珈琲は一日二杯まで

あずの気が向いたときに気が向いたことを書く場所です

ゲームのことを書いたり、絵を描いたり、漫画を描いたり、小説を書いたり、適当に何でもありな趣味のブログです。

竜連れ5-2

 
「竜を連れた魔法使い」
目次
 第一話 沈まない太陽 (1) (2)
 第二話 手に入れた力 (1) (2) (3)
 第三話 竜たちの覚醒 (1) (2) (3)
 第四話 エルフの族長 (1) (2) (3)
 第五話 レッド・グー (1)


 第五話 レッド・グー (2)

 上空一万メートルを、秒速三百メートルを超えるジェット気流が吹き荒れている。カイリがこの世界に来て初めて見上げた空では、雲がすさまじい勢いで流れていた。その眺めは、一時的なものではない。
 太陽が沈まない……それは、惑星の自転周期が公転周期に一致していることを意味している。月が常に地球に同じ面を向けているのと同じことだ。地球の昼間側……巨大に膨れ上がってその輝きが弱くなった太陽に面した側では、海が干上がり、砂漠が広がっている。逆の夜側は、氷の世界だ。砂漠と氷の世界に挟まれた帯状の人類生活圏における温度と湿度を保っているのが、上空を流れる〝人工的な〟ジェット気流なのである。
 そのジェット気流のはるか下。地上から五千メートルの高さを流れるひつじ雲の間を、高速で移動する集団がいた。その数、およそ千五百。その者たちの外見は、背が低く丸く太った老人に見える。その誰もが筋骨隆々で、金属製の鎧を着込み、斧か剣を装備している。ほとんどの者が、もみあげから続く長いあごひげをたくわえていた。それがバタバタとはためき、いかつい顔が風圧に歪んでいるにも関わらず、あぐらをかいた姿勢で前方を見据えている。何かに乗っているわけではない。ただ宙に浮いたまま座っているのだ。彼らの耳は尖っているが、エルフ族のように長く飛び出してはいなかった。
 そのドワーフ族の集団の中心に、鉄で造られた厚さ三センチの板が飛んでいた。二十畳程度の広さがある鉄板の上は空気の壁で守られており、風をほとんど感じないようである。そこに四人の人物がいた。
 硬い鉄板の上に直接あぐらをかいて座っている二人のうちの一人は、赤みがかったあんず色の髪とひげをもつドワーフ族だ。釣りあがったギザギザ眉毛の下に見える、まつ毛の長い垂れ目は、見る者を萎縮させる獰猛さを覗かせている。その彼が、向かいであぐらをかいている同じドワーフ族の銀髪で銀のひげをもつ男に盃《さかずき》を差し出した。
「飲め、リュシアス。お前が連れてきた〝竜〟とやらのおかげで、我々はついに、クソエルフ野郎共との長い戦いを終わらせることができるんだ!」
 勇ましいながらもその目に思慮深さと優しさを秘めた銀髪のドワーフ族は、手のひらを相手に向けるだけで盃を受け取らなかった。
「レブ……いや、今は族長レブリオス様だったな」
「昔通り、レブと呼んでくれよ、リュシアス。一人旅に出ていなければ、お前が族長になっていたはずだ。よく帰って来てくれた。しかも強大な〝力〟を連れてな」
 くっくっくと笑い、悦に入っているドワーフ族族長の顔は、すでに酔いがまわって赤らんでいる。
「大したものだ……ビャッコと言ったか。これだけの大軍を飛行させるなど、チンケな魔法しか使えんエルフ共が見たら、それだけで腰を抜かすぞ!」
 大笑いする族長レブリオスに対し、リュシアスの背後に控えて立っている女性は冷静だった。
「風《ガシアス》系の竜ゆえでございます。全ての気体は、私の支配下にありますゆえ」
 美しく輝く白髪を後頭部でシニヨンにした丸眼鏡の理知的な女性は、二十歳前後に見える。胸元に白いブラウスがのぞくベージュ色のテーラードスーツにタイトスカートという姿でまっすぐに立っていた。すました顔が、酔ったレブリオスの癇にさわる。
「ふん……もう少し愛想良くできんのか。こっちに来て、酌をせえ」
「…………」
 ビャッコは、レブリオスの言葉が聞こえていないかのように、流れる雲を見つめている。リュシアスは何も言わなかったが、レブリオスがそれ以上ビャッコに絡むことはなかった。
「ところで、サルネイア……」
 レブリオスが、鉄板の上にいる最後の人物……腕を組んで少し離れて立つエルフ族の女性に話しかけた。ゆるやかな風になびくブラウンの髪を手でおさえて振り返るサルネイア。
「なんだ?」
「エステルが少数の部下しか連れず、ベアーマウンテンの山奥にいるってのは、本当なんだろうな?」
 サルネイアが、ドワーフ族の族長を蔑《さげす》むように見おろした。
「私が今まで、間違った情報を流したことがあるかよ? 信じないなら引き返せばいい」
「くそ……どいつもこいつも……」
 不機嫌なレブリオスに、ビャッコが告げた。
「まもなく、目的地に到着いたします」
 それを聞いて顔を輝かせるレブリオス。
「よし、伝声管を出せ!」
 勢い良く立ち上がると、周囲の大軍を見渡してからレブリオスが咳払いをした。実際には、伝声管など存在しない。ただビャッコが、レブリオスの声をドワーフ族の兵たちに伝える空気の音声増幅経路を作っただけである。伝声管とは、地下で暮らすドワーフ族が普段使っている声を伝える金属パイプのことだ。
「野郎共、よぉく聞け! まもなく目的地だ。着いたら、目に入ったエルフ共を皆殺しにして、エステルをあぶり出すんだ。バックアップは心配するな。俺達には、竜がついてる!」
「おい、待て!!」
 命令を終えたレブリオスの肩を、リュシアスがつかんでいた。
「話が違うぞ、レブ! エステルとは話し合いに来たはずだろう!?」
 肩をつかまれたまま、百年前の戦友に見下した表情を浮かべるレブリオス。
「……〝族長様〟と呼べ、この変人野郎」
 リュシアスが唇を噛んだ。ドワーフ族においても、族長の命令は絶対である。


イラスト:J様

   *

「スザク、来てくれ」
「うん」
 カイリに呼ばれて、真紅の髪の少女が部屋の隅についてきた。ロングでボリュームの少ない天然巻毛が可愛らしくふわふわと揺れる。スザクは、ゲンブと同じ十五、六歳に見える姿で、その成長を止めているようだった。
 ほぼ同時に、エステル、レイウルフ、ラウエルが部屋から出ていった。部下たちに指示を出すためだ。少し遅れてゲンブがレイウルフの後を追っていったので、部屋に残ったのは、カイリ、マティ、スザク、ドライアードの四人だけになった。
 真剣な表情でスザクを見つめるカイリ。
「いいか、スザク……ビャッコが俺達に敵対した場合……」
 カイリの言葉に、スザクが緊張した表情を見せた。これまで感情に乏しく見えた少女は、少しずつ心の片鱗を見せ始めている。
「土《ソリッド》系のゲンブでは、風《ガシアス》系のビャッコに対して、勝ち目はない。だけど……火《プラズマ》系のお前なら、有利に闘えるはずだ」
「竜は……竜どうしは、争ったりしないもん!」
 必死の表情で見上げるスザクに、首を横に振って見せるカイリ。
「本来はそうだ……お前たち〝竜〟は、日本が極秘裏に開発した特別な精霊《スピリット》系……ナノマシン上で動く独立プログラム。有事の際に、四体の竜が協力して日本を防衛するために造られた……」
 スザクもマティも黙って聞いている。
「だが、お前たちが入っていた〝箱〟が問題なんだ。お前とゲンブは、箱が起動しないまま生まれた。特にゲンブは、エステルが発掘を始めた一年前に、身の危険を感じて自ら目覚め、独自に成長していたから……自《みずか》らの意思を優先する力を強く持っている。だけど、もしビャッコが箱を使って誕生した竜なら……彼女は、その主人の命令に従うことになる。例えそれが、他の竜を攻撃する命令であってもだ」
 息を呑むマティ。スザク自身が、他の竜との争いを望んでいないことは明らかだ。彼女は、他の竜たちを〝姉〟と呼んでいる。
「俺は……」
 カイリが声を落とした。
「俺は、四体の竜を全て味方にしなければならない。でなければ、世界を救えない……。それでも……もし、ビャッコやセイリュウと、お前たちが争うことになったら……」
 悲しい顔を見せるカイリを見て、スザクが不安を顔に浮かべた。
「カイリ……?」
 カイリはそれ以上何も言わなかった。少しの沈黙の後、カイリが訊いた。
「スザク……お前は、俺達のことをどう思ってる?」
「好きだよ……大好き!!」
 見ると、スザクが涙を浮かべていた。カイリの悲しげな顔が、彼女の心を揺さぶっているのだった。カイリの手のひらに、初めて小さな竜のスザクを持ち上げた時に感じた熱さが蘇る。気がつくと、スザクの頬を手のひらで撫でていた。まだ子供の心のままのスザクの涙を、指先で拭いてやる。
「俺も……好きだよ……竜の中で、お前を一番可愛く思っている……」
 スザクが、カイリにしがみついてきた。
(本当は……感情なんか関係なく……四体の竜を手に入れなければいけないんだ……でも、もしお前たちが争うことになったら、俺は……他の竜を殺すかもしれない……)
「カイリ……」
 声をかけたのは、マティだった。
「人は……全てを愛した時に、本当に幸せになれるんですよ。そして、愛に優先順位があることは恥ずかしいことではありません……身近な人を愛せる人が、世界を愛するんです」
 一瞬、泣きそうな表情を浮かべるカイリ。
「ありがとう、マティ……」
(世界よりも、マティを……そしてスザクを守りたい……それが俺の本音だ……)
 少し吹っ切れた気がした。それを認めたことで、沸いてくる力を感じる。
「そうだ……だからこそ、本当に……世界を救いたいと思う」
 マティが頷いている。
 窓から風が吹き込んだ。そこから見える空に、たくさんの黒い点が見える。千五百のドワーフ族の大軍だった。

 ~(3)へ続く

コメント

リュシアス、1500人の武装した兵を連れて「話し合い」は無いでしょうー。気づいてよ
それにしても、そんなドワーフのおじいさんたちが 胡坐 をかいて空を飛んでるなんて・・・
緊迫した場面のはずなんですが、想像したら笑っちゃいました。
なかなかシュールですね、飛行する胡坐をかいたおじいさんの大群(笑)

◆Aryuさん
しかも風圧で、顔がつぶれてますし。
呼吸とか大丈夫なのかな……( ̄▽ ̄;

やっぱり あのエル姉さんは裏切ったんですね~
族長の地位をもらうかわりに、ドワーフと手を組んだというところでしょうか。


◆Leppardさん
いつもコメントをありがとうございます♪
エル姉さん……については、今後も動向を見守ってあげてください。
伏線だけ結構張っていながら、まだ触れていないことばかりですからね~。

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