ささやかに駅メモ!

駅メモの旅先でたまに娘キャラ活動と出会うブログ
→遭遇リスト

駅メモ!の世界に足を踏み入れたところ、なんだか楽しいのでそのまま彷徨い始めました。ウロウロ。怖くないですよ?

竜連れ5-1

 
「竜を連れた魔法使い」
目次
 第一話 沈まない太陽 (1) (2)
 第二話 手に入れた力 (1) (2) (3)
 第三話 竜たちの覚醒 (1) (2) (3)
 第四話 エルフの族長 (1) (2) (3)


 第五話 レッド・グー (1)

 与えられた部屋は、質素な造りながら十分に清掃されていた。窓から見える森の木々と、聞こえてくる川のせせらぎが、落ち着いた気分にしてくれる。ここは、エルフ族の族長エステルが〝箱〟発掘のために構えた簡易住居の一室で、発掘現場である縦穴から百メートルほど離れた川のそばである。空を駆ける光点〝ピージ〟は、とっくに沈まない太陽の向こうに消えていた。昼と夜の区別がないこの世界でも、人々はピージが地球を一周する二十四時間を一日の周期として暮らしている。今は真夜中と言える時間帯であった。
「カイリ……眠れないのですか?」
 木製のベッドで寝返りをうったカイリの目の前にマティが浮いていた。エステルとの小さな夕食会で、九十年前から用意していたというワインを振る舞ってもらった二人は、案内された個室に入った途端、熟睡していた。
「ぐっすり眠った分、早く目が覚めてしまいましたね」
「…………」
 カイリは、マティを見つめたまま黙っている。マティも黙った。カイリの表情を読もうとしているマティの心配気な表情を見て、カイリが小さな笑みを見せた。
「その……少し話をしてもいいかな」
「はい」
 カイリは、すぐに話そうとしなかった。それでもマティは、おだやかな表情で待っている。一分の沈黙を破ってカイリが口にした言葉は、自己嫌悪だった。
「俺は……いい気になっていた……んだと思う。誰よりも強い力を手に入れた……それで他人を見下していた……」
 自然に、小学生時代の自分を思い出す。〝瞬間記憶〟という特別な能力……それを自覚して思いあがっていた小学生の自分を、高校生になった自分は滑稽に感じているはずだった。そんな力があっても、幸せを感じることはなかったのだ。友達と呼べる存在ができたのは、その力を封じた中学生になってからだった。それが……〝魔法〟を手にした途端、小学生と変わらない優越感に浸っていた――。
「…………」
 黙って見つめているマティ。カイリが言葉を続けた。
「〈一気通貫《ライトニング》・度等《ブースト》2〉を、実際に放つ必要はなかった……」
 最初は違った。この世界を救うためには、力と覚悟がいる。鍵を握る〝竜〟の一体・ゲンブを手に入れた者に、それがあるのか……を、確かめる必要があった。力と覚悟……そのどちらが欠けていても、ゲンブを奪うつもりでいた。
 ところが……出会ったエルフ族族長は、期待以上の力と覚悟を持っていた。高校生の自分よりもはるかに大きな存在であった。そのことは、出会った瞬間に直感し、すぐに確信に変わった。〈消散言《サイレント》〉の先制攻撃……それを返されてもレイピアで切りかかり、汎数《レベル》4の呪文詠唱を聞いても、部下を置いて逃げたりはしなかった。
 その時点で、相手の力と覚悟を確かめるという最初の目的は達成していたはずだ。そして、わかった……エルフ族族長エステルもまた、同じ目的……二十一代目カイ・リューベンスフィアの力と覚悟を知るために、ケンカを売ってきたのだと。
 一言で言えば、〝熱く〟なっていた。〈消散言《サイレント》〉による予想外の先制攻撃を受けて、自分の力を見せつけたい衝動を抑えられなかった。
「ゲンブに〈一気通貫《ライトニング》・度等《ブースト》2〉を無効にされた時……正直言って〝腹が立った〟」
 一時的な感情に支配されていた。さらに高い汎数《レベル》の魔法によって、力ずくで岩壁に穴をあけてやろうかとさえ考えていた。
「でも……カイリは、エステルに頭を下げてみせました」
 マティの真面目な顔を見て、再びカイリが微笑んだ。
「……君がいてくれたおかげだ」
 マティの涙を見て、大切なことを思い出せた――。

 しばしの沈黙の後、カイリが横になったまま背を向けた。
「聞いてくれてありがとう……気持ちが落ち着いたよ」
「いえ……」
 どんな言葉をかけようか考えているうちに、マティは、カイリの肩が呼吸に合わせてゆっくりと上下していることに気づいた。遠慮がちに覗きこんだカイリの寝顔は、拍子抜けするほど落ち着いていた。
「カイリ……あなたはまだ、本当の幸せを知らないのですね……。この世界を救う旅は、きっとあなたに……」
 ピージが東の空に姿を見せるまでには、まだ時間がある。マティは一眠りするために、エルフ族が用意してくれた小さな寝床に戻った。

   *

「ナオマ……何だそれは?」
「ナノ・マシンだ」
 エルフ族特有の長い耳をぴくりとさせたエステルの言葉を訂正するカイリ。天井から幾重にも下がった布の間を、香茶の香りが漂っている。ここは、カイリが泊まった簡易住居内にあるエステルの部屋である。限られた人間だけで話がしたいというカイリの希望で、エステルが招いたのが、この部屋だ。テーブルには、昨夜の夕食会のメンバーであるエステル、カイリ、マティの三人に加えて、レイウルフと騎士隊隊長のラウエルがいた。少女の姿をしたゲンブ、スザクが部屋の隅にいて、ドライアードと遊んでいる。
 手にしたティーカップに口をつけてから、カイリがゆっくりと話を続けた。
「今からおよそ五千万年前……初めて、超遺伝子と呼べる詳細な惑星設計プログラムを内蔵したナノマシンを、日本と呼ばれる国のとある研究チームが完成させた」
 カイリ以外の者は、さっぱり理解できないという顔をしている。そのことは予想していたので、カイリは言葉を変えた。
「目に見えないくらい小さな虫が作られた、と思ってくれればいい。大きさで言えば、花粉や細菌よりも小さい……ウィルス程度……と言ってもわからないか。とにかく、大昔の人々が小さな虫を作ったと思ってくれ」
「はい……それで?」
 マティが続きを促した。
「その虫は、自分で仲間を増やすことができる。人の細胞がそうであるように、同じ遺伝子を持ちながら、設計図に基づいて様々な機能を持った仲間を増やす。傷つけば自己修復し、周囲の必要な元素を取り込んで自己増殖を繰り返す」
「我々が子を産み、増えるようなものか?」
 エステルの質問に、まぁそうだと答えるカイリ。
「ただし、増えるスピードが全然違う。その速度は、幾何級数的……要するに、ネズミ算だ。一個のナノマシンが一分で一個の仲間を産むとすると、二分で四個、三分で八個……大したことがないように感じるかもしれないが、こうやって増えていくと、一時間後には一億の一億倍の数になる。石も生物も空気さえもそいつらの餌になり……たった数時間で、この惑星《ほし》は、ナノマシンの塊に姿を変える」
 皆、ピンとこないという顔だ。
「この世界が、一匹一匹は目に見えないくらい小さな虫だけの世界になってしまうんだ……当時の研究者たちは、ぐにゃぐにゃでぶよぶよした灰色の塊をイメージして、それを〝グレイ・グー〟と呼んだ」
「ちょっと待ってくれ。魔法の仕組みの話じゃなかったのか? それに今の世界は、そんなことにはなっていないぞ」
 口を挟んだレイウルフに頷くカイリ。
「カイ・リューベンスフィアの屋敷にあった書物によれば、グレイ・グーの危険は、ナノマシンが実現するずっと前……その構想が科学界で話題にされるようになった頃から懸念されていたらしい。ナノテクノロジーの開発が禁止されていた時代もあったくらいだ。だから、開発されたナノマシンには、安全を最優先とする様々な機能と、フェイルセーフを基本とするインターロックシステムが設けられ、何千回も試験された。ある一つの誤算を除けば、それは成功したと言っていいだろう。地球がナノマシンに飲み込まれるようなことには、ならなかった」
「一つの誤算ですと……? そもそも、そのナノ……なんとかという虫は、何のために作られたのですか?」
 ラウエルの疑問にカイリが暗い表情を見せた。
「誤算の話は、後でします。そのナノマシンは、この惑星《ほし》を救うために作られました。今とは違う理由で、当時の地球は滅びかけていた……〝環境問題〟と呼ばれる問題によって……。地球全体の有害物質を取り込み、原子を並べ替え、有用な……あるいは無害な物質に変換する。また、環境負荷を地球全体で分散し、薄くしてやがて消す。それが、ナノマシンに託された最大の使命であり、今の世界を見る限り、その役目は果たされたと言っていいと思う」
「なんだって? 今も、そのナノマシンとやらが、世界中に存在しているっていうのか? この地面の中にも?」
 驚くレイウルフ。話を半分も理解できていないような顔だったが、彼なりに解釈しているようだ。
「そうだ……水の中にも空気の中にもいる。無害だけどね」
「魔法を唱えると、地面が光ることと関係があるんだな?」
 核心をついたエステルの言葉に、カイリが頷いた。
「そう……ナノマシンには、もう一つの目的があった。環境改善機能を、生活を便利にするために使えるようにしてあったんだ。その一つが自然エネルギーを利用したインフラ……電気や水を生活圏まで供給しているシステムの維持だ。もう一つが、ナノマシンの機能を個人が利用できるように用意された役名《コマンド》……それが、〝魔法〟だ」

 カイリがもう一度、香茶を飲もうとした時。テーブルのそばに、スザクとゲンブが立っていた。真剣な表情のゲンブが言った。
「お父様……たくさんの生物が、空からこちらに迫ってきています」
「……どんな生物か、わかるか?」
 レイウルフの問いに、ゲンブが口ごもった。上手く説明できないらしい。
「お父様の半分くらいの大きさで、二本の手と二本の足があります。武器らしきものを手にしています。多くの者は、顔が覆われるくらいの〝ひげ〟をたくわえ……」
 エステルが断定した。
「ドワーフ族の奴らだな。数と到着時刻がわかるか、ゲンブ?」
「数、およそ千五百……五分四十秒後に、この上空に到達すると思われます」
 ラウエルがあせったように立ち上がった。
「その数は……エステル様の不在を知り、大戦でも始めるつもりですか、奴らは!?」
「どうかな……それなら、中央神殿エリアに向かうだろう……何より、洞窟に暮らすような奴らが、空から来ているということ自体が異常だな」
 見た目は落ち着いているが、エステルの思考は常人をはるかに超えるスピードで回転しているようだった。
 スザクがカイリに向かって、ぽつりとつぶやいた。
「その中に、ビャッコ姉がいるよ……」

 ~(2)へ続く


コメント

ナノマシンが魔法の正体で炎や雷を起こす。
テレポートはどうやっているのでしょう?
ナノマシンが人間を運ぶ姿を想像してしまいましたが、
一瞬で遠くに移動させるとなると・・・
ここでとある仮説が浮かんだのですが「サイレント」。

最後の竜の目覚め。
ビャッコと共に、大軍でおしよせるドワーフの真意は?!
3人の竜が出会うとき、何かが起こる?!
ソリッド系と言われたゲンブ以外の
スザクやビャッコの能力も謎のままですが、次回その一端があきらかになるのでしょうかー?

◆Aryuさん
ナノマシンがどのように働いて魔法になっているか、もう少し説明する描写を今後入れようとは思っていましたが、テレポートは直感的にもわかりにくかったかもですね。
そんなにヒネった設定でもないのですが、いろいろと想像してもらえるのは嬉しいです。
今回、この小説の一番のキモとなる設定を明かしましたので、あとは気楽にいろいろ想像しながら読んでいただけたらいいなぁと思います。
例によって、コメントのレスでネタバレはしませんけど!

ほほー
魔法の正体はナノマシンでしたか!

SFとファンタジーをうまく融合させた設定ですね^^

と、なるとエルフやドワーフなどの種族は、人類もしくは
DNAを操作して造られたのかな?

◆Leppardさん
ナノマシンという言葉自体は私はあまり好きではないのですが、他にわかりやすい言葉もなかったので、そうしましたw
エルフやドワーフのことも含めて、この設定は、ナノテクノロジーという言葉が今ほど使われていなかった、20年近く前に私が描きかけた「ラストデイズ」というタイトルの漫画の設定だったりします……あ、言っちゃったw( ̄▽ ̄;

うーむ、まさにS(science)・F(fantasy)。魔法という曖昧なものでも科学という容器に突っ込んでしまうとできる。

遠くても未来に、こういった魔法に近い技術というものが確立されるといいですよね。

◆くろはねさん
初めまして。
言葉を発するのって、結構エネルギーが必要ですよね。
声で操作できる家電がなかなか流行らないのは、声を出すよりボタンを操作する方が楽だからだと思うんです。
そういうわけで、便利なのは歓迎ですが、実際には呪文が不要な世界が希望です!

コメントの投稿


管理者にだけOK


管理者に連絡する(メールフォーム)
※コメントを投稿できない場合にご利用ください。管理者からの返信はできません。
トラックバックURL

HOME

駅メモ関連リンク
最新の記事
最近のコメント
駅メモ!便利ツール
駅メモ!個人サイト
ブログ内検索

カウンタ

  • 閲覧/訪問数 since 2005
    hits / visits

月別アーカイブ

プロフィール

  • Author:笹谷周平(ささやか)
  • 誤字、脱字、リンクミスにお気づきの場合は、コメント欄にてお知らせいただけると助かります。

カテゴリ
旧知リンク
商標/著作権等