から、左手を離す。その拍子に、右手から五本の指が離れて地面に落ちた。縦穴の底で箱の亀裂に手を掛けた時から、右手の手首から先は完全に死んでいた。黒髪の少女が慌てて地面にうずくまり、どす黒く変色した指をかき集めた。すすり泣きが大きくなり、エステルの耳まで声が届く。
「ごめんなさい……ごめんなさい、お父様……私のせいで……」
 それには構わず、レイウルフは自分が体験した出来事を、エステルと騎士達の前で語った。騎士隊隊長のラウエルが、あごひげを押さえて声をもらした。
「では、レイウルフ様……その右手は……」
「二度と使えない……早々に、森林防衛隊隊長の任を解いていただくつもりだ」
 うつむくレイウルフに、追い討ちをかけるようなエステルの言葉が続いた。
「たった今、森林防衛隊からの除隊を命じる」
 誰も何も言わなかった。族長の命令は絶対なのだ。そうでなければ、二十万人を超えるエルフ族の統制は取れない。
 レイウルフは、ただ地面を見つめていた。何をどう考えていいのかさえわからない。族長であるエステル様を支える立派な存在となることを目指して生きてきた。これまでの人生におけるあらゆる努力が否定されたようにさえ感じられる。
 レイウルフの視界には、地面にうずくまって震えている少女の姿だけが見えていた。その少女の丸めた背中に、白い手袋が重なった。エステルの右手だった。エステルがしゃがんで、少女に話しかけていた。
「お前、名は何と言う?」
 ……その瞬間、場の空気が変わった。
 信じられないほど強い緊張感が、そこにいる全員を包み込む。ラウエルが腰の剣に手を掛けようとしたが、思うように動けなかった。誰もが、地面にうずくまる少女を見つめていた。レイウルフが、氷の中にいる少女を見つけた時と同じ……本能的な恐怖だ。
 ゆっくりと顔を上げる少女。見上げた瞳は、氷のように冷たかった。
「……あなたは、お父様の敵ですか?」
 少女と目を合わせたエステルの声は、落ち着いていた。
「お前は、レイウルフが好きなのか?」
「もちろんです。信頼しています」
 睨《にら》むような視線の少女に、エステルが笑みをもらした。
「……私もだ」
 その言葉と同時に、場の緊張感が消えた。少女がきょとんとした顔でエステルを見つめている。
「その若さで子持ちとは、同情するぞレイウルフ」
 エステルがローブの裾を翻《ひるがえ》して背を向けた。
「お前には、新しい任務を与えることになる……極秘のな。それまで休め。それから……」
 レイウルフに横顔を見せるエステル。
「その少女の信頼に応えろ。それが当面の命令だ」
「は……はい」
 とまどうレイウルフに、エステルが笑顔をこぼした。
「見つけたお前が、対応を誤っていたら……お前も私たちも、この地で消えていたかもな……。よくやったな、レイウルフ」
 その笑顔は、レイウルフが初めて二掃射の技に成功した時と同じだった――。

   *

 もうもうと高く舞い上がっていた土煙が、風に運ばれて薄れた。
 〈一気通貫《ライトニング》・度等《ブースト》2〉を放ったカイリの目に映ったもの。それは、視界を覆うほどの岩壁だった。三階建てのビルほどの高さで、幅は百メートル程度。あまりに巨大なその岩壁は地面から生えており、付近の木々を容赦なくなぎ倒している。あまりの驚きに、マティは口を大きく開けたままだ。先程まで対峙していたエステルに、これほどダイナミックな魔法が使えるとは到底思えない。〈一気通貫《ライトニング》・度等《ブースト》2〉は、完全に遮蔽されていた。
「…………」
 黙ったままのカイリの前で、岩壁が沈み始めた。再び舞い上がった土煙が消える頃、岩壁は見えず、荒れた地面だけが残されていた。
「……君が……ゲンブか……」
 岩壁が沈んだ向こう側に、腰まで伸びた黒髪の少女が立っていた。エルフ族の衣服を身に付けた彼女を見て、感心するカイリ。
「さすが、土《ソリッド》系の竜だ……固体をここまで自由に操れるものなんだな」
 少女は両手を広げて誰かをかばっていた。彼女の背後には、左手のこぶしで上半身を支えるようにしゃがんでいる男。
「大丈夫ですか、お父様?」
「ああ、助かったよ、ゲンブ」
 そのエルフ族の男――レイウルフの背後に、エステルがいた。
「お前には休暇を与えたはずだがな、レイウルフ」
「エステル様を失うわけにはいきません……〈離位置《テレポート》〉が間に合って良かった」
 レイウルフのセリフを聞いて、白髪のエルフ女性が笑った。
「ゲンブがいなければ、お前も私も黒こげだったぞ……そういうのを無駄死にと言うんだ」
「それは、エステル様も同じでしょう」
 レイウルフも笑っていた。
 彼らの背後の森では、何十人もの部下たちが腰を抜かしていた。
「我ながら……よくこの歳まで生き残ってきたものだ」
 そう話すエステルの視線は、すでにカイリを見据えていた。

 カイリが前方の三人と、その背後のエルフ族の者たちを見つめたまま、マティに話しかけた。
「ごめん、マティ……俺は、大きな過ちを犯すところだった」
 マティが宙を移動してきて、カイリの肩に寄り添った。
「そうです、カイリ……この世界を救うのは、誰のためか……彼らのためだと言うことを、忘れないでください……」
 マティが小さな頭をカイリの肩に預けて、涙を流していた。新しいマスターが、信頼できる心の持ち主であることに感謝して……。
「ありがとうございます、カイリ……」
 その言葉を聞いたカイリが、肩の力を抜いて笑った。
「過去のカイ・リューベンスフィア達が、君に感謝していた理由がよくわかる」
 不思議そうな顔を向けるマティを肩から離して、カイリが前に歩み出た。
「……君と一緒にいると、正しいことをする勇気がわいてくるよ」
 マティの前で、カイリがエルフ族に向かって頭を下げてから言った。
「非礼をお詫びします。この世界を救うために、ぜひあなた方と協力したい!」
 すぐに、エステルの返事があった。
「こちらこそ、お詫びする。百年前と同様、あなたを歓迎することを約束しよう」
 やりとりを見ていたエステルの部下たちから、安堵《あんど》の息がもれ……そして、歓声が上がった。 

 ~第四話完、第五話へ続く



コメント

マティにも冷たく接し、カイリを敵としたエステルが
どうして急に和解したのか・・・
今の戦いでカイリが見せた魔法力だけではないのでしょうし、
素直に頭を下げてお願いしたからでもないのでしょうし・・・???

エルフは成長が早くて老化が遅いのですねー。
うらやましいですね。解説ありがとうございました。

◆Aryuさん
いえいえ、ご指摘ありがとうございました。
和解にいたった心理は、もっと詳しく書いた方が良いかもですね。

別に殺しても良かったのではと感じてしまった。
カイリの納得の仕方が謎過ぎて。
彼が特殊な頭脳を持ってるにしても、この世界にやってきてからの
最初のリアクションから、自分の使命を受け入れるまでの過程が
あまりに納得し辛いので。

現状、この世界の理屈があり、その為に世界を救おうと色々な存在が動いている訳ですが、異世界から来た人間はまず帰ろうと考えるのではないでしょうか? 元の世界がカイリにとって優しくない世界だったとしても、異世界に居座ろうと言う心理に行くのだろうか?

そしてまったく別の世界の危機を、自分の命をかけて守ろうなんて覚悟が簡単にできるのであろうか?

そういう部分の条件付けが少なすぎて超展開にしか見えない。

◆ボラーレさん
初めまして。
自分の使命を受け入れるまでの過程が~等、その通りだろうなと思います。
私の力不足ですね。
カイリが元の世界に帰ろうという意識が低い理由は、後の方で明かしていますが、読者さんに展開が納得できないと感じさせている時点で良くないですね。
貴重なご意見をありがとうございました。

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